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幕間1 後編 敗走

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 途中までは順調だった。

 地図作成マッピングが出来るやつがいないから何回か道に迷ったが、出現するモンスターはEランク相当だし、罠もない。

 なんの問題もなくサクサクと進んでいたのに、新エリアの最深部らしき所に着くとはいた。

 見上げるほどの巨体を持つ狼型のモンスター……間違いなくこのエリアのボスだろう。
 だが、ボスといっても所詮はEランクダンジョンのボスレベル。
 俺たちの敵になるはずがない!

「……どうする、ラッシュ?」

槍士ランサー』で俺と同じ前衛職のスペースが小さい声で尋ねてくる。

「どうするもこうするもないだろ。Eランクダンジョンのボスにしては強そうだが、所詮はEランクだ。それに相手は俺たちに気がついていない。一気に奇襲をかけて討伐完了だ」

「……でも、どう見てもアイツ、Eランクのモンスターには見えないけど……。それに、例え格下でも初遭遇のモンスターには警戒しろってノロワが言ってたわよ」

「そのムカつく名前を俺の前で出すな!」

「っ……! ご、ごめんなさい」

『魔法使い』のアンナが怖気ついているのか、気に食わない男の名前を出す。
 ……そういえば、いつもノロワは落ちこぼれで足手まといのくせに、よく俺たちに意見をしてきたもんだ。

『その先は危険だ!』とか、『もっと警戒しないと!』だとか、そう言う心配性で臆病なところもウザくて仕方なかった。

「ラッシュ様の言う通りですよ。私たちはリーダーのラッシュの指示に従っていればいいんです」

「そうだな。俺たちはいつもラッシュの言うことを聞いてきたから、ここまで上がってこれたんだ。ラッシュが間違えるはずがないだろ?」

治癒士ヒーラー』のフィリアやスペースも俺の意見に同意してくれる。
 そうだ、俺が間違える事なんてあるはずがない。

 最近の失敗は、一時加入スポットの冒険者が足を引っ張ったからだ!

「そう……よね。私もリーダーに従うよ」

「分かればいいんだよ」

 結局、アンナも俺に従う事に決めたようだ。
 全く……面倒だから、最初から俺に意見なんてしてくるなよ。

「よし、それじゃあこのまま速攻を仕掛ける。全員、俺に着いてこい。……いくぞ!!」

 俺は抜剣しながら突撃命令を出す。

 さあ、こんなEランクダンジョンのモンスターなんて、さっさと討伐してしまおう!!


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「きゃぁぁあ!! 炎を吐くなんて聞いてないわよ!?」
「前衛は何をしているんですか!? 後方職の私たちをちゃんと守りなさいよ!」
「無茶を言うな! こいつの動きが速すぎて攻撃が当たらないんだぞ!」

 既に俺たちのパーティーはボロボロだ。

 なんで……なんでこうなったんだ?

 奇襲かけるまでは良かったんだ。
 モンスターに気付かれないよう攻撃の射程圏まで近づき、一気に攻撃を仕掛けた。

 だけど、モンスターは予め俺たちの存在に気がついていたかのように楽々と攻撃を避けると、即座に反撃をしてきた。

 そして、俺たちはその反撃を受けた事で陣形がバラバラになり、現在はこうして全滅の危機を迎えている。

 しかも、この犬風情が……俺たちのことを格下とみて舐めてやがる!
 まるで遊んでいるかのように、手加減をしているのが伝わってくる。

 くそっ……くそっ……くそぉぉぉぉ!!

 俺は……Aランクパーティー『紅蓮の不死鳥』のリーダー、ラッシュ様だぞ!!

 こんな所で躓く訳にはいかないんだぁぁぁ!!!!

「絶戒剣技……『ラッシュインパクト』!」

『剣士』である俺の最大奥義を放つ。
 以前Bランクダンジョンのボスモンスターにとどめを刺したこともある、速度、威力共に俺の使える中で最強の技だ。

 油断していたのか、突然の俺の剣撃にモンスターは反応が遅れ直撃する。
 これでくたばれ、犬コロ野郎がぁ!

