286 / 307
本編第二章
裏お見合い大作戦どころではありません4
しおりを挟む
バレーリ団長による法律の話にロイド副団長が頷きつつ、話を進めた。
「とはいえ、今回のことを受けて、今後は法整備と取り決めがさなれるでしょう。とりわけ今回の技術が平民から生まれたということは大きいです。精霊石は自由に売買が許されてはいますが、ある意味貴族の特権であることには変わりありません」
それはもっともな話だろう。誰もが自由に精霊石を加工したり流用したりということにまで自由を与えてしまったら、貴族の既得権益が侵され、この国の存続を揺るがす自体にもなりかねない。身分制度の是非は前世日本人の私の中にまったくないわけではないけれど、この世界がそれなくしては成り立たないことくらいは理解している。
「そしてリンド馬車のことですが、仮にリンド馬車がこの技術に目をつけ、身内と結婚させることでオコーナー家を取り込み、新たに購入した土地に工場を建てて、この布を量産したとしても、それを罰する法もないのです」
おおっと直球できたな。エミール新社長の企み、完全にバレてるじゃん。自業自得だけど、ちょっと御愁傷様だ。
「では、リンド馬車にもお咎めはないのですね」
「えぇ。そういうことになります。仮にリンド馬車がこの技術を隠蔽して我々の取り調べの要請に応じないともなれば、また話は別でしたが、新社長の話では、例の布について“国への報告義務があるとは思っていなかった、あくまで自分たちの商売に役立ちそうだから購入したいと思っただけ”とのことですからね」
騎士団の取り調べに対し、そう言い逃れたエミール新社長はさすがと言えなくもない。彼の話を信じたのかと、ちらりとバレーリ団長に視線を向けると、首をコキコキと鳴らしながらどうでも良さそうに言い放った。
「まぁ、この技術開発の報告を秘匿せず、国にあげてくれさえすれば、それがオコーナー家からであろうとリンド家からであろうと、もちろん今回のようにダスティン家からであろうと、我々としてはどこからでも良かったということだ」
つまり騎士団としては新技術が秘匿されず、その情報がきちんと手に入れば問題なしという態度を取るつもりだったということだ。ただし、報告をあげた家が優遇され、莫大な利益を得る可能性は十分にあった。エミール新社長は、オコーナー家を乗っ取ってこの技術を手にし、新たに建てた工場で布を量産、それを販売して利益を得る計画だったはずだ。途中、騎士団から横槍が入っても、「報告が必要とは知らなかった、今後はもう手を出さない」と言い逃れできる。国としてもこの画期的な新技術を一方的に奪うのは心象が悪く、リンド家になんらかの見返りは与えただろう。布を販売できる間はそれで儲け、販売にストップがかかった後は、その技術をダシに国に恩を売る。どちらにしても相当な利益を生む話。
そこまでのストーリーが見えてきたとき、心底エミール新社長のことが嫌いだと思った。今までは話の通じにくそうな人、という印象だけだったのが、お金のために身内や他人を犠牲にしてなんとも思わない冷徹な人、という印象に格下げされた。正直徹底的に糾弾して再起不能にしてやろうかとも思ったけれど、エリザベスさんの実家が没落してしまうのは本意ではない。
なので私は、騎士団にリークすることでエミールさんの野望を打ち砕くことに留めた。オコーナー家や、実際に画期的な技術を開発したガイさんのイトコが不幸にならないように、ということも考えた。その上で、この問題を預けるには、信頼できるバレーリ団長率いる騎士団が最適だと思ったのだ。
彼であれば、この一連の流れを読み解き、人のいいオコーナー家の人々を助けてくれると、そう信じて、結果はこの通りだ。技術は早々に騎士団を通じて精霊庁や国の知るところとなり、オコーナー家にも調査の手が入ったものの、オコーナー家は悪巧みとは無縁の家だから、素直に調査に応じて、穏便に話は進んでいる。もっともガイさんの話では、騎士団に乗り込まれたことでガイパパは卒倒してしまったそうで、そこだけは穏便じゃなかったかもしれない。
「とはいえ、今回のことを受けて、今後は法整備と取り決めがさなれるでしょう。とりわけ今回の技術が平民から生まれたということは大きいです。精霊石は自由に売買が許されてはいますが、ある意味貴族の特権であることには変わりありません」
それはもっともな話だろう。誰もが自由に精霊石を加工したり流用したりということにまで自由を与えてしまったら、貴族の既得権益が侵され、この国の存続を揺るがす自体にもなりかねない。身分制度の是非は前世日本人の私の中にまったくないわけではないけれど、この世界がそれなくしては成り立たないことくらいは理解している。
「そしてリンド馬車のことですが、仮にリンド馬車がこの技術に目をつけ、身内と結婚させることでオコーナー家を取り込み、新たに購入した土地に工場を建てて、この布を量産したとしても、それを罰する法もないのです」
