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本編第二章
未来のための投資をしましょう3
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精霊祭も終わり、無事王都での社交シーズンを終えた3月。
私たち一向はダスティン領に帰ってきた。たくさんのお土産を持って。
「アンジェリカお嬢様、おかえりなさい」
「ただいま、みんな!」
出迎えてくれる大勢の領民たち。春の種まきがもうすぐに迫っている。領内は区画整理も落ち着いて、土壌改良を加えた畑もすっかり整備されていた。
「アンジェリカお嬢様、最後の温泉施設が完成しましたよ。まだまだ開発は必要ですが、夏のオープンに間に合いました」
そう誇らしげに話してくれるのは、街並み開発をお願いしていたリー&マーティン建築事務所の夫婦。観光地として最低限必要な7つの温泉施設の建設は、私たちが王都で過ごしている間に完成していた。
「アンジェリカ様、レストランの設備もばっちりです! あ、貴族向けの自然派レストランはもちろんですけど、庶民向けのお店もあったらいいかなと思って。夜にはお酒やつまみを出すお店なんてオシャレでしょ? 土地利用の許可が欲しいので、ここにサインお願いします」
しれっと契約書を差し出してくるキャリアウーマンは、ポテト料理店複数店舗経営で目覚ましい成果を出しているリンダ。考え方が完全に経営者のソレになっていて思わず笑った。
「診療所も改修してくださったのですね、ありがとうございます!」
そう目を輝かせるのは、王都の医学学会で大反響を呼ぶ発表を成し遂げたシュミット先生。傍らでは初めて王都から出たというエリザベスさんが興味津々といった体であたりを見渡している。
「ときにアンジェリカお嬢様、新しい馬車事業用の建物はどちらでしょう? 父から嫁入り道具に持たされたこの大量の馬車と馬を、まずは収納しなくては」
思いがけず貸し馬車業をスタートさせることになったので、急ぎ馬小屋と馬車収容の倉庫を先駆けて作るよう、手紙を出していた。冬場は農作業がお休みになるので人手はたくさんあったのか、準備が整ったと王都を去る間際に連絡がきていた。ドナルド社長から頂いた馬車のおかげで、帰省もずいぶん楽だったのは副産物だ。
ちなみにシュミット先生とエリザベスさんは王都を発つ前に籍を入れた。結婚式は6月に、ここダスティン領で行う予定だ。ダスティン領には今まで教会がなかったのだけど、それもついでに建設してもらった。今は精霊庁に神官派遣の要請を出しているところ。
「アンジェリカ様、劇場はまだ準備中なのですよね?」
そう問いかけるアニエスの周りには5人の女性たち。全員が劇団員志望の女優たちだ。劇団の建設は少し遅れているが、夏までには完成予定。柿落とし公演でシャティ・クロウの名作・恋月夜を上演することは、王都でもさんざん宣伝してきた。夏は観光シーズンで、1か月ほどであれば領地を不在にしても精霊のお許しが出る時期。王都から1週間以上離れた我が領にどれだけの人が集まってくれるかは、まだ未知だ。だからこそ、アニエスたちには宣伝も兼ねていつか王都の舞台も踏んでもらいたいと思っている。そのために、まずはここで地道に頑張ってもらいたい。
「女神の演じる恋月夜の騎士が、いよいよ本物の舞台で見られるとは……! あ、アンジェリカお嬢様、脚本はすでに仕上がりましたので!」
紙の束を握りしめるのは、シャティ・クロウことガイ・オコーナーさん。王都で執筆活動をするって言っていた彼がなんでここにいるのかって? ……私が聞きたいよ。え? 女神の姿をすぐ近くて見守りたい? 同じ空気が吸いたい? そのためには王都は遠すぎる? 小説はどこでも書けるからって、まぁ確かに。……うん、アニエスもまったく嫌がってないどころか、道中デレたりジレたりしてたからもうOKだよ、どんとこい(何が)。
「ちょっと、エステサロンの準備もぬかりはないんでしょうね」
不遜な感じでマリウムが仁王立ちする。リーさんとマーティンさん夫妻にこれでもかと指示を出しまくったその足で王都に出張だったから、一から十まで自分で確認したい彼にはストレスだったかもしれない。一通り見回りした後に「まぁ、なんとかなりそうね」と及第点をいただいた。
そして。
マリウムの後をちょこちょことついて回る、シルクのシャツに半ズボン姿の少年が、胸で大きく息を吸った。
