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11話 抱擁

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「これ以上アタシの大切な仲間を侮辱してみなさい! 燃やすわよ!!」

 ブチギレたエマが魔力を練り始める。
 やばいやばいやばいやばい……!

 エマの実力は仲間としての贔屓目なしでもAランク冒険者級かそれ以上だ。

 優秀な職業ジョブ持ちとはいえ、相手はまだ駆け出しのEランク冒険者。
 エマの本気の魔法をくらったら文字通り消し炭も残らなくなってしまう。

「はっ! 面白い。アンタも噂になってるぜ。五回も追放された役立たずの魔法使いだってな。追放者同士が集まったって何もできないって事を証明してやるよ」

 馬鹿ー!!
 何を乗り気になって、火に油を注いでくれてるのさ!!

「上等よ! ノロワはアタシの仲間で恩人なの!! そんな人をバカにして……絶対にぶっ飛ばしてやる!!」

 ほらー、こうなるよねー!!
 エマから仲間や恩人って思われているのはすごく嬉しいけど!!
 だけど、今は素直に喜んでいる場合じゃない。

 このままじゃあ、試験の前に死人が出てしまう。


 ど、ど、ど、どうしよう。
 僕の『呪い』で止めるか?

 いや、無理だ。
 Eランク冒険者のケイネス達ならまだしも、今のブチギレエマに呪いをかけた場合の代償は計り知れない上に、ここにいる全員を鎮圧できる『呪い』は僕にはない。

 僕が無様に慌てていると『パァン』と空気の弾けた音が響き渡る。

「はい、そこまでです。昇格試験の前に昂るのは分かりますがこれ以上続けるなら双方とも試験を不合格にしますよ? それと、落ち着いたならすぐに『帰還の魔石』を受け取りにきてくださいね」

 音の発生源の方を向くと、ロゼさんが笑顔で警告してくる。
 どうやらロゼさんが柏手かしわでを打って注意をひいてくれたようだ。

 笑顔なのが怖いけど、助かった……。
 ケイネス達も不合格にされるのは嫌だから渋々と武器を納めていく。

 これでエマも落ち着いてくれればいいけど……。

「何終わった気になってるのよ! アンタ達がはじめた戦争でしょうが!!」

 全然落ち着いてない!?
 僕は思わずエマの腕を掴んで止めようとするけど、エマは止まる気配がない。

「落ち着いてよエマ!」
「うるっさい! 離しなさいよ!!」


「ねえ、もう行きましょうよ」
「それがいいわよ。この人、目がヤバイわよ」
「ああ、これ以上はナンセンスだ」
「……そうだな。こんな事でDランクへの昇格の邪魔をされたくないからな」

 僕とエマが内輪揉めしている間にケイネスのパーティーが離れていく。
 良かった……、とりあえずこれで死人は出なくてすみそうだ。

 あとは興奮状態のエマを落ち着かせるだけだ。
 僕はできる限りの力を込めてエマに抱きつく。

「もういいから。落ち着いてよ、エマ!!」
「……っ!?!? ちょっ、にゃ、にゃにすんのよ!?」
「このままだとエマだけが試験に落ちちゃうよ! だから、落ち着くまで絶対にこの手は離さない!!」
「わかった! わかったから、離して!!」
「いや、ダメだよ。こんなに体温が上がってるんだ。今すぐにでも炎魔法を撃つ気でしょ!?」
「これは炎魔法の魔力を練ったから熱い訳じゃなくて……! お、落ち着いたから、もう……離してぇ……」

 次第にエマの暴れる力が弱くなってきた気がする。
 これならもう大丈夫そうだ。

 僕はエマに抱きついていた腕を離すと、エマはへなへなとその場に座り込む。

「ちょっ、大丈夫!?」
「大丈夫。大丈夫だから、今はちょっとだけ放っておいて」
「わ、わかったよ」

 冷静になったら、力が抜けちゃったのかな?
 とりあえず、今はロゼさんの所へ行って『帰還の魔石』を受け取りに行っておこう。

「お騒がせしました……」
「本当ですよ……。まあ、ケイネスさん達がノロワ君にからんでいたのは分かってるんで不問にしておきますね」
「助かります」

 僕は頭を下げながら、ロゼさんから魔石を受け取る。

「ノロワ君なら魔石の使い方の説明は必要ありませんよね?」
「ええ。前のパーティーで使ってましたから」

『紅蓮の不死鳥』に所属していた時から『帰還の魔石』はダンジョン攻略の必需品だったからね。
 ラッシュ達からは「そんな高価なアイテム、俺たちには必要ないね。どうしても用意したいなら自腹で用意するんだな」って言われたから、自費で買ってたなぁ……。
 まあ、『帰還の魔石』に限らず、パーティーで使用するアイテムのほとんどは、なんだかんだ理由をつけられて僕が全部買ってたけどね。

「それと……ノロワ君って結構大胆なんですね」
「……ん?」

 大胆?
 大胆なことなんてしたっけ?

 僕がした事っていえば、精々エマを落ち着かせるために抱きついた……くらい………で……。

 ああああああああああ!?!?

 や、やってしまった……。
 エマを止めるためとはいえ、女の子に抱きつくなんて完全に変態じゃないか!?

 ……うわっ、意識し出したら、色々と女の子特有の柔らかさや匂いなんかを思い出してきてしまった。
 ダメだダメだ、こんな事を考えていたら本当の変態になってしまう。

 仲間にこんなよこしまな考えを持つなんて、僕は最低だ……。

 せめてエマには、僕がこんな考えを持ってしまったことはバレないようなしないと。
 仲間同士で気まずくなったらクエスト攻略にも影響を及ぼすしね!

 まあ、エマはあれだけ可愛いから恋愛経験とか豊富そうだし、僕のことなんて羽虫はむし程度にしか思ってはいないだろう。

 僕は努めて冷静にエマのところに戻る。

「お、お待たせ、エマ! 魔石を受け取ったし、そろそろダンジョンにも、潜ろうきゃ」

 さ、最悪だ。
 メチャクチャどもった上最後は噛んでしまった。

「そうね。……ただ、悪いんだけど、5分だけ時間を頂戴。その間、ノロワは最後の荷物チェックでもしてて」
「うん、分かったよ!」

 エマに言われるがまま、僕は荷物のチェックを始める。
 ……正直助かった。

 ポーションの在庫を確認しながら、こっそりと息を整える。
 意識しないようにしている時点で既に意識しちゃってるってことだもんね。

 エマに時間をくれと言われたけど、僕の方が落ち着く時間が欲しかったから、エマからの提案は渡りに船だった。

 ……そういえば、なんでエマは時間をくれなんて言ったんだろう?
 僕みたいに動揺していた訳じゃないだろうし。

 ……うーん……まっ、いいか!
 きっと女の子には色々あるんでしょ。

 今はとにかくダンジョン調査に向けて、心身ともに整えないとね!!
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