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本編第二章

裏お見合い大作戦どころではありません3

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2024/3/16、「裏お見合い大作戦どころではありません」の1と2の順番を入れ替えました。先に精霊石の説明をしておいた方が、以降の場面転換なく進められ、構成上スムーズになると考えたからです。1の精霊石の話、2の久々の騎士団訪問の話を読まれていない方は、恐れ入りますが1からお読みください。
_________________________________________

「つまり、オコーナー家が開発した新商品について、跡取り息子であるガイという青年を通じて、アンジェリカ嬢、そなたが確認したところ、その商品が “粉砕した風の精霊石を塗布した布”であると知った、という経緯かな?」
「おっしゃる通りです」

 王立騎士団バレーリ団長の執務室で、事の経緯についての説明を求められた私は、素直に応じていた。

「さらにオコーナー家では、同じく水と土の精霊石を粉砕したものを混ぜ合わせ、糊のような役割を持たせた上で、風の精霊石を布に塗布する方法をとっていたと。加えてその布には、ある特殊な効果・・・・・・・があることがわかったと」
「はい。そしてその効果は、何よりも騎士の皆様が欲するものであろうと判断し、急ぎアッシュバーン辺境伯家のシンシア様を通じて、ご夫君のロイド副団長にお知らせした次第です」
「ふむ。確かにそなたの言う通り、この効果は我々騎士にとっては革命的とも言えるものであるし、この技術が広く採用されれば、我々の積年の苦労が解消され、滂沱ぼうだの涙を流す者も出てくることだろう」
「そ、そこまでおっしゃっていただけると、開発した甲斐があるでしょう……えっと、オコーナー家が!ですけど」

 私はあくまで今回のことは無関係で、精霊石を粉砕して二次利用する方法を編み出し実践したのはあくまでオコーナー家だ。ここに嘘はない。

「まぁ、概ね我々の調べとも合致しているな。そこは疑っておらん。ただ、そなたの話では、織物商であるオコーナー家と知り合ったのは、新しいビジネスの取引先として、ハムレット商会から紹介を受けたから、ということだったな? うちの領にガラス製のキャニスターを特注していた、あれか」
「……はい」

 ガイさんを紹介してくれたのはハムレット商会の副会頭であるサリムさんだし、うちの香りの新ビジネスで使用するサシェの袋の布は、ガイさんのところに発注することで話が進んでいる。これも嘘ではない。

「ところで、今回の革命的な技術開発に関して、騎士団が調査に乗り出したのだが、その中でオコーナー家の跡取り息子であるガイ青年に見合い話が持ち上がっているという話があった。相手はリンド馬車の娘だとか。この件に関して、そなたは何か知っているかな、アンジェリカ嬢」
「……ソウイエバ、商談のときにそんな話も聞きましたね」
「ちなみにくだんのリンド馬車の娘には結婚の口約束をした相手がいたようだが、その者がダスティン領の関係者だとか?」
「え、えぇ、そうなんです。もう偶然というかなんというか、びっくりしました。親族の言いつけで結婚が決まる話なんて珍しくはないですが、あまりにも身近な人たちのことで、かといって部外者の私たちが口をだすのも憚られ、どうしたものかと思っていたのです」
「ちなみにリンド馬車は最近、王都内で土地を購入した履歴があるが、この件に関してはどうだ?」
「え? そ、そうなんですか? 知りませんでした。さすがリンド馬車。お金持ちですね。うちのような貧乏貴族よりもお金持ちかもしれませんね、あははは」
「ちなみに念の為リンド馬車の社長とかいう若造にも話を聞いたが、増産する馬車用の倉庫のための土地と返事がきた。ちなみに明らかに格下となるオコーナー家に見合いを持ちかけた理由については、“オコーナー家とは長年の取引関係にあり、真っ当な商売をしている信頼できる相手だった。たまたま似合いの年頃の跡取り息子がいたので、貧乏な医者に嫁がせるよりも幸せになれると思った”と供述していたぞ」
「な、なるほど。妹さんを思う気持ちが暴走したんですかね?」
「ちなみにオコーナー家で開発した新技術の布に関しては、“話を聞いて、馬車の座面の布にぴったりだと思ったから購入したい旨を申し出ただけだ”との返答だった」
「あぁ、なるほど、確かに馬車の座面にもぴったりですね」
「ちなみに……」

 ちなみにが多いなバレーリ団長! そのツッコミをさすがに顔には出さなかったけれど、バレーリ団長はフッと息をついて話題を変えた。

「まぁ、リンド馬車の新社長が“座面の布に使用したいと購入を検討した”ことは、特に罪に問えるものでもないからな。もっと言えば、“この技術を自分たちの商売に取り込もうと画策し、実際に行動に移した”としても、こちらも罪に問うのは難しいな」
「え、そうなんですか!? 精霊石が関係しているのに?」

 思わずそう声を上げると、団長はニヤリと笑った。

「アンジェリカ嬢は、リンド馬車の企みを知っていたのかな?」
「い、いえ、メッソウモアリマセン」

 知ってはいなかったよ? そうかなーと当たりをつけていただけだからね! だから嘘じゃないです。顔を引き攣らせないようにニコニコしていると、ロイド副団長が付け足した。

「精霊庁以外の場所で、精霊石を加工してはいけないという法が、現在はないのです。ですからまず、オコーナー家がそのような取り組みに手を出したこと自体は、当然罪には問えません」

 ロイド副団長の話に私は小さく頷く。この点は、騎士団に話を持ちかける前にざっと調べていたから知っている。騎士団に情報提供したことでガイさんやイトコさんが罪に問われるのは避けたかったからだ。

「どちらかと言うと “精霊石そのものを加工しようなどと誰も思いつきもしなかったから、そのような法律が必要なかった”というのが正しいところだがな」

 バレーリ団長が腕を組み、ソファに深く座り込む。精霊石は研磨すると、小粒の宝石のような形になる。大小は多少あって、大きい物の方が効果が高く、小さいと弱くなる。そのため大きいものの方が重宝されやすい。粉砕してしまえば当然効果がかなり低くなるので、今まで誰もそうしようと思わないできたということだろう。




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