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第六章: メトロポリタン・ラブストーリー

第三話

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休日二日目は比較的ゆっくりとしていた。アーロンたちは先に出かけていて、何やらエレメント博物館に行くらしい。博物館好きすぎだろ、と思ったが、エレメント博物館の内容を聞いて、興味が湧いた。

もともとクラフティングはエレメント、クラフトをしている者の記憶を用いて、何かを作る技術なのだが、何でも作れる訳じゃない。これは少し語弊があるが、正確に言えば、誰でも何でも作れる訳じゃないってことだ。

例えば、俺のエレメントでは複雑な機械とかは作れない。それを作るにはやはり専門的な知識が必要になるからだ。つまり、機械の外側はイメージで作れても、中身を知らないとちゃんと機能する物は作れないと言うことだ。

そこで、エレメント博物館がある。そこでは技術者によってクラフトされた物が陳列されていて、その物体の中身までちゃんと見せてくれるらしい。自分で色々な物をクラフティングしたい人には持ってこいの場所だ。俺も時間があれば行ってみたいかもしれない。

だが、今日はカンナとのデート二日目だ。エレメント博物館は興味深いが、デートする場所としては正直言って微妙だ。今日も昨日と同じロビーの前にあるソファーで待ち合わせている。

初デートは緊張したが、人生で初めてあんなに楽しんだ気がする。それに、カンナのことをもっと知れたし、良い日になった。なので、今日の俺はあまり緊張していない。二日目ともなると、この余裕感。女性とデートするのも慣れたもんだ。今日は待ち合わせ時間より30分も前に来ることもなく、10分前に着くようにしていた。

「お待たせ!待った?」
しばらくすると、カンナがやって来た。

「いや、今来たばっかだ」
少し待っていても、敢えて言わない。俺は何も言わずに余裕のある男を演じる。

今日のカンナは、初日のゆるふわ系女子みたいな服装とは打って変わって、ボーイッシュな感じだった。少しタイトなジーンズに上は白の七分袖のシャツ。昨日の服装はお嬢様みたいな大人っぽさだったが、今日のはサバサバ女子って感じのクールな大人っぽさで、これもまた良い。

「あのね、ハジメ」
カンナが両手を合わせ、後ろに持っていき、モジモジしながら言った。何だ、何が始まるんだ。そんな顔で見ないでくれ!

カンナは頰を少し赤らめ、前屈みになった。ヤバイ。屈んだことによって、シャツの隙間から胸の谷間がちょっと見えてる。これは計算なのか?もし計算じゃないなら、とんだ天然娘だ。それにしても大きいな。服の上からでも、膨らみで大きいのが分かる。

「今日は私に案内させて?」
急な提案に戸惑ってしまった。こういうのは、てっきり男の方が全部やるもんだと思っていたが‥‥‥

「どこか行きたいとこがあるのか?」
「うん!ハジメと一緒に行きたいの!」

「はやく、はやくー」
そう言いながら俺の手を引っ張るカンナは、楽しそうに見えた。でも、今日のコイツはやけに強引だな。昨日のデートで緊張が完璧にほぐれたのか?

二日目のデートの最初の行き先は、ゲームセンターだった。久々のゲームセンターでワクワクしたが、俺の描いていたデートとは少しばかり違った。これじゃ高校生のデートじゃねえか!俺は、もっと、こう、大人っぽいデートがしたいんだ!

わちゃわちゃした大音量で音楽が流れてるような所じゃなくて、美術館とかジャズコンサートとか、落ち着いたのを想像していた。

でも、これはこれでカップルらしいかもしれないな。せっかく連れて来てくれたんだから、楽しまないとな。

「ハジメ、これやろ!」
カンナが指した先には、『パンチング・バッグ』と題されたゲーム機があった。所謂パンチ力を測る機械だろう。

この類のゲームには嫌な思い出がある。まだ俺が高校生だった頃、当時はイキってて、女にモテようとしてこのゲームをしたが、パンチが下手くそ過ぎて、挙げ句の果てには突き指をすると言う俺が醜態を晒したゲームなのだ。

