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本編第二章

裏お見合い大作戦です1

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 継母の案を採用した、悩める人たちを集めてとにかくごった煮してしまおうという計画。題して裏お見合い大作戦! うん、さすが私、命名方法が安定の安易さだね。やはりシャティ・クロウ先生のコピーライトセンスを取り込まねば、香りビジネスの先行きが不安で仕方ありません。

 2人を我が家に呼ぶ方略は思いのほかうまくはまった。やはりエリザベスさんは外出の制限がかかり始めたようで、それならばと比較的自由に動ける侍女のマイアさんと外で落ち合い、王立孤児院で私とエリザベスさんが偶然出会う→エリザベスさんに懐いた私が借り受けているタウンハウスにご招待という作戦について打ち合わせした。孤児院慰問については多少の息抜きも必要と長兄のエミールさんの許可が下りたようで、その後は計画通りとんとん拍子に話が進んだ。

 ガイさんの方はハムレット商会のサウル副会長が喜んで協力くださり、見事ガイさんパパを釣り上げてくれた。れっきとした男爵であるうちの父の名前を出して「ダスティン男爵家は王国でも飛ぶ鳥落とす勢いで伸びている家であり、ハムレット商会も大変お世話になっている、くれぐれも切れ者と評判の男爵を怒らせず、良い商談をするように」とあることないこと口添えしてくださったおかげで、ガイさんパパはすっかり萎縮してしまい、息子にが窓口を任せることになったらしい。的外れな評判を背負わされたお父様には申し訳ないが、使えるモノはなんでも使うのが今の私のモットー。かわいい娘に免じて許してほしい。

 そうしてタウンハウスで初の顔合わせとなる裏お見合いが実現したわけですがーー。

「えええぇぇぇぇぇぇー!! ガイさんがシャティ・クロウ!?!?!?」

 案の定の安定の幕開けとなりました。あれ、言語的におかしいな。






 興奮したエリザベスさんをシュミット先生が「エリザベス! あなたの婚約者は私ですからね! お願いですから私を見てぇぇぇ!」と落ち着かせようとしたもののなかなか治らず、最終的に同席していた秘書役のケイティが、保管用に大切にしていたシャティ・クロウのサイン本を「お嬢様とシャティ・クロウ先生の新作のため……っ!」と断腸の思いでエリザベスさんにプレゼントしてくれたことでなぜか収束した。これこそ本当の荒療治だ。

 ケイティありがとね。オタクにはオタクにしかわからない病と治療法がるんだね。あぁほら、そんな涙目にならないで。あとでガイさんに頼んでもう一冊サインもらってあげるから。

「その、エリザベスお嬢様のご想像を壊してしまい、申し訳ありません……」

 今日もその大きな背中をやや丸めて、恐縮そうにガイさんが謝罪した。

「い、いえっ! そんなことはありません。そうではなくて、憧れのシャティ・クロウ先生にお会いできて感激してしまって……っ。私こそ大変失礼を。その、改めまして、エリザベス・リンドと申します。どうぞエリザベスとお呼びください。私もガイさんとお呼びしてもよろしいでしょうか」
「もちろんです!」
「エリザベス! そんな……っ、初対面の男性に対してあまりにも親切にしすぎでしょう! もしや彼のことを好ましく思って、私のことを捨てようとしてるんじゃ……!?」
「ちょっとゲイリー、落ち着いて。そういうんじゃないからっ。ほら、ガイさんに失礼だわ。それに今日はダスティン男爵夫人の御前よ。このような私事に奥様やお嬢様のお手を煩わせてしまうなんて……」
「あら、私は気にしてないわ。エリザベスさんもガイさんもどうぞお楽になさってちょうだいな」

 そう、今回の主催者は表向きは継母となっている。ちなみにエリザベスさんと友達になろう大作戦で孤児院に訪問したとき、継母にもついてきてもらった。エリザベスさんのおうちには継母から「娘のアンジェリカがエリザベスさんをとても気に入って、家に招待したいと言っている。ついてはこの日のこの時間のご都合はいかが?」とちょっと偉そうに日付決め打ちで手紙を出してもらったのだ。なので2人はすでに面識がある。

 父は色恋が絡んだこういう話の裏事情を読むにはあまり長けていない。というわけで今回は遠慮してもらって、今この部屋にいるのは招待したエリザベスさんとガイさん。我が家の体制は私と継母、ケイティ、ロイ、シュミット先生、そして通りがかった船よろしくのスノウだ。

 なお、ガイさんは本当に布見本を持ってきてくれた。サウル副会頭の脅し……もとい口添えのおかげで、失礼があってはならんとかなり大量の見本を父親から持たされたらしい。あまりの量だったので、別室でクレバー夫人とサリーに一次審査を頼んでいる最中だ。

「それでは僭越ながら、私がお話を進めさせていただきます」

 ここからはスーパー執事の仕切りで、2人に事情を聞いていくことになった。なったのだけど。

「なるほど。つまりお二人ともそれぞれ“見合いが決まった”と双方の親から突然言われた以上の事情がわからない、ということですね」

 そう、今知っている以上の情報は出てはこなかった。恐縮したようにガイさんが頷く。

「はい。父がリンド馬車との打ち合わせから帰ってきて、唐突に“おまえに縁談の話をもらってきたぞ”と、それだけで。お相手の情報を聞いて、あまりにもうちとは格が違うことに驚いて、何かの間違いじゃないかと問いただしたんですが、“新社長のエミール殿から直接頼まれたのだから間違いない”と」
「私の方は兄から“おまえには見合い結婚してもらうことにする。今まで父や会社に育ててもらった恩返しと思って受けてもらうぞ”と。その上、ゲイリーとの婚約はただの口約束だし、約束した前社長の父が引退した以上、新社長である自分に従うのが筋だとも言われました」

 エリザベスさんも俯き、膝に置いた手を握りしめた。シュミット先生も苦しそうな表情で彼女に手を重ねる。

 さらなる情報が引き出せないかと、ロイが言葉を重ねた。

「ちなみに、お二人のご実家の家業についてですが、ガイさんがおっしゃった通り、リンド馬車の方が事業規模としては上です。そのリンド馬車の新社長が敢えてガイさんの家に見合いを申し込んだというのが謎ですよね。逆にいえば、ここの理由が解明すれば、何か突破口が開けそうなんですが。リンド馬車がこの見合い話に積極的になるような理由について、何か心当たりはありませんか?」
「すみません、家の商売のことは私はよく知らなくて……すべて父や兄の領分なものですから」
「うちも特に思い当たる節がありませんね。リンド馬車との取引は、そもそもものすごく大きいわけじゃないんです。どちらかというとハムレット商会やその他のドレス工房の方が比重が大きいものですから……あ、でも」

 ふと思いついたかのようにガイさんが顔をあげた。

「リンド馬車の対応は父の役目なので、私はあまり詳しくはないのですが、近々大型の発注をいただけることになっているようです」
「大型の発注、ですか?」
「えぇ。確か馬車の座面に使用するものだと聞いています」
「馬車の座面……布の張り替えの修理でもする予定なんですかね」

 ロイの呟きに、「そういえば」とエリザベスさんも声をあげた。
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