おおっと直球できたな。エミール新社長の企み、完全にバレてるじゃん。自業自得だけど、ちょっと御愁傷様だ。
「では、リンド馬車にもお咎めはないのですね」
「えぇ。そういうことになります。仮にリンド馬車がこの技術を隠蔽して我々の取り調べの要請に応じないともなれば、また話は別でしたが、新社長の話では、例の布について“国への報告義務があるとは思っていなかった、あくまで自分たちの商売に役立ちそうだから購入したいと思っただけ”とのことですからね」
騎士団の取り調べに対し、そう言い逃れたエミール新社長はさすがと言えなくもない。彼の話を信じたのかと、ちらりとバレーリ団長に視線を向けると、首をコキコキと鳴らしながらどうでも良さそうに言い放った。
「まぁ、この技術開発の報告を秘匿せず、国にあげてくれさえすれば、それがオコーナー家からであろうとリンド家からであろうと、もちろん今回のようにダスティン家からであろうと、我々としてはどこからでも良かったということだ」
つまり騎士団としては新技術が秘匿されず、その情報がきちんと手に入れば問題なしという態度を取るつもりだったということだ。ただし、報告をあげた家が優遇され、莫大な利益を得る可能性は十分にあった。エミール新社長は、オコーナー家を乗っ取ってこの技術を手にし、新たに建てた工場で布を量産、それを販売して利益を得る計画だったはずだ。途中、騎士団から横槍が入っても、「報告が必要とは知らなかった、今後はもう手を出さない」と言い逃れできる。国としてもこの画期的な新技術を一方的に奪うのは心象が悪く、リンド家になんらかの見返りは与えただろう。布を販売できる間はそれで儲け、販売にストップがかかった後は、その技術をダシに国に恩を売る。どちらにしても相当な利益を生む話。
そこまでのストーリーが見えてきたとき、心底エミール新社長のことが嫌いだと思った。今までは話の通じにくそうな人、という印象だけだったのが、お金のために身内や他人を犠牲にしてなんとも思わない冷徹な人、という印象に格下げされた。正直徹底的に糾弾して再起不能にしてやろうかとも思ったけれど、エリザベスさんの実家が没落してしまうのは本意ではない。
なので私は、騎士団にリークすることでエミールさんの野望を打ち砕くことに留めた。オコーナー家や、実際に画期的な技術を開発したガイさんのイトコが不幸にならないように、ということも考えた。その上で、この問題を預けるには、信頼できるバレーリ団長率いる騎士団が最適だと思ったのだ。
彼であれば、この一連の流れを読み解き、人のいいオコーナー家の人々を助けてくれると、そう信じて、結果はこの通りだ。技術は早々に騎士団を通じて精霊庁や国の知るところとなり、オコーナー家にも調査の手が入ったものの、オコーナー家は悪巧みとは無縁の家だから、素直に調査に応じて、穏便に話は進んでいる。もっともガイさんの話では、騎士団に乗り込まれたことでガイパパは卒倒してしまったそうで、そこだけは穏便じゃなかったかもしれない。
43
お気に入りに追加
2,299
あなたにおすすめの小説
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?
りーさん
恋愛
気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?
こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。
他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。
もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!
そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……?
※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。
1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前
悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい
斯波
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。
※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。
※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる