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2話 勧誘

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「ノロワ君がパーティーに入れないなら、いっそのことノロワ君がパーティーを作っちゃえばいいんですよ!」

「……へ?」

 ロゼさんからの提案に、僕は思わず気の抜けた声を漏らしてしまう。

「あのー、ロゼさん……。どこのパーティーにも入れてもらえないような、不人気な僕のパーティーに入りたいんなんて物好きいませんよ」
「ふっふっふっ、そこは考え済みです。勧誘するのはノロワ君と同じ境遇の冒険者にするんです!」

 ……同じ境遇?
 それってつまり……。

「要は追放された冒険者なら、ノロワ君の勧誘にも乗ってくれるんじゃないですか?」

 なるほど!
 それは盲点だったな。

 本来追放者は別のパーティーに参加させてもらう事が難しい。
 つまりソロである可能性が高いって訳だ。

 ……まあ、僕は追放者って肩書きにプラスしてラッシュからの風評被害ネガキャンで更にパーティー加入は絶望的なんですけどねー。

 だけど、流石はロゼさん、名案だ!!
 早速、僕みたいな追放者を探そうと思った……けど、ここで問題点がひとつ発生した。

「そんなに都合よく追放された人がいますかね?」

 パーティーを追放されるってのそうそうある事じゃない。
 今まで背中を預け、一緒に命懸けで戦ってきた戦友を追放するほどの機会は本来あり得ないからだ。
 仲間割れをしたとしても、大体は追放される前に自分から自主的にパーティーを去る場合がほとんどだしね。

「ふふふ、そこもご心配なく! ちょうど先日、ノロワ君みたいにパーティーを追放された人がこのギルド内にいるんですよ!」
「本当ですか!?」

 なんて偶然だ!
 まさか僕と同じような境遇の冒険者が身近にいただなんて。

「それで、その追放された冒険者はどこにいるんですか?」
「あそこで真昼間からヤケ酒している子がそうですよー」

 ロゼさんの指差す先には、大量のグラスに囲まれながら、周囲の冒険者をまるで威嚇でもするように睨んでいる少女がいた。
 ……おおう、中々インパクトのある子だね。

「あの子も私の担当ですし、ノロワ君がよければ紹介しましょうか?」

 ロゼさんが橋渡しの提案をしてくれる。
 初対面で追放者の僕からいきなりパーティーを組もうと提案しても警戒されてしまうだろう。

 いきなり勧誘するよりも、ロゼさんが間に入ってくれた方が勧誘が成功する確率は上がるのは分かってる。
 分かっている……けど!

「すいません、ロゼさん。だけど、自分から勧誘してみます」

 これは僕がやらないといけないことだから。
 それに、次にパーティーを組む時に決めていた事がある。

 それは、今度こそ仲間との信頼関係を築くことだ。

『紅蓮の不死鳥』の時は、パーティーメンバーの事を仲間だと信じていたのは僕だけだった。
 だから、ラッシュが僕を追放すると言った時、誰も僕の事を庇ってくれなかった。
 いや、それどころか、ラッシュに賛同して喜んで僕を追放しようとまでしていた。

 仲間と絆を継ぐんできたと思っていたのは僕だけだった。
 思いは一方通行だけじゃダメだって事は前回の失敗で学んだんだ。

 だから今回こそは絶対に裏切らない、そして裏切られない信頼できる仲間をつくりたい。
 そのためには、人に頼るだけじゃなく、まず自分から行動して信頼を勝ち取らないといけないんだ。

「……そうですか、分かりました」

 僕の思いを汲んでくれたのか、ロゼさんはすんなりと引いてくれる。

「ノロワ君、頑張ってくださいね!」
「はい! 行ってきます!!」

 僕は真の仲間をつくるために、決意を込めて少女の元へ向かう。

 ◇◆◇◆◇

 良好な人間関係は挨拶から!
 僕は緊張して震える手を握りしめ、できる限りの笑顔で話しかける。

「こんにちは! ちょっといいかな?」

「あいよ、あんあ。アタシにあんかよお?」

 おっと、幸先が悪いぞ?

 意気込んで来たものの、この子、予想以上に酔ってるな。
 呂律がふにゃふにゃだけど、多分『なによ、あんた。アタシに何か用?』って言ったのかな?

 こんなんで会話になるのだろうか……?

「あいよー、あんあも、アタシのほほバカにふるんへししょー」

『何よー、あんたもアタシのことバカにするんでしょー』……かな?
 酔っ払いの翻訳って難しい!

 年齢は僕と同じくらいで18歳くらいだろうか。
 15歳に成ったら行われる『成人の儀』さえ終われば飲酒は認められるけど、この子はどうやらお酒を飲み慣れている訳じゃなさそうだ。
 むしろ完全にお酒に飲まれている。
 目もトロンとして完全に据わっているし、近くにいるだけで既に酒臭い。

「にゃーもー、にゃんにゃにょー。もうやらよー」

 うわっ、今度は泣き出した。
 情緒が不安定すぎる……。

 こんな状態でパーティー勧誘なんてできるんだろうか。
 ……いや、この子が僕に残された最後の希望なんだ!

 さっきは距離があったから顔まではハッキリと見えなかったけど、改めてこの子の事を観察する。
 燃えるような赤い髪の毛に灼眼。
 髪の毛も肩上くらいのショートヘアーで、しっかりと手入れがされている事が分かる。

 顔は少し幼く見えるけど、出るとこは出て、引っ込むとこは引っ込んでおりプロポーションも抜群だ。
 そして、間違いなく十人が十人とも『美少女』と答えるくらい顔が整っている。

 こんなに可愛い子ならパーティーの追放者だとしてもすぐに他のパーティーが誘ってしまうかもしれない。

 善は急げだ!
 僕は早速本題に移ることにする。

「あの……受付のロゼさんから聞いたんだけど、君、パーティーを追放されたんでしょ?」
「あぁん!? ケンカうっへんのぉ!?」

 泣き上戸の次は怒り上戸かぁー。

「ごめん、バカにしてる訳じゃなくて、ただ君に話があるんだ」
「はによ、話っへ」

「僕と……パーティーを組んでくれませんか?」
「………………へ?」

 女の子は勧誘されることなんてまるで予想もしていなかったのか、呆気にとられたような声を出す。
 この子に断られたら、いよいよパーティーメンバーのツテがなくなる。

 ……頼む、了承してくれ!!

「あっ、えっと、その……」

 女の子は何か言いたそうに俯く。

「どうしたの?」
「きもぢわるい……ごめん、吐く」
「………………へ?」
「おぇぇぇぇぇ」

 ……うん、そりゃあ昼間からあんなに沢山お酒を飲んだら吐きもするよね。
 そして一つ新しく学んだ事がある。

 どんな美少女でも、吐瀉物は同じなんだなって事。
 酸っぱい匂いがギルド中に広まっていく。

「きゃぁぁぁ!?」
「うわっ、なんだなんだ?」
「誰か吐いたのか?」
「えっ、何事!?」
「誰だよ、こんな昼間から吐くまで飲んでるのは……」

 ギルド内の他の冒険者達も突然の出来事に軽いパニック状態になる。

 とりあえず初見の感想はひとつだね。
 ……とんでもない子を誘ってしまった。
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