「すごーい! ここ、どこもかしこもいい匂いだ! 嫌な匂いがしないね!」
満足そうに辺りを走り回るラファエロの姿に、私は自分の決断の正しさを噛み締めた。
「ラファエロのお店は、エステサロンの隣に作ろうと思うの。調香室はあなたの研究室の隣でいいかしら」
「……かまわないわ」
「それから、住むところもあなたと同じで本当にいいの? マリウム」
「ここまで来たら面倒みるわよ。ところで、小僧のお店の名前はどうするの?」
「決まってるじゃない。”メモリア”よ」
メモリア王都店は、開店後わずか2週間で閉店した。それ以降に入っていたオーダーメイドのお客様の個別対応をすべて終えた後、新規の予約は受け付けなかった。
“歩み始めたばかりの未来あるこの道を、あえて終わらせる必要が、どこにあるというのかーー”
治療院の廊下で私が自分自身に投げかけた問い。答えは「ここにあるに決まっている」だ。
ラファエロを犠牲にしてまで、成り立たせる店じゃない。そんな悪どい土台は腐り落ちる未来でしかなく、それは私も、リカルド様だって求めないだろう。
閉店する決断は早かったが、動き始めたこのビジネスをそう簡単に止めることはできない。だからお店は閉店でなく、移転することにした。
このダスティン領で、メモリア本店はこの夏オープンさせる。
考えてみればサボテンの乾燥花はトゥキルスから輸入するわけで、王都まで運ぶよりもダスティン領で受け取った方が輸送コストはかなり削減される。トゥキルス在住のリカルド様が今後出張に来られることになったとしても、うちの領でお出迎えする方が便利だし、店舗や調香室の視察もしてもらいやすい。そう考えるとダスティン領での展開は決して悪い案ではない。もちろん王都店ほどの収益が望めるかというと心もとないけど、代案は検討中だ。これも含めてリカルド様に交渉していく。
ラファエロはお店には立たせず、専属の調香室を作って、そこで調香にだけ従事してもらうことにした。すぐ隣にマリウムの化粧品研究室と居室スペースがある。ゴージャスな環境が好きなマリウムが設計しただけあって、部屋もいくつか余っていた。そこでラファエロも一緒に暮らすことになる。開発が進んだとはいえ、まだまだ牧歌的なダスティン領。王立農業研究所付近は国の施設ということもあって、商店街はあるものの、観光地の中心部からは距離をとっている。王都に比べれば、匂いや騒音など、ラファエロを煩わせるものが少ないはずだ。栄養面に関しては意外と料理好きのマリウムが面倒を見てくれるとのこと。ちなみに事情を知ったリンダが、庶民向けのお店でじゃがいも関連のおつまみ一品料理をたくさん開発してくれることにもなったのでダブルで安心だ。
メモリアの閉店を即決した私に、ラファエロのダスティン領への移住を提案してくれたのはマリウムだ。
「お嬢ちゃんが王都の店を閉店せずに、そのまま小僧を使い続ける決断をしていたら、アタシも辞めようと思ってたわ。利益の追求のためにヒトを使い潰すような雇用主の元で働くなんて真っ平だもの」
そうしてまだ見ぬ未知の素材を探して旅にでも出るつもりだったと、後に彼は言った。ラファエロにもついてくる気があるか、聞くつもりだったとも。もともと旅芸人の一座に拾われ流れ生活を送っていたラファエロ。親のない彼への扱いは酷かったらしいが、旅自体は好きだったと聞いている。苦手な匂いや食べ物ばかりの場所に連れて行かれたとしても、1ヶ月も我慢すればまた別の場所に行ける見通しが立っていたから、生きやすかったと。孤児院出身とはいえ職業選択の自由は彼にあるし、そもそもうちの契約は年期奉公でもない。調香の仕事を捨て、自分のことを理解してくれるマリウムについていった可能性は、十分あった。
天才肌の技術者2人を一気に失う瀬戸際だったとわかり、背筋がすくむ思いがした。マリウムはいつも無茶のぎりぎり下限を突いてくる。そしてその姿勢は、あろうことかあらぬ方向へ向こうとしていた。
「リカルドを納得させるだけの成果を見積もればいいんでしょ? やってやろうじゃないの。というか、どんな手を使ってでも納得させてやるわ」
なぜか組んだ指をボキボキと鳴らし始めたマリウム。……あの、代替のビジネス案を出してくれるのはありがたいんだけど、リカルド様にその無茶は振りかざさなくていいからね? あの方、彼の国での扱いはまだ平民ってことだけど、王族だからね? いや、アタシとアイツの仲だからなんとでもできるって、なんでそんな上から目線でイケルって思えるの!? そろそろ不敬罪って言葉おぼえようか!!
