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133.王都へ行こう [SIDE リュカ]

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「リュカ、本当に行ってしまうのね……」


「前からジュスタンには王都に来いって言われてたんだ。でも母さんが心配だから断っていたんだよ。だけどさ、再婚とはいえ新婚家庭に居座るほど俺も野暮じゃないからちょうどいいんだって! ちゃんと領主様の許可も貰ったんだし、もうジュスタンにも手紙を送ってあるんだから! ……行ってきます」


「たまには顔を見せに帰って来るんだよ。気を付けて! 坊っちゃまにもよろしく伝えてね!」


「わかったよ!」


 一度は引退した愛馬キアラで走り始めた俺の背中に、母さんが声をかけた。
 乳母をしていたとはいえ、いまだにジュスタンの事を坊っちゃまと言うのが笑える。


 言われた本人の前で笑うと怒るから、いつも我慢していたけどな。
 振り返って片手で手を振り、向き直ると王都への道を走らせる。
 ずっと一人でいるのは初めてで、途中でキアラに話しかけながらの移動だ。


「急げば一日で到着するって言ってたけど、ヴァンディエール侯爵領から出るなんて滅多にない事だもんな。せっかくだから色々寄り道して行くかぁ。それにキアラ、老馬と言えるお前に無理はさせられないからな」


 キアラは引退した先輩騎士が乗っていたのを俺が乗り継いだから、俺と同じ二十二歳だったはず。
 軍馬として引退はしていたのだが、王都のジュスタンの元へ行くと領主様に言ったら譲ってくれたのだ。
 ジュスタンは両親から愛されてないと言っていたが、なんだかんだ気にかけられていると思う。


 これまで侯爵領で騎士として稼いだお金の半分は、母さんに再婚祝いとして置いてきた。
 母さんの再婚相手は俺が15歳の時、親父が病で亡くなってからずっと親切にしてくれていた騎士団の上官。
 お金には困らないだろうが、もしもやっぱり別れるとなった時に必要になるのはお金だからな。


 中隊長となってから俸禄も上がり、いつか王都に行くとわかっていたからしっかり貯めてあった……つまりは今の俺は結構な小金持ち!!
 貴族のように屋敷を買ったりはできないが、数年はのんびり暮らせるくらいには持っている。


「他の奴らは旅仲間がいて楽しそうだなぁ。いつ盗賊が出るかわからないし、一人旅するやつなんてほとんどいないから当然か。だけどあの・・ヴァンディエール侯爵領騎士団で中隊長にまでなった俺だからな、キアラは絶対守ってみせるぜ!」


 カッコイイ言葉をかけてみるものの、キアラはカッポカッポとのどかに蹄の音を街道に響かせるだけだった。
 この調子で進んでいたら、王都まで二日……いや、三日かかるかもしれない。
 どうやら噂では聖女様達と東に向かったジュスタンが、もう王都に戻ってきたとか。


 領都に寄ってくれて会えたなら、俺も一緒に行くと言えたかもしれないが、キアラに乗っていたら隊列を乱して置いて行かれたかもしれないな。
 だがまぁ、第三騎士団に入ったら、必要な時に乗る馬も貸してもらえるだろう。


「そうなったらお前はまた荷馬車を引かされるのかなぁ。体力さえあれば度胸もあるし、最高の軍馬なんだけど」


 途中で休憩したり、食事のために村や町に立ち寄りながら移動を続けていると、陽が傾きかける頃には領地の境目に来た。
 ヴァンディエール侯爵領は騎士団が強くて有名だからか、盗賊が出たなんてほとんど聞いた事がない。
 しかしこういう領地の境目に盗賊が出て、隣の領に逃げ込むなんて事を耳にする。


 今の俺は旅装束で、帯剣している以外は騎士だと匂わせるものもは何もない。
 しかも乗っている馬はあきらかに若くないとくれば、盗賊からしたらいいカモに見えるだろう。


「おい! そこの!! 命が惜しけりゃ持ってるモン全部置いてきな!!」

 
 木陰を作る目的で植えられた街道の両脇の木の陰から飛び出して来たのは三人、だがあと二人まだ隠れている気配がする。
 盗賊団というには規模が小さい。幸いキアラは驚いた様子もなく落ち着いている。


 見ているだけで異臭がしそうな男達は、鉈やショートソードなどバラバラな武器を持ってこちらを威嚇しながらジリジリと近付いて来た。


「おい、間合いに入ったら首をねるぞ」


 あと三歩進んだら一人目の男が俺の間合いに入るな。
 俺は帯剣している柄に手をかけた。


「見ろよ、コイツ強がってやがる」


「へへっ、こっちの人数がわかってねぇんじゃねぇか?」


「お前達五人・・合わせても、鬼人オーガより弱そうだから俺に勝つのは無理だぞ」


「くっ、ゴチャゴチャうるせぇっ!」


 左側からショートソードを持った男が斬りかかってきたが、その刃が届く前にそいつの首が地面に落ちた。
 元軍馬で俺の相棒だったキアラは、わかっているとばかりに俺の動きに合わせてくれる。
 おかげで返り血も浴びずに済んだ。


「ひ、ひぃっ!!」


「なんて奴だ! 人を殺して顔色ひとつ変えてねぇ!」


「おいおい、お前らに言われたくないんだが? ここからだと……隣のスタール伯爵領の町が一番近いな。どうせお前らもスタール伯爵領のヤツらなんだろ? 皆殺しにされたくなかったら隠れている二人も出て来い、大人しくするならそこに転がっているヤツを連れて帰らせてやる。間違っても逃げられると思うな?」


 そう言って脅すと、ビクビクしながら左右の木の陰から二人が出て来た。


「お前ら二人で身体を、お前はそいつの頭を持って歩け」


「「「ひぃっ」」」


 仲間の死体を持って歩くなんてそりゃ嫌だろう、だからといってここに放置するわけにもいかないからな。
 四人をせっつきながら、最寄りの町ファオルを目指した。
 事情聴取もあるだろうし、ジュスタンに会えるのは少し遅くなりそうだ。
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