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5話 初戦

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『ワーウルフ』…… 機敏な動きと、鋭い牙や爪を持つオオカミ型のモンスター。
 一匹の戦闘力はそれほど高くないけど、このモンスターは群れで戦闘を行う。

 その連携の取れた動きに苦戦する新米冒険者も多く、冒険者の最初の壁とも言われるモンスターだ。

 当然ながら、戦闘能力が皆無の僕ひとりだったらこの瞬間に全滅しクエストは失敗。
 最悪の場合は死亡すらもあり得た。
 やっぱりパーティーを組んでおいてよかった……!

「それじゃあ打ち合わせ通りに!」
「えっ、ええ……」

 エマが歯切れの悪い返事をすることが少し気になったけど、今はそれよりも目の前のワーウルフだ。

 僕の職業ジョブは『呪詛師』で、エマの職業ジョブは『魔法使い』……つまり、両方とも後方職だ。
 そして僕には攻撃手段がほとんどない。

 つまり、戦闘スタイルはエマが魔法による攻撃、僕は呪いでその攻撃をサポートをするということで打ち合わせしている。

「まずはワーウルフの動きを止めるよ!」

 僕は『呪力』を込めて、牙を剥いているワーウルフ達に呪いを放つ。

「ガッ!? ……グッ、ウゥゥゥゥ」

 ワーウルフ達は異変に気がついたようだけど、もう遅い!
 この呪いの名前は『遅延行為スロウ』。
 文字通り、呪った対象の動きを鈍くさせる呪いだ。

「い……ま……だ……っ!」

 僕は凄くゆっくりとした口調でエマに追撃の指示を送る。
 ちなみに、こんな話し方になったのは決してふざけている訳じゃない。

 人を呪わば穴二つ。
 呪いには代償がある。

 そして呪いの代償は、発動した『呪い』の効果や『呪い』をかけられた対象の能力によって変動する。
 要は強い呪いを使ったり、強い相手に呪いをかけると、それだけ強力な呪いが僕自身にも返ってくるってことだ。

 一応、呪いの反動が返ってこない条件もあるにはあるけど、モンスターとの戦闘でその条件をクリアする事はできないしね。

 ワーウルフ五匹に対してかけた『遅延行為スロウ』の代償は『自身の鈍化』。
 もし、これがワーウルフじゃなく、もっとボス級のモンスターだった場合に『遅延行為スロウ』を使っていたら、言葉を発する事はおろか呼吸すらできなくなるほど僕の動きは遅くなっていただろう。

 今回はワーウルフ程度の雑魚モンスターだけど、五匹もの相手に同時に呪いをかけたせいで今の僕はスローモーションな動きしかできなくなってしまった……けど、問題ない。
 なぜなら、僕には仲間がいるから!

「……ふー……いくわよ!!」

 エマは一度大きな深呼吸をし、そして魔力を練りこむ。
 ワーウルフの弱点は耐久性の低さ。
 下級レベルの魔法を一発喰らわせれば大体勝てる。
 そしてワーウルフの強みである敏捷性も、僕の呪いで止めたから、今ならどんな攻撃も必中する。

 あとはエマが魔法でとどめをさすだけだ!!

 エマは杖を上に構え詠唱を始める。

「赫き炎よ、我が敵を射抜け……『火球ファイアーボール』!!」

 エマが魔法名を唱えると、エマの周囲から熱気が溢れ出す。
火球ファイアーボール』は炎魔法の中で最も初歩の攻撃魔法だ。
 だけど、ワーウルフくらいなら初級魔法でも充分の威力……なんだ……け、ど……。

 エマの上方に巨大な炎の塊が出現する。

 えっ、何これ!?
 こんなの僕、知らないんだけど!!

 怖い怖い怖い怖い怖い!!

『火球』は手のひらサイズの炎の球を放つ魔法のはず……。
 だけど、エマの火球これはどうみても直径5メートル以上はある。

 まるで目の前に太陽がそびえ立っているみたいだ。

「も……う、無理ぃ」

 それだけの質量の火球を維持するのもキツいのだろう。
 エマは我慢できずに、火球をワーウルフに向けて放つ。

 僕の呪いで動けないワーウルフ達はなす術もなくエマの火球に飲み込まれていく。

 ……うわぁ……。
 ちょっと……、いや、かなりのオーバーキルだ。
 ワーウルフ達も自分の死を感じて涙目だったし。

 ワーウルフに少し同情してしまった。
 それと同時に僕にかかっていた呪いの代償である『鈍化状態』も解呪される。
 これはワーウルフが全滅したことを意味しているけど……。

「ってか、やばいやばいやばい!!」

 エマの炎魔法は文字通り火力が桁違いだった。
 その威力はワーウルフを討伐するだけに収まらず、周囲一帯を火の海に変える。

 このままじゃ火が更に燃え広がって山火事になってしまう。

「ちょっ、早く水魔法で消火しなきゃ!」
「わ、分かってるわよ。そんなに焦らさないで」

 エマは再度魔力を練り始める。
 今度は涼しげな空気が周囲に広がりだす。

「清廉なる水よ、の敵を流したまえ……『水流ウォーターショット』」

水流ウォーターショット』……『火球ファイアーボール』同様に水魔法の初級魔法だ。
 これで鎮火できる……その考えは一瞬で裏切られた。

 いや、鎮火は出来たんだ。
 問題はその鎮火の方法ですよねー。

「……えええええー……」

 エマの『水流』は大型の津波となって火はおろか、周囲一帯の木々ごと押し流していった。

 何これ、僕の知ってる『水流』とは威力も規模も段違いなんだけど……。

「ふ、ふう。何はともあれ大事にはならなくてすんだわね!」

 何を言っているんだろう、この子は。
 大事どころじゃない。
 ただのワーウルフとの戦闘程度で周囲一帯が丸ごと更地になってしまった。

 というか、そもそもエマの使った魔法は両方とも初級魔法だったよね!?
 それがなんでこんな上級魔法並みの威力を持ってるのさ!?

「さあ、さっさと収集した約束をギルドに届けましょ!」

 エマはそそくさと帰る準備を始めだす。
 いや、行かせないよ!?

「あのー、エマさん?」
「ほら、アンタも準備しなさいよ。あっ、報酬はキッチリ半分ね!」
「エマっ!」
「うっ……、はい……」

 ゴリ押しで帰ろうとするエマを一喝し、観念したエマは大人しく動きを止める。

「お話し、しよっか」
「……はい」
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