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第五章: アイスブレーカー

第五話

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「この村を燃やす!?」
カンナの声が村中に響いた。人が居ないが、もし居たなら皆んながこっちを振り向いただろう。そのくらい大きな声だった。

「ちょ、うるさいぞ」
「あっ、ごめん」と言うカンナにちょっと可愛いなと思いながら、俺は話を続けた。

「燃やすと言うより溶かすだけだ。すまん、ノアの説明不足で誤解を生んだな」
「私のせいにするな」

「ふう」
俺の言ったことを聞き、カンナは胸を撫で下ろした。

「全て燃やすのかと思ったわよ。でも、溶かしてどうするの?この人たちはまだ生きてるってこと?」
やっぱり皆んな考えることは同じなんだな。それとも、これはただのSFオタクの集まりか?

「もし皆んなが生き返れば、ヴァン君も精神的に安定することが出来るね」
アーロンがティピーから出てきた。アーロンも氷を溶かす作戦に賛成みたいだ。

「そうね。今はヴァン君を落ち着かせることが先決よね。たまには良いこと言うじゃない、ハジメ」
「そうだろー」
「いや、私の考えだ」

余計なことを言うんじゃない、ノア君。ここは俺に花を持たせるんだ。それか共同して考えたで良いじゃないか。

「ゲス野郎」
え?今なんて?最近ノアの口の悪さに磨きがかかって来ているような気がする。それって俺の影響?それとも元々こうだったのか?

「ハジメのふしだらな考えのせいだ」
うん、俺のせいだったみたい。エロいことも卑怯な考えも自粛しまーす。

「その軽さが気に食わん」
今の言い方ちょっと神様っぽかったぞ。あっ、ノアの顔が少し赤くなってるぞ。ノアにそっぽを向かれた。

「そう言うことなんだ。アナ出来るか?」
「うん、任せて!」

いつも以上にやる気のアナを見て、俺は心からこの氷漬けの住民たちが生き返ることを願った。

「アナちゃんに任せなくても、私たちもエレメントで火出せるわよ?」
ああ、確かに。水を出せたんだから、火を出すことも出来るのは当たり前だな。何で思い付かなかったんだろう。

「じゃあ、ちょっと試してみるか」
俺は、側にあった小さいティピー目掛けて火を出した。だが、氷は一ミリも溶けなかった。

「あれ?」
「何やってんの?全然溶けてないわよ」
そんなことは分かってる。でも、何か知らないがこの氷、ビクともしない。

「何じゃこりゃ」
「神の力だろう。多分だが、普通の炎じゃ溶けない」
神の力って何だよ。氷の息を吹くだけでも凄いのに、普通の炎じゃ溶けないとか強すぎるだろ。

「じゃあ、やっぱりアナちゃん以外は溶かせないのね」
「だいじょーぶ!私がすぐにこの村を溶かしてあげるから!」

その一文だけを聞くと、ものすごい物騒なことを言ってるみたいだぞ。村を溶かすとか、壊滅するみたいじゃねえか。

そう言うと、アナはティピーの中にいたヴァンの方を向いた。

「お姉ちゃんに任せてね!」
元気の良い声だったが、唇が少し震えていた様に見えた。アナも俺たちと同じことを考えていたんだろう。本当に住民たちを助けられるんだろうか、と。

この計画は決して100パーセント成功するものではない。ただ、この方法がヴァンを落ち着かせる一番の方法だと思ったから行動しているだけだ。だがもし、生き返らなかった場合は、俺たちも凍らされるかもしれない。

「だがやる価値はあるだろう?」
また聞いてたのか、ノアは。でもそうだな、やる価値はある。弱気になってたらいけないな。ここは強気に行くべきだ。

「アナ、頼んだぞ」
「無理はしちゃダメだからね」
「アナちゃん、重荷を背負わせてしまってすまない」
「あなたなら出来る」

「ちょっと、私が死ぬみたいに言わないでよ!」
皆んなの激励の言葉を受けたが、その内容が真面目すぎてアナがツッコミを入れた。まあ、アーロンのコメントが一番重かったな。

