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第四章: アニマンデス

第六話

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俺とカンナは驚きを隠せなかった。事件当時、その場にいた者なら同じリアクションをするだろう。この少女が寄生型使いと言うことを知ったら。

「お前がジャギを殺したのか」
「そうです。ちなみに、あなた方がカモフラージュ使いだと思っていた人も私が殺しましたです」

部屋に緊張が走った。この状況下では、下手したら武闘派のコンスタンティンよりコイツの能力の方が厄介かもしれない。

最初に動いたのはアーロンだった。瞬時にエマの横に行き、喉元に剣を当てた。一瞬の出来事に俺含め、誰も反応することが出来なかった。

「止めておいた方がいいです。私に危害を加えるとピィちゃんが動物たちを殺しますです」
「ピィちゃん?」

アーロンの苛つきがこっちにも伝わって来た。自分のビーストに名前を付けてる奴なんて初めて見たからな。ふざけた奴だとでも思ったんだろう。

「アーロン、ちょっと待て。コイツの言ってることはハッタリかもしれない」

そうだ。アニマンデスの動物たち全部にビーストを仕込むことなんて出来るのだろうか?仮に出来たとしても、膨大な量の魂が必要になるぞ。それに能力を使っていたなら、何でノアが気付かなかったんだ?

ノアはエマを凝視していた。自分が気付かないはずがない、と言うのが表情から見て受けられる。ノアが分からないなら、俺たちに分かるはずがない。そしてノアの顔からもう一つ分かったことがあった。それは、エマが嘘を付いていないと言うことだ。

つまり、本当にアニマンデスに住んでいる動物たちの中には、寄生型ビーストが植え付けられてると言うことだ。

「目が見えないのか」
ノアはエマに向けて言葉を発した。意図は分からなかったが、ノアは何かに気付いた様子だった。

「どう言うことだノア」
俺の方を見た後、ノアは続けた。

「あなたは目が見えない。でも普通に歩いている。それを可能にしているのがビーストだろう」
「ちょっと待ってくれ。話しが見えないんだが」

俺だけじゃない。カンナもアーロンも疑問に思っている風だ。ノアには全て聞こえてても、俺たちには何も伝わってこないからな。

「つまり、あなたはずっとビーストを使っているんだろう?」
「はいです。本当に何でも聞こえるんですね。正直驚きましたです」

ずっとビーストを使っている?言葉通り受け取ると、ビーストの寿命が永遠にあるってことか?そんなことが可能なのか?

「あなたはビーストを道具としてじゃなく、目として、そして友達として扱っている。ビーストに名前を付けているのはその証拠。あなたは能力を常時発動している。つまり、私が生まれる前に創られたんだろう、ピィちゃんと言うのは。そう考えると、私があなたの能力に気付かなかったのも納得がいく。何故なら、あなたがビーストを能力として認識していないからな」

ノアの説明を聞いてようやく理解出来た。ノアが生まれる前に創られたビーストなら気付かれることはない。でも、いったいどれだけの魂を注ぎ込んでるんだ?

ビーストはエレメントで作った物に魂を使って生命を吹き込む技だ。注いだ魂の量とビーストの寿命はイコールのはずだが、そのピィちゃんは何年生きてるんだ?

それに疑問はまだある。アニマンデスの全動物に寄生させたなら、それ相応の数のビーストが必要になる。そんな数のビーストを創ることが可能なんだろうか。

俺が思っていた疑問をぶつけたのはアーロンだった。

「全動物に寄生させたなら、それに見合う量の魂が必要になる。大量に創ったなら、寿命は短いんじゃないか?」

アーロンの言う通りだ。寿命が短いなら、そこまで恐れる必要はないからな。というか、エマに対しては人見知り拗らせないんだな。敵だからか?