「ガルァっ!? グッ……ガァァァァァァァァ!!」

 な、なんでなんだ……!?
 確かに俺の『ラッシュインパクト』は命中した。
 血も流れているし、ダメージも与えているはずだ。

 だけど、それだけだ……。
 俺の『ラッシュインパクト』ではこのモンスターを討伐するほどのダメージは与えられなかった。

 それどころか、ダメージを負ったことで怒りが増したようだ。
 牙を剥き出しにして、今まで以上の勢いで俺たちに襲いかかってくる。

「うっ……がぁぁあああああっ!」

「リーダー!?」
「ラッシュ!!」
「ラッシュ様!」

 モンスターの一撃を受け、俺は無様に吹き飛ばされ、ダメージを負った俺の側に仲間たちが集まってくる。

「がっ、ぐっ……ぐうううぅぅぅぅ」

 ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう……。
 剣でガードをしたのに、ガードごと俺をぶっ飛ばしやがった。

 こいつは何もかもが俺たちよりも上の生物だ。
 多分Aランクのボス級……いや、Sランクのボス級に匹敵するかもしれない。

「……逃げるぞ! このままじゃ全滅だ!!」

「っ!? ……くそっ、しょうがないか」
「ええ、そうしょう。このモンスターは私たちだけじゃ手に負えません」
「そうだね。ここは一旦撤退しよう」

 俺はカバンに入れていた『帰還の魔石』取り出す。

 命あっての物種だ。
 こんな化け物をまともに相手してられるか!

 俺は魔石に魔力を込め、『始まりの洞穴』から帰還する。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「何なんだよ、あの化け物は!? あんなのがいるなんて聞いていないぞ!!」

 俺たち『紅蓮の不死鳥』は、街のはずれの方に『帰還の魔石』を使って転移した。
 ダメージは受けたものの、致命傷を負った奴はいないようだ。

「それよりリーダー、早くあのモンスターの事をギルドに報告しないと!」

「は? 何言ってるんだ?」

「……え? だ、だから早く報告して討伐隊を編成しないと!」

「……はぁ。あのなぁ、アンナ、何で俺たちが馬鹿正直にギルドに報告しないといけないんだ。ギルドに報告するのは、そうだな……二、三時間後ってところかな」

「何言ってるの!?  まだダンジョンの中にはEランクの冒険者達がいるんだよ!? 見殺しにする気!?」

「見殺しにするんだよ!」

「……っ!?」

 俺からの答えにアンナが言葉を詰まらせる。
 全く、バカの相手は疲れるぜ。

 わざわざ全部説明しないとダメかい?

「あのなぁ、もしギルドに正直に報告したら俺たちはどう思われるか考えてみろ」

『Eランクダンジョンから真っ先に敗走したAランクパーティー』って噂されるのが目に見える。
 ただでさえ最近はクエストを失敗ばかりで俺たちの評判が下がっていない状態からだ。

 その上、そんな噂が流れでもしたらAランクパーティーとしての面子が立たなくなってしまう。

「報告を遅らせればEランクパーティーなんて、あのモンスターを相手にしたら簡単に全滅するだろうなぁ。だから、俺たちはこう報告すればいいんだ。『Eランクパーティーを守るために奮闘したが、足手まといを守りながらの戦いは苦戦し、無念の敗走』……ってな。こうすれば俺たちの体裁は保たれるだろ?」

「なるほどな! ラッシュは賢いなぁ!!」
「本当です。流石はラッシュ様です」

 しかも死人に口なし……Eランクパーティーは、あのモンスターに殺られているから、口封じも完璧って訳だ。

 昇格試験のためいくつかのEランクパーティーがダンジョンに潜っているらしいが、理想は全滅……まあ、最低でもひとつのパーティーが潰されていればいい。

「で、でも……」

 ……はぁ。
 スペースもフィリアも俺の案に乗っているのに、アンナだけが未だに納得のいっていない顔をしている。

「いいか? 足りない頭でよーく考えろよ? 役にも立たないEランク冒険者の命と俺たちAランク冒険者の面子……どっちが大切かちょっと考えれば分かるよな?」

「そ、そんな……」

「……分かった、お前もういいよ。アンナも俺の方針に納得できないならノロワみたいに追放されるか?」

 追放という言葉が出て、アンナの顔面が蒼白になる。
 そうだよな、もし追放なんてされたら、二度と冒険者なんてなれないかもしれないもんなぁ。


「っ!? ご、めんなさい。……私が間違ってたわ。リーダーの指示に従うわ」

「ふっ、分かればいいんだよ」

 一悶着あったが、とにかく『紅蓮の不死鳥』としての方針は固まったな。
 俺の冴えたアイディアのおかげでなんとかなりそうだ。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 この後、クエスト失敗及び虚偽報告により『紅蓮の不死鳥』が処罰を受けるのはまた別の話になる。


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