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42話 剣気

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「……はぁ、なんでこんな事になったんだか……」

 冒険者ギルドを後にするなり、思わず愚痴混じりにため息をこぼす。
 逮捕から逃れるためとはいえ、まさか冒険者として登録することになるだなんて……。

「いいじゃないですか。それに私はシナイさんが冒険者になってくれて嬉しいですよ!」

 憂鬱な俺とは対照的に、横を歩いているライカは言葉通り嬉しそうにしている。

「絶対に私とパーティーを組んでくださいね! 他の人に誘われてもちゃんと断ってくださいよ!」
「分かったって」

 ギルドを出てからライカにパーティーの件について念入りにお願いされ続けて、流石に耳にタコができそうだ。
 弟子としては、師匠である俺が他のパーティーに加入するのが面白くないのかな?

「それにしても、ライカは今までソロで冒険者をやってきたのに、なんで俺とはそんなにパーティーを組みたがるんだ?」
「何を言ってるんですか! 弟子は常に師匠の側にいるものです。だから、私がシナイさんとパーティーを組むのは最早必然のようなものなんですよ!!」

 力説されてしまった……。
 しかも、弟子が常に師匠の側にいるものだなんて初耳だ。

 その理屈なら、二十年も実の師匠を放っておいて山ごもりして修行していた俺は、最高の師匠不幸者になってしまうな……。

 まあ、いつまでもプラプラしてる訳にもいかなかったし、成り行きとはいえ冒険者になったからには仕方ない。
 いい機会だと、腹をくくってやるしかないな。

「いっそ私の家に住みませんか? 余っている部屋もありますし、シナイさんがいてくれたら父も喜ぶと思いますよ」

「いやー、それは流石に……。いくら師匠でも、年頃の娘がいる家に独身のアラフォー男を住まわせるのは抵抗あるでしょ」

「私が説得しますし、もし父がそれでも文句を言うようなら、父を家から叩き出すので大丈夫です!!」

 師匠のライカからの扱いに少しだけ同情する。

「それは師匠が可哀想だからやめておきなさい。……そもそもライカと同じ家に住んだら、仕事も私生活も全部俺と一緒になるぞ?」
「むしろ望むところですけど」

「……ん?」

 それだと、まるでライカが俺と片時も離れたくないみたいじゃないか。
 ……いやいやいや、勘違いするな。

 これはあくまで師匠である俺とできる限り同じ時間を過ごすことで剣の技を盗みたいっていう弟子の心情にすぎない。

「とにかく一旦私の家に戻りませんか? 父にも『スターロード』の一件を改めて報告したいですし」

「それもそうだな」

 まだ師匠はキレてるんだろうか?

『スターロード』に対して余計なことをしたとは思わないし、あいつらを倒したことに後悔もないけど、師匠からしたら弟子の俺が師匠の問題に出しゃばり過ぎだったのだろう。

 それなりに時間も経ったし、冷静になってくれてると助かるんだけどな……。

「あんまり気にしないでください。父がこれ以上シナイさんに文句を言ってきたら私がぶっ飛ばしますから!」
「やめてあげなさい」

 もし本当にライカが師匠に手を出したら、別の喧嘩に発展して問題が更にややこしくなりそうだ……。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「あれ? 父さん、どこにいったんでしょう?」
「どこかに出かけてるとか?」

 ライカの家に戻ると、師匠はおらず留守にしているようだった。

「出かける時はいつも置き手紙を残しているので、そんなはずはないと思うんですが……」

 ライカは心配そうな表情を浮かべる。
 師匠は元気そうにしているけど、実際は余命半年の病人だ。

 そんな人が突然家からいなくなったら、そりゃあ心配もするよな。

「一緒に探してみようか」
「はい、よろしくお願いします」

 ライカと一緒に師匠を探そうと家をでると……

「……っ!?」

 ゾッ……と背後から寒気が走る。
 これは殺気?

 いや、それとは違う。
 もっと研ぎ澄まされた刃のようなこの感覚は……剣気!?

「どうしました、シナイさん?」

 ライカは突然立ち止まった俺に不思議そうに質問する。
 どうやら、この剣気にライカは気がついていないようだ。

 つまり、これは俺に向けられたモノ。
 そして、これほどの殺気にも近い剣気を放てる剣士を俺は知っている。

「師匠の場所が分かったよ」
「本当ですか!?」

「ああ、間違いない。師匠は、あそこにいる」


 俺が指差したのは、家の横にある道場。
 その道場から、この剣気は放たれていた。

「道場ですか? でも、父は腕をなくなってから道場に行くことなんて無かったんですが……」

「とにかく行ってみよう。行けば分かるよ」

 俺に向かって放たれる剣気の理由もね。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 


「おう、やっと来たか」

 俺とライカが道場に入ると、道場の真ん中で正座していた師匠は、待ちわびたように声をかけてくる。

「何やってるんですか、師匠……」

「あん? 見りゃあ分かるだろ? お前たちを待ってたんだよ」

「そうじゃないです。あなたの格好について聞いてるんですよ!」

 師匠の今の服装は、汚れひとつない、白い胴着と袴を身につけている。
 こんなの、まるで……

「死装束みたいだってか?」
「っ!?」

「なんだ、図星か? ……まあ、あれだ、お前もライカから聞いてると思うけど、俺は近いうち死ぬ。だから、死装束ってのもあながち間違いじゃないな」

「そんな縁起でもない……。笑えない冗談はやめてくださいよ、師匠」

 師匠はまだ生きているのに、そんな服装をするなんて、この人は何を考えているんだ。

「この服装は俺なりのケジメというか、覚悟の現れってやつだな」

「……覚悟?」

 一体、師匠は死装束のような恰好までして、なんの覚悟をしたっていうんだ?
 ゆらり、と師匠は立ち上がると片腕で器用に前に置いてあった剣を鞘から抜く。


「シナイ……俺と決闘しろ」


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