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29話 聞き込み
しおりを挟む「ダメかー……」
「ダメでしたね……」
師匠と『スターロード』についての聞き込みを村で始めたが、成果は全く実らず二人仲良く肩を落とす。
聞き込みを始めて早半日、周囲はすっかりと暗くなり、俺とライカは村内で唯一の宿屋で一晩過ごすことにした。
勿論、部屋は別々だけどな。
いくら師匠と弟子の関係で、年齢が一回りも違うといっても、性別は違うし、それくらいの分別はある。
ライカが最初、俺と同じ部屋で予約をしようとしたから慌てて止めたけどね。
ライカはもう少し自分の魅力について自覚を持ってほしい。
もし相手が俺じゃなかったら、襲われても文句は言えない状況だぞ!
まあ、その事について説教するのは後にして、今はライカが俺の部屋に来て今日の書き込みで得た情報の整理と明日の計画をしている所だ。
今日の聞き込みの成果としては、端的に言って失敗……というより、俺たちが望んだ情報は得られなかった。
村の近くで起きた魔物の大量発生は七年近く前の出来事だけど、相当数の村人が当時のことを覚えていた。
そんな村人たちに『スターロード』や師匠のことを聞いたら……
『彼らは村の英雄だ』
『あんなに素晴らしい人たちはそうそういないわ!』
『ユージン達こそ、次の勇者に相応しい』
『『スターロード』には返しきれないほどの恩がある』
『ユージン様、かっこい!!』
『彼らがいたおかげでワシたちは生きておられる。ありがたや、ありがたや』
と、聞き込みをした村人の全員が『スターロード』を褒め、敬い、慕っていた。
まあ、村人達にとってユージン達は魔物の群れからこの村を守った、まさに英雄だからその評価も納得ができる。
実際、村の中心に彼らの銅像を建てるくらいだからな。
だけど、気になったのは、村人のほとんどが師匠の……ロックスの存在を認知していなかったことだ。
何人かは師匠のことを覚えていたようだけど、ほとんど印象には無かったらしく、精々『スターロード』の補助係や荷物運び程度にしか認識されていなかった。
それともう一つ、聞き込みをしていて気になった点があった。
「ただ、村人の中でユージン達『スターロード』が実際に戦っている姿を見た人が一人もいないのが気になりましたね」
そう、それは俺も気になっていた。
村人達の誰もがユージン達の戦闘を見ずに、地下の避難所に隠れていたらしい。
こうなると、ユージンの証言を否定する事が難しくなってくる。
まあ、逆に証言を肯定する証拠もないって訳だけどな。
「とりあえず、明日は師匠やユージン達の戦闘を見たって人を探そうか」
「そうですね……っと、こんな時間に誰でしょうか?」
明日の方針をライカと確認をしたところで、急に部屋の扉からノック音がする。
「誰ですか?」
「あっ、あの! わたしは村の娘でオリビアっていいます。七年前のことを色々と調べられている方ですよね? お話ししたいことがありますので、部屋に入ってもよろしいでしょうか?」
扉越しに声をかけると、オリビアと名乗る女性が返事をする。
小さい村だし、俺たちが当時のことを調べまわっていることはすぐ村中に噂になったのだろう。
それを聞いて俺の部屋にやってくるってことは、このオリビアって子は俺たちにとって重要な情報を知っているのかもしれない。
ライカも俺と同じ考えなのか、目を合わせると小さく頷いてくる。
「わかりました、どうぞ」
「はい! 失礼します」
そう言うと、オリビアはゆっくりと扉を開けて部屋に入ってくる。
オリビアの年齢はライカよりも下……十四、五といったところだろうか。
「初めまして。俺はシナイでこっちはライカ。それで、俺たちに何の用があるんだ?」
軽く自己紹介を済ますとすぐに本題に入る。
「そ、の……お二人は『スターロード』の事とは別にロックスさんの事も調べ回っているとききました。お二人とロックスさんの関係は……」
「父を知っているんですか!?」
この村に着いてから初めて、村人の方から師匠の名前を聞くことができた。
やっぱり、オリビアは何か重要な情報を俺たちに伝えに来たんだ。
「父ってことは、ライカさんはロックスさんの……」
「ああ、娘だ」
「……っ!」
オリビアが、ライカと師匠が親子関係なのを知ると、突然涙を流してその場に座り込む。
「なっ!? だ、大丈夫か?」
「すいません……すいません……わたしはロックスさんとその家族に、謝っても謝りきれないことをしてしまったんです……」
「……何があったのか教えてもらっていいか?」
「はい……わたしは、そのためにここに来ましたから」
そうして、俺たちはオリビアの口から七年前の真相を聞くことになる。
それはあまりにも非情で残酷なまでの真実だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
同日同時刻、ギルド本部内の酒場で『スターロード』の面々は食事をしていた。
「全く……なんでユージンはあんな女にご執心なのよ」
「そう拗ねるな、リンカ。ライカは星魔法って珍し魔法を使え、剣も使えて前衛もできる」
「その上顔もいいからなぁ! オレも一回くらいお相手してほしいぜ」
「黙れザックス。ゴールド級としての品位を落とすな」
「っと、すまねぇ、リーダー」
粗暴なザックスもユージンの一言で素直に謝るあたり、このパーティーの力関係がよく分かる。
「僕たちが更に上のランクに上がるためには新しい戦力補充が必須。ライカは実力もある上にギルド内でも人気がある。彼女が『スターロード』に入れば僕たちの知名度も更に上がり、プラチナ級への昇格も目前さ!」
「それは分かってるけど……」
「ならリンカもそろそろ納得してくれ。それに、ライカは父親関連の件で僕達への負い目もあるだろうし、そう何度も断れないだろう」
ユージンはライカが自分のパーティーに入るのがまるで決定事項のように話す。
それくらい、ライカの父、ロックスの件についてはアドバンテージがあると確信しているようだ。
「そういえば風の噂でききましたが、どうやらライカと昨日会ったシナイというおじさんの二人がボーディン村でロックスの件について聞き込みをしているようですよ」
「……なんだって?」
ミカゲからの報告にユージンは眉をひそめて聞き返す。
「万が一にもバレる事はないと思いますが、どうしますか?」
「……そうだね、念には念を入れておくために、明日は朝イチでボーディン村に向かおうか」
「ちなみに、もし、ライカとあのおっさんが真相に辿り着いていたらユージンはどうするの?」
「その時はしょうがない。僕たちの輝かしい未来のために……二人には消えてもらおう」
そう言うと、ユージンは目の前の料理にフォークを突き刺しながら、不気味に笑った。
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