……とまぁ、いろいろイレギュラーはあったけど、何はともあれ準備は整った。はじめて前世の記憶を思い出したあの日から5年半の月日が流れ、私が夢見た温泉観光地構想が、この夏いよいよスタートする。
振り返ればそこにはたくさんの笑顔。どれかひとつでも欠けていたなら、今の私も、今のダスティン領もなかった。きっと来るべき未来もこなかったことだろう。
この笑顔を守るために、私にできる最善を尽くそうーー。そう決意して息を吸い込むと、記憶の奥底に眠る、懐かしい笑顔がふと浮かんできた。
前世も今も、私がやりたいことは変わらない。私が愛する人たちも変わらないーー。その手を、私はいつだって取り続けるから。
すっかり見違えた領地を高台から見下ろすと、耳元で温かい風が、懐かしい香りを運んできた。
それは、春を迎えるダスティン領の息吹に混ざって、新しい匂いになった。
_____________
蛇足的な1話があと続く予定です。
私たち一向はダスティン領に帰ってきた。たくさんのお土産を持って。
「アンジェリカお嬢様、おかえりなさい」
「ただいま、みんな!」
出迎えてくれる大勢の領民たち。春の種まきがもうすぐに迫っている。領内は区画整理も落ち着いて、土壌改良を加えた畑もすっかり整備されていた。
「アンジェリカお嬢様、最後の温泉施設が完成しましたよ。まだまだ開発は必要ですが、夏のオープンに間に合いました」
そう誇らしげに話してくれるのは、街並み開発をお願いしていたリー&マーティン建築事務所の夫婦。観光地として最低限必要な7つの温泉施設の建設は、私たちが王都で過ごしている間に完成していた。
「アンジェリカ様、レストランの設備もばっちりです! あ、貴族向けの自然派レストランはもちろんですけど、庶民向けのお店もあったらいいかなと思って。夜にはお酒やつまみを出すお店なんてオシャレでしょ? 土地利用の許可が欲しいので、ここにサインお願いします」
しれっと契約書を差し出してくるキャリアウーマンは、ポテト料理店複数店舗経営で目覚ましい成果を出しているリンダ。考え方が完全に経営者のソレになっていて思わず笑った。
「診療所も改修してくださったのですね、ありがとうございます!」
そう目を輝かせるのは、王都の医学学会で大反響を呼ぶ発表を成し遂げたシュミット先生。傍らでは初めて王都から出たというエリザベスさんが興味津々といった体であたりを見渡している。
「ときにアンジェリカお嬢様、新しい馬車事業用の建物はどちらでしょう? 父から嫁入り道具に持たされたこの大量の馬車と馬を、まずは収納しなくては」
思いがけず貸し馬車業をスタートさせることになったので、急ぎ馬小屋と馬車収容の倉庫を先駆けて作るよう、手紙を出していた。冬場は農作業がお休みになるので人手はたくさんあったのか、準備が整ったと王都を去る間際に連絡がきていた。ドナルド社長から頂いた馬車のおかげで、帰省もずいぶん楽だったのは副産物だ。
ちなみにシュミット先生とエリザベスさんは王都を発つ前に籍を入れた。結婚式は6月に、ここダスティン領で行う予定だ。ダスティン領には今まで教会がなかったのだけど、それもついでに建設してもらった。今は精霊庁に神官派遣の要請を出しているところ。
「アンジェリカ様、劇場はまだ準備中なのですよね?」