少し笑うと、アナはカルタ村を一望出来るよう、木の上に移動した。村全体が見えたら一気に燃やすことが出来るからだろう。少し離れた所からアナがこっちに合図をしている。村から出ろと言う合図だ。俺たちが燃やされるのは勘弁したいからな。そして万が一のため、アナの側にいることも反対された。

全員が村から出たことを確認したアナは、さっそく村を燃やし始めた。見たものを全て燃やす。しかもエレメントを消費せずに。コイツが仲間で本当に良かった、俺はつくづくそう思った。

「アナちゃん大丈夫かな?頑張りすぎちゃわないかな」
「心配しすぎだろ。アナだぜ?」
カンナを心配させないように振る舞ったが、実際は俺も心配だった。いくら小さな村と言っても、一人で燃やすのは相当な負荷がかかるだろう。

俺のそんな心配を他所に、アナが点けた火はヴァンの氷を徐々に溶かしていた。丸で氷河期が終わりを迎えたように、氷は小さくなり、段々と住民の姿や住宅が露わになった。

氷が全部溶け、アナは火を止めた。その瞬間、アナはふらつき、木から転落した。誰も落ちるとは思ってなく、アナを受け止める準備が出来ていなかったが、ヴァンが丁度アナの落下地点に氷の膜を張ったことによって、それがクッションになり何とかダメージを軽減することが出来た。

あれ?これってヴァン、能力コントロール出来てんじゃないか?氷の膜を作るのだって、能力を制御していないと出来る所業じゃないだろ。アナの頑張りが功を成して、ヴァンの能力を制御出来たのかもしれないが、油断は禁物だ。住民たちの状態によってはまた変わってくる。

住民がすでに死んでいる場合、ヴァンの能力が暴走する可能性がある。アイツを信じてない訳ではないが、ここまで強い力となると予測がつかない。

完璧に溶けた住民たちが、元の状態に戻るには少し時間を要した。肌の色は徐々に戻り、住民たちの時間が動き始めた。ヴァンに氷漬けにされる直前の時間に。

叫びながら逃げ惑う者、それに気付き何事だと見る者、そして異変に気付く暇すら無かった者。それぞれが、ヴァンに凍らされる前の時間を完璧に再現していた。

俺たちの考えは及んでいなかった。もし住民たちが助かっても、ヴァンは救われない。彼らはヴァンに怯え、恐怖を覚えるだろう。蔑む者だって出てくるかもしれない。そのまま氷漬けにされたままの方が良かったとは言わないが、胸がモヤモヤする。

そう考えているとき、異変が起きた。喚き逃げ惑っていた住民たちが急に立ち止まったのだ。

「何が起きてんだ?」
「分からない。でも良いことじゃないのは確かね」

ノアを見ると、明らかに表情が曇っていた。それを見た瞬間、次に何が起こるかが理解出来た。

立ち止まっていた人々は、動きが止まったと思えば、全員の身体がボロボロと崩れ落ちていった。そう、彼らは全員すでに死んでたんだ。塵となった者は風に吹かれ、サーッと消えていった。

「‥‥‥なんで」
現実を目の当たりにしたヴァンは、泣きじゃくっていた。助かるかもしれないが、自分が責められることはコイツも理解していたはずだ。

だがヴァンは俺たちを止めなかった。それは、凍り続けている、その場で止まってしまった時間をどうにかして欲しかったんじゃないかと俺は思う。

泣くヴァンに歩み寄り、静かに抱きついたアナにはそれが分かっていたのかもしれない。

「大丈夫、大丈夫だよ」
そう言うアナの目にも涙が見えた。アナの大丈夫には、お前は何も悪くない、そしてもう全部終わったと言う意味があるように思えた。

「おいおい、感動してるとこ申し訳ねえが、神の子を貰いに来たぜ」

そこに現れたのは、如何にも肉弾戦が得意そうなゴリマッチョなオッサンと、つい先日会ったばかりのヨハンだった。
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