今回は上手く行くだろうか。まあ、流石の俺も35才だし、もう死んでるし、前よりは上手くなってるだろう。

「がんばれー」
カンナの声援を受けながら、俺はグローブを左手にはめた。

よーっし。ここで良いところを見せて、メロメロにしてやるぜ。ゲーム機が点き、『パンチ!』の文字が点灯した。それに合わせてパンチをしろと言うことだろう。

俺は思いっきり振りかぶり、ミットにパンチした。そして数秒経ったとき、ゴングが鳴った。電子版には数字がスロットマシンの様にぐるぐる回っていた。計測中なのだろうか。結果は350。平均よりちょっと上と言った所か。

「まあまあね。じゃあ、次は私ね」
まあまあ?まさか、カンナの方が俺より腕力があるなんてことないよな。

嘘だろ。あり得ねえ。得点、430ってどう言うことだよ。俺より遥かに強いじゃねえか!

「ははっ、私の勝ちだね!」
負けず嫌いの俺は、このあと4回は試したが、どれもカンナの430を超えることは出来なかった。

「次は映画館に行ってみようー」
また高校生っぽい場所を選ぶな。それに映画館なんて、メトロポリスじゃなくてもあるだろ。そう言いたくなったが、俺はその言葉を飲み込んだ。

「これ何てどうかな?」
「ええ、これ見るのか?」

カンナが見ていたポスターは、ド派手なアクション映画だった。その内容もまた在り来たりで、主人公が妻を殺害した濡れ衣を着せられ、警察から逃げながら真犯人を探すと言った物だった。正直、カップル的なムードはぶち壊しだが、映画で派手な爆破シーンや、真犯人が判明した時のカンナの反応が一々大げさで面白かった。

また、ポップコーンを買って入ったのだが、食べようとした時、たまにカンナの手と当たったりして、こう言うのも良いなと思った。

「次はどこに連れてってくれるんだ?」
映画館を出て、俺は言った。次はどんな高校生っぽい所に連れて行かれるんだろうか。

「うーん、公園行こ!昨日行った噴水のあるとこ!」
ほお、少しは大人っぽくなったな。公園に着くと、カンナは俺をベンチに座らせ、どこかに行ってしまった。トイレにでも行ったんだろうか?

しばらくして、カンナが戻って来た。手にはソフトクリームが二つあった。

「はい、これ。美味しそうだったから、買っちゃった」
わざわざ買いに行ってたのか。ソフトクリームを手渡してきたカンナが、いつも以上に可愛く見える。

ソフトクリームも思ってた以上に美味く、まろやかな甘みが口いっぱいに広がった。

「美味しいね。ここのソフトクリーム一度食べて見たかったんだ」
やっぱり女子だな、カンナも。アナと一緒で、流行には敏感なのだろうか。

「クリーム付いてるわよ?」
急にカンナが、俺の口に付いていたソフトクリームを指で拭い取った。いきなりの出来事で頭が真っ白にになった。カンナってこんなことする子だっけ?ちょっと羽目を外し過ぎてるような気もするが、コイツ大丈夫だろうか。酒も飲んでないのに酔ってるのか?

「そ、そんなに見つめないでよ」
あのツンデレだったカンナが、ただのデレになっちまってる。顔を赤くし、モジモジする姿は、いつものカンナからは想像出来ないくらいの色っぽさを放っていた。このまま抱きつきそうになってしまうくらいだ。俺は何とか踏み止まったが、もう一押しされると、身体をそのまま流れに任せかねない。

すると、急にカンナが目を閉じた。これはただ眠いとか、目が疲れているから閉じた訳じゃない。その違いくらい俺にだって分かる。

せ、接吻ってやつですか、これが。ついに俺にもキスデビューする日が来たのか。それにしても、今日のカンナは積極的だな。そんなに好奇心旺盛だったとは思わなかったぞ。だったら、その期待に応えてやらないといけないな。

徐々に近付いてくるカンナの顔をまじまじと見てみる。目を閉じているが、少し尖らせた唇はリップグロスで少しテカっていて、セクシーさが醸し出されていた。正にキスの準備万端です、って顔だ。

大勢の人がいるこの場所でするのは恥ずかしいが、カンナも勇気を出してくれているんだ。男の俺がチキってどうすんだ!

心を決め、俺はカンナの肩に手を置き、ゆっくりと顔を近づけた‥‥‥


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