黒い聖域

久遠

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決意の徒 第一章・疑念(3)

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 二十三時過ぎ、茜は氷室と三浦という若い黒服を連れ立って祢玖樽に赴いた。

 三浦は、森岡が護衛役として神栄会から借り受けた男で、氷室が世話をした形になっている。

 目加戸瑠津は、マスターの東出とすっかり打ち解けた様子で談笑していた。東出は、二人の席をカウンターの端に設け、その隣の二席を予約席としてした。瑠津から森岡の高校時代の同級生であること、これから茜と会うことを聞いた彼の配慮である。

 氷室と護衛役の三浦はカウンターの後ろのテーブル席に座った。

「お待たせしました」

 茜が軽く会釈した。

「こちらこそ、お店を早引けさせてしまい、申し訳のないことです」

 瑠津が詫びた。

「何をお飲みになっていますの」

「それが、マスターが森岡君のボトルを出して下さいましたの」

「それは良いわ。ついでに彼の奢りにして貰いましょう」

 茜は茶目っ気に笑うと、マスターの東出も笑顔で肯いた。

 瑠津はハンドバックから茶封筒を差し出した。

「さっそくですけど、これを森岡君にお渡し頂けないかしら」

「何でしょうか」

「過日、彼に依頼された調査報告書です」

「ああー、あの折の」

 茜は思い当ったように言った。

「ご存知でしたか」

「何やら、瑠津さんにご相談があるようなことを言っていましたから」

「彼にとっては重要なものです」

「でしたら、瑠津さんから直接お渡しなった方が宜しいのでは……」

 瑠津の顔が物憂げに沈んだ。

「貴女にお会いして考えが変わりました」    

 はあ、と茜は首を傾げた。

「貴女にお会いするまでは、淡い期待を寄せていたのですが、彼のお相手が貴女では勝ち目がありませんもの」

「……」

「会えば辛くなります」

 瑠津は寂しげに言った。

 その刹那、茜にある思いが浮かんだ。

「洋介さんは瑠津さんのお気持ちを知っているのですか」

「知らないと思います」

「今までお気持ちをぶつけたことは」

 ない、と呟くように言った後、瑠津は坂根秀樹との交際に至った経緯を話した。

「彼に坂根君を紹介するよう願ったのですよ。その私がどの面を下げて彼に告白などできましょうか」

 瑠津の目は今にも涙が零れそうに潤んでいた。

「いえ。一度だけそっと告白したことがあったの」

 と彼女は涙を押し止め、懐かしげに話し出した。

 
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