136 / 307
本編第一章
いろいろ進展がありそうです2
しおりを挟む
今回の王都での滞在中に、両親は行く先々でメイド長を探していることを相談していたらしい。人員スカウトも社交シーズン中によく交わされる話題のひとつだ。また王立学院にも求人を出したりと、努力していた。条件は王立学院卒かそれに準ずる教養を身につけていること、身分は平民・貴族問わないこと、年齢も不問、紹介状が準備できることなどだ。だが、名前を聞いてもぱっとしない、大した給金も出せない男爵領に積極的に来てくれる人もなく、返答はなしの礫だった。
だが今回、ウォーレス子爵であるエリン様が「もしかしたら……」と名前を挙げてくれた人がいたらしい。
「その人はオーガスタさんといって、元はピグルマ子爵家の遠縁の方だそうだ。お年は我々より少し上になる。王立学院出身だから、在校中に私たちともかぶっていたはずなんだが、残念ながら私もカトレアも記憶になくてね」
「ピグルマ子爵家というと……えっと」
「王都のずっと東に位置するおうちだね。確か、柑橘類が名産じゃなかったかな」
父もあやふやな印象なところを見ると、それほど有名な家系ではないらしい。バレーリ団長のご実家のように有名な高位貴族ならぱっと浮かんでもくるのだが、子爵家・男爵家レベルとなると合わせて100近くに上るから、よほど隆盛なところでないと出てこない。
「まぁ、今ではもうピグルマ子爵家とはつながりがほぼないそうだよ。もともと遠縁で、王立学院入学時と就職時に身分証明をしてもらった程度で、在学中もそれ以後も援助を受けているというわけでもないそうだ。それにオーガスタさんはひとり娘で、すでにご両親もないらしい」
「ピグルマ領のご出身の方が、なぜウォーレス領にいらっしゃるのですか?」
ウォーレス家は子爵領の中でもそれほど大きな家ではない。規模としても中の下程度だ。ピグルマ家もおそらく同じ程度なのだろうが、わざわざウォーレス領にくる必要性を感じない。
「ウォーレス家出身の人と結婚して、それで移住してこられたそうだ」
「あぁ、なるほど」
父がエリン様から聞いた話によると、このオーガスタさん、なかなか不幸な身の上らしかった。
もともとは遠縁とはいえ貴族の一族だったので、王立学院にも入学できたのだが、取り立てて裕福というわけでもなかったことから、卒業後は王立医術員の事務員として働きに出ることになった。そこで出会ったウォーレス家の男性医師(エリン様の又従兄弟になる)と結婚し、ウォーレス領に移住することになった。やがて2人の子どもにもめぐまれ、しばらく幸せに暮らしていたそうだが、ある日、彼女たちが暮らす山間の地で地震が発生した。その際に起きた土砂崩れの影響で、ご主人が亡くなってしまったそうだ。
「その日はオーガスタさんの子どもも含め、地域の子どもたちが集って、ピクニックに出かけていたらしい。そこで地震が発生してしまった。帰りが遅い子どもたちを心配して何人かの大人が山に登り、そこで二次災害的に起きた土砂崩れに巻き込まれてしまったそうだ。その中に、オーガスタさんのご主人がいたそうだよ」
この世界では各地に精霊庁配下の教会があり、そこで神官が平民の子どもたちに簡単な読み書きを教えてくれたり、課外授業と称して集団で遠足に出かけたりする。2人の子どもたちは普段は家でオーガスタさんが家庭教師となって勉強していたそうだが、町の子どもたちとも仲が良く、課外授業にはよく参加していたらしい。ピクニックに出かけた子どもたちと、それを心配して迎えに出かけた大人たちの何人かが土砂崩れに巻き込まれることになった。
「幸い彼女の2人の子どもは命は助かったんだが、お嬢さんの方がそのとき怪我をしてしまい、今でもその後遺症で片足を引きずって歩いているそうなんだ」