そう問いかけるアニエスの周りには5人の女性たち。全員が劇団員志望の女優たちだ。劇団の建設は少し遅れているが、夏までには完成予定。柿落とし公演でシャティ・クロウの名作・恋月夜を上演することは、王都でもさんざん宣伝してきた。夏は観光シーズンで、1か月ほどであれば領地を不在にしても精霊のお許しが出る時期。王都から1週間以上離れた我が領にどれだけの人が集まってくれるかは、まだ未知だ。だからこそ、アニエスたちには宣伝も兼ねていつか王都の舞台も踏んでもらいたいと思っている。そのために、まずはここで地道に頑張ってもらいたい。
「女神の演じる恋月夜の騎士が、いよいよ本物の舞台で見られるとは……! あ、アンジェリカお嬢様、脚本はすでに仕上がりましたので!」
紙の束を握りしめるのは、シャティ・クロウことガイ・オコーナーさん。王都で執筆活動をするって言っていた彼がなんでここにいるのかって? ……私が聞きたいよ。え? 女神の姿をすぐ近くて見守りたい? 同じ空気が吸いたい? そのためには王都は遠すぎる? 小説はどこでも書けるからって、まぁ確かに。……うん、アニエスもまったく嫌がってないどころか、道中デレたりジレたりしてたからもうOKだよ、どんとこい(何が)。
「ちょっと、エステサロンの準備もぬかりはないんでしょうね」
不遜な感じでマリウムが仁王立ちする。リーさんとマーティンさん夫妻にこれでもかと指示を出しまくったその足で王都に出張だったから、一から十まで自分で確認したい彼にはストレスだったかもしれない。一通り見回りした後に「まぁ、なんとかなりそうね」と及第点をいただいた。
そして。
マリウムの後をちょこちょことついて回る、シルクのシャツに半ズボン姿の少年が、胸で大きく息を吸った。
「すごーい! ここ、どこもかしこもいい匂いだ! 嫌な匂いがしないね!」
満足そうに辺りを走り回るラファエロの姿に、私は自分の決断の正しさを噛み締めた。
「ラファエロのお店は、エステサロンの隣に作ろうと思うの。調香室はあなたの研究室の隣でいいかしら」
「……かまわないわ」
「それから、住むところもあなたと同じで本当にいいの? マリウム」
「ここまで来たら面倒みるわよ。ところで、小僧のお店の名前はどうするの?」
「決まってるじゃない。”メモリア”よ」
メモリア王都店は、開店後わずか2週間で閉店した。それ以降に入っていたオーダーメイドのお客様の個別対応をすべて終えた後、新規の予約は受け付けなかった。
“歩み始めたばかりの未来あるこの道を、あえて終わらせる必要が、どこにあるというのかーー”
治療院の廊下で私が自分自身に投げかけた問い。答えは「ここにあるに決まっている」だ。
ラファエロを犠牲にしてまで、成り立たせる店じゃない。そんな悪どい土台は腐り落ちる未来でしかなく、それは私も、リカルド様だって求めないだろう。
閉店する決断は早かったが、動き始めたこのビジネスをそう簡単に止めることはできない。だからお店は閉店でなく、移転することにした。
このダスティン領で、メモリア本店はこの夏オープンさせる。
考えてみればサボテンの乾燥花はトゥキルスから輸入するわけで、王都まで運ぶよりもダスティン領で受け取った方が輸送コストはかなり削減される。トゥキルス在住のリカルド様が今後出張に来られることになったとしても、うちの領でお出迎えする方が便利だし、店舗や調香室の視察もしてもらいやすい。そう考えるとダスティン領での展開は決して悪い案ではない。もちろん王都店ほどの収益が望めるかというと心もとないけど、代案は検討中だ。これも含めてリカルド様に交渉していく。