「勘違いしないで下さいです。私はピィちゃん以外創ったことがありません。それにピィちゃんは分裂可能なのです」

また予想外な答えが返って来たな。分裂出来るときたか。だったら寿命は元のビースト一体と同じか。

うん?エマの横にいるヨハンが固まってるぞ。この状況に耐え切れないのか、瞬きを一回もしてない様にも見える。

「ヨハン、お前寄生型ビーストについて知ってたのか?」
固まってるヨハンを俺が追い詰める。

「し、知らないです!」
おいおい、エマの口調が移ってるじゃねえか。

「もし動物たちに寄生させていたことを知った上で、和平交渉とか言ってたのなら、どうなるか分かってるよな?」
「あひいいいい」

どう言う怯え方だよ、それ。敵でも何か罪悪感湧いてくるぞ。

「ヨハンは何も知らないです。この子、嘘つけないですので」
だろうな。ヨハンの顔を見たら分かる。コイツは嘘が下手くそな奴だって。

「で、どうするです?神の子全員の居場所を教えてくれたら、動物たちを解放するです。教えないなら、今殺すです」
「そんなことをやったら、君も死ぬぞ」

シリアスなトーンでアーロンが言った。目を見たら分かる、本当にエマを殺す気だ。

「私はそんなに弱くないです。でも悪い話じゃないと思うです。私たちは情報を得ることができ、そっちは動物が死ななくて済みますです。ここからは、純粋なレースの始まりです」
「レース?」

ヨハンを含めた皆んなが一斉に同じ言葉を発した。何だこの無駄な統一感は。

「はいです。誰が神の子に早く辿り着けるかです。サウス軍か、ノース軍か、です」

まあ、コイツらに居場所を教えたらそうなるな。でも今のこの状況、俺たちが圧倒的に不利だ。無駄な時間を費やしてるだけじゃなく、動物たちを人質に取られているんだ。コイツらの要求を呑まざるを得ないじゃねえか。

「動物たちを解放してくれ、頼む」
ノアがエマに向かって頭を下げている。アニマンデスのリーダーとして、この村が成り立つ上で必要な動物たちを見放すことが出来ないんだろう。俺たちもノアがノース軍の仲間になってくれた以上、この意見を尊重しないといけない。

「アーロン。要求を呑もう」
俺の考えが伝わったんだろう。アーロンはエマの喉元に押し付けていた剣を下ろした。

「では、交渉成立です。それでいいです?」
「ああ。早く解放してやれ」

この時、エマが実際に動物たちを解放させたかどうかをノアに聞こうと思っていたが、その必要はなかった。

エマが指をパチンと鳴らした瞬間、開いていた窓から数万、いや数億くらいの蚊が入ってきた。その蚊はエマの前でグルグルと回り始め、徐々に一匹の巨大な蚊ヘと形成されて行った。

カンナは「気持ち悪い!」と言いながら、怖かったのか、俺の腕にしがみ付いて来た。

「おい、カンナ。もう大丈夫だぞ。ちょっ、腕痛いんだけど」
腕を掴んでいたことに気付かなかったのか、気付いた瞬間、バッと俺を押すように離した。丸で俺が悪いことしてるみたいじゃねえか。

感心してる場合じゃないと思うが、ビーストは奥が深いんだな。ビーストに分裂能力を持たせることが出来たり、やりようによっては何でも出来る。

「これが蚊のピィちゃんです」
ピィちゃんって言うから、てっきり鳥かなんかだと思ってたぜ。これだったら俺が創ったイヌの方が百倍可愛いな。

「では、神の子の居場所を教えてくださいです」
ノアは元々俺たちのために用意してくれていた、神の子の居場所が記されている地図をエマに渡した。

「確かにです。では、私たちは失礼するです。行くですよ、ヨハン」
ヨハンはせっせと歩くエマに頑張って付いて行こうとしていたが、扉の所で一瞬立ち止まり、俺たちに深々とお辞儀をして帰った。

今回は半ば強制的だったが、話し合いで事が済んだ。だが、次はそうは行かないだろう。ヨハンみたいな子に会ったら、この世界も、地上でも全てが話し合いで済めばいいと思ってしまう。

でも実際には、そんなに甘い話じゃないんだろうな。
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