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本編第二章

裏お見合い大作戦どころではありません2

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2024/3/16、「裏お見合い大作戦どころではありません」の1と2の内容を入れ替えました。1で先に精霊石の話を出しておいた方が、2以降の場面転換がなくスムーズな構成になると判断しました。ブクマの関係で精霊石の話を読んでないという方、1から読み直していただけますとスムーズです。
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「ダスティン男爵、アンジェリカ嬢。久しいな」

 中に招き入れられた私と父の姿を見て破顔した、その人。お会いするのは実に4年ぶりのこと。前回もこの部屋にお邪魔したのだけど、そのときはうちで開発したじゃがいもの食用方法を王立騎士団で採用してもらえるかどうかの一大プロジェクトのためだった。

「はっ! バレーリ王立騎士団団長におかれましては、私どものことを憶えていてくださり、誠に恐悦至極に存じます」

 父が丁寧に腰を折る横で、私も恭しく膝を折ると、その人――王立騎士団のトップに君臨するバレーリ団長は豪快に笑った。

「あぁ、そう畏まらなくともよい。そなたらと私の仲ではないか。ダスティン男爵家が生み出したポテト料理のおかげで、我が騎士団はもちろんのこと、王国全土の食糧事情が潤い、果ては隣国トゥキルスとの仲までが改善しつつある。頭を下げねばならぬのはこちらの方だな、そう思わんか、ロイド」
「誠に。我がアッシュバーン領の私設騎士団も、お陰様で問題なく維持できています。開発が手付かずだった西方の領土も、王立農業研究所の設立の影響でテコ入れでき、ダスティン領に足を向けて寝られぬほどだと、当主である弟も言っているくらいですよ」

 バレーリ団長にそう相槌を打ったのはロイド・アッシュバーン副団長。しがない男爵家の我が家が拠り所とさせていただいている、お隣さんのアッシュバーン辺境伯、そこの当主アレクセイ様のお兄さんだ。家を継がなかった彼は王都に留まり、現在は騎士団のナンバー2として活躍中。奥様のシンシア様も含めて、我々一家は大変お世話になっている。

「ロイド副団長にも、このたびはお手数をおかけして申し訳ありません」
「男爵、謝罪いただくようなことは何もありませんよ。むしろ、王国全土を揺るがすような大発見について、いち早く情報提供のご協力をいただいたのです。男爵家からの情報がなければ初動が遅れ、面倒なことになっていたでしょう。騎士団からも感謝を述べさせて頂きたく、今回わざわざお越しいただいたのですから」
「はぁ。確かに私も事情を後から聞きまして、大変驚きました。しかしながら親でありながら、私はあまり関係しておりませんで……」

 言いながら父がちらりと私を見る。ううっ、視線がなんか痛い。

 笑うわけにもいかず、かといって畏まるのも違うので、微妙な表情をするしかない私に視線が集まった。

「ふっ、またそなたか。アンジェリカ嬢」

 ニヤリと笑うイケおじことバレーリ団長のお顔が真っ直ぐ見られない。いや、ちょっと言い訳させていただきますとだね、私だってまさか再びバレーリ団長の執務室にお邪魔することになるとは思っていませんでしたよ? ただただシュミット先生とエリザベスさん、それに覆面作家シャティ・クロウことガイさんの、いろいろ拗れた関係を正して、あわよくば香りの新ビジネスに役立てたいなとか、その程度の野心しか持っていなかったんですけどね!

「えっと……大変ご無沙汰しております、バレーリ団長様?」

 何から始めていいやらわからぬときは、にっこり笑って基本の挨拶! どうだ、超絶美少女の天使のスマイル炸裂だよ! 言ってて中身アラサー的にはなんか痛いけど、アンジェリカ、本当に美少女だから許されるはず!

 けれど10歳少女の甘い微笑みに絆されてくれるようなぬるい人は、この王立騎士団の執務室にはいなかった。

「さて、人伝にはすでに聞き及んではいるが、直接そなたから話を聞かせてもらおうか、アンジェリカ嬢。時間はたっぷりあることだしな」
「団長、あなた、尋問するときみたいな顔になっていますよ」

 ロイド副団長がすかさず突っ込むくらいには確かにキナ臭い顔つきだ。

「まさか! 騎士団のみならず精霊庁まで巻き込んでの上を下への大騒動となった今回の出来事ではあるが、我々騎士団はある意味アンジェリカ嬢に、前回のポテト料理に引き続きまたしても尽力いただいたことになるのだ。そんなご令嬢に尋問など、するわけがなかろう。私はただ直接感謝の意を述べたかったのと同時にだな、あまり公にはできぬことの顛末をご令嬢が知りたかろうと、わざわざこのような機会を設けたのだぞ? それを受けてアンジェリカ嬢は喜び勇んでやってきてくれたというわけだ、なぁアンジェリカ嬢?」
「……バレーリ団長のおっしゃる通りでございます」

 いや、別に直接お話しくださらなくても良かったと思わなくもないけどね。だってシンシア様のところにはよくお邪魔しているから、ご主人であるロイド副団長には比較的気安く会えるわけだし、そのときにでも「こうなりましたよー」って事情をちらっと教えてもらえたらそれで良かったんですけどね。こんな、隅っことはいえ王宮内にある騎士団の総本山に、しがない下級貴族の分際でそうそう来たいとは思いませんけどね!

 けれどそんなことはおくびにも出さず、私と父は勧められるままに席に着いた。騎士見習いと思われる方達がお茶を用意してくれた後、さっそくバレーリ団長が話を進めた。

「これは正式な調査ではないから、そう畏まらなくていい。私が知りたいのは、そなたがどうやってあの“画期的な布”を知るに至ったのか、ということだ」

 画期的、という言葉に思わず息を呑むも、なんとか顔をあげた。

「恐れながら、すべては偶然の産物にございます」

 何度も言うように、私はエリザベスさんとガイさんを縛る、作為あるお見合いを壊したかっただけだ。疑われるようなことは何もしていない。我々男爵家にあらぬ疑いがかけられることはなんとしても避けたい。

 エリザベスさんの兄であるエミール新社長が、妹とガイさんのお見合いを強行しようとした理由。そこにリンド馬車による織物商オコーナー家の乗っ取りがあるのではないかと考えた私は、ガイさんのイトコに当たる人が開発したという新商品が怪しいと睨み、その商品の詳細について調べるよう、ガイさんに求めた。

 そしてこの読みが、まさしくドンピシャだった。



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