ラファエロはお店には立たせず、専属の調香室を作って、そこで調香にだけ従事してもらうことにした。すぐ隣にマリウムの化粧品研究室と居室スペースがある。ゴージャスな環境が好きなマリウムが設計しただけあって、部屋もいくつか余っていた。そこでラファエロも一緒に暮らすことになる。開発が進んだとはいえ、まだまだ牧歌的なダスティン領。王立農業研究所付近は国の施設ということもあって、商店街はあるものの、観光地の中心部からは距離をとっている。王都に比べれば、匂いや騒音など、ラファエロを煩わせるものが少ないはずだ。栄養面に関しては意外と料理好きのマリウムが面倒を見てくれるとのこと。ちなみに事情を知ったリンダが、庶民向けのお店でじゃがいも関連のおつまみ一品料理をたくさん開発してくれることにもなったのでダブルで安心だ。
メモリアの閉店を即決した私に、ラファエロのダスティン領への移住を提案してくれたのはマリウムだ。
「お嬢ちゃんが王都の店を閉店せずに、そのまま小僧を使い続ける決断をしていたら、アタシも辞めようと思ってたわ。利益の追求のためにヒトを使い潰すような雇用主の元で働くなんて真っ平だもの」
そうしてまだ見ぬ未知の素材を探して旅にでも出るつもりだったと、後に彼は言った。ラファエロにもついてくる気があるか、聞くつもりだったとも。もともと旅芸人の一座に拾われ流れ生活を送っていたラファエロ。親のない彼への扱いは酷かったらしいが、旅自体は好きだったと聞いている。苦手な匂いや食べ物ばかりの場所に連れて行かれたとしても、1ヶ月も我慢すればまた別の場所に行ける見通しが立っていたから、生きやすかったと。孤児院出身とはいえ職業選択の自由は彼にあるし、そもそもうちの契約は年期奉公でもない。調香の仕事を捨て、自分のことを理解してくれるマリウムについていった可能性は、十分あった。
天才肌の技術者2人を一気に失う瀬戸際だったとわかり、背筋がすくむ思いがした。マリウムはいつも無茶のぎりぎり下限を突いてくる。そしてその姿勢は、あろうことかあらぬ方向へ向こうとしていた。
「リカルドを納得させるだけの成果を見積もればいいんでしょ? やってやろうじゃないの。というか、どんな手を使ってでも納得させてやるわ」
なぜか組んだ指をボキボキと鳴らし始めたマリウム。……あの、代替のビジネス案を出してくれるのはありがたいんだけど、リカルド様にその無茶は振りかざさなくていいからね? あの方、彼の国での扱いはまだ平民ってことだけど、王族だからね? いや、アタシとアイツの仲だからなんとでもできるって、なんでそんな上から目線でイケルって思えるの!? そろそろ不敬罪って言葉おぼえようか!!
……とまぁ、いろいろイレギュラーはあったけど、何はともあれ準備は整った。はじめて前世の記憶を思い出したあの日から5年半の月日が流れ、私が夢見た温泉観光地構想が、この夏いよいよスタートする。
振り返ればそこにはたくさんの笑顔。どれかひとつでも欠けていたなら、今の私も、今のダスティン領もなかった。きっと来るべき未来もこなかったことだろう。
この笑顔を守るために、私にできる最善を尽くそうーー。そう決意して息を吸い込むと、記憶の奥底に眠る、懐かしい笑顔がふと浮かんできた。
前世も今も、私がやりたいことは変わらない。私が愛する人たちも変わらないーー。その手を、私はいつだって取り続けるから。
すっかり見違えた領地を高台から見下ろすと、耳元で温かい風が、懐かしい香りを運んできた。
それは、春を迎えるダスティン領の息吹に混ざって、新しい匂いになった。
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蛇足的な1話があと続く予定です。
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