事故の後、ウォーレス領中から医師が集まり、怪我人の治療に当たった。彼女の娘も手厚い治療を受けたが、それ以上よくはならなかったらしい。オーガスタさんは夫を亡くし、未だ小さい息子と障害を負った娘を抱え、生きていくことになった。
幸い彼女には学があったため、夫に代わって赴任してきた新たな医師の元で事務員として働き始めた。悪い思い出が残る今の場所で暮らし続けるのは辛いのではと、当時の当主だったエリン様の父が転地も提案したが、悪い思い出だけでなく家族のよい思い出もたくさんあるこの地から、今は離れたくないと、残ることを選択したそうだ。
「それはとても……大変な思いをされたのですね」
「私もカトレアも、この話を聞いたとき、思わず言葉を失ってしまったよ」
顔を見合わせる両親に、私はふと浮かんだ疑問を投げた。
「だけど、そんな方が今更うちのメイド長になってくださるものですか?」
「そこなんだよ。私もそれが気になってエリン様に尋ねたんだがね」
「エリンが言うには、オーガスタさんは2人の子どもたちーーお名前をエリックさんとリンダさんとおっしゃるそうなのだけど、彼らの就職先を探しているそうなの、とくにリンダさんの」
「……どういうことですか?」
うちが探しているのはメイド長で、推薦されたのはオーガスタさんのはずだ。だけど、職を探しているのは子どもたち?
「つまり、オーガスタさんと子どもたちを全員、うちで雇ってもらえないだろうか、と提案されたのよ」
どうやらエリン様の話にはまだ続きがある模様だった。
だが今回、ウォーレス子爵であるエリン様が「もしかしたら……」と名前を挙げてくれた人がいたらしい。
「その人はオーガスタさんといって、元はピグルマ子爵家の遠縁の方だそうだ。お年は我々より少し上になる。王立学院出身だから、在校中に私たちともかぶっていたはずなんだが、残念ながら私もカトレアも記憶になくてね」
「ピグルマ子爵家というと……えっと」
「王都のずっと東に位置するおうちだね。確か、柑橘類が名産じゃなかったかな」
父もあやふやな印象なところを見ると、それほど有名な家系ではないらしい。バレーリ団長のご実家のように有名な高位貴族ならぱっと浮かんでもくるのだが、子爵家・男爵家レベルとなると合わせて100近くに上るから、よほど隆盛なところでないと出てこない。
「まぁ、今ではもうピグルマ子爵家とはつながりがほぼないそうだよ。もともと遠縁で、王立学院入学時と就職時に身分証明をしてもらった程度で、在学中もそれ以後も援助を受けているというわけでもないそうだ。それにオーガスタさんはひとり娘で、すでにご両親もないらしい」
「ピグルマ領のご出身の方が、なぜウォーレス領にいらっしゃるのですか?」
ウォーレス家は子爵領の中でもそれほど大きな家ではない。規模としても中の下程度だ。ピグルマ家もおそらく同じ程度なのだろうが、わざわざウォーレス領にくる必要性を感じない。
「ウォーレス家出身の人と結婚して、それで移住してこられたそうだ」
「あぁ、なるほど」
父がエリン様から聞いた話によると、このオーガスタさん、なかなか不幸な身の上らしかった。
もともとは遠縁とはいえ貴族の一族だったので、王立学院にも入学できたのだが、取り立てて裕福というわけでもなかったことから、卒業後は王立医術員の事務員として働きに出ることになった。そこで出会ったウォーレス家の男性医師(エリン様の又従兄弟になる)と結婚し、ウォーレス領に移住することになった。やがて2人の子どもにもめぐまれ、しばらく幸せに暮らしていたそうだが、ある日、彼女たちが暮らす山間の地で地震が発生した。その際に起きた土砂崩れの影響で、ご主人が亡くなってしまったそうだ。
「その日はオーガスタさんの子どもも含め、地域の子どもたちが集って、ピクニックに出かけていたらしい。そこで地震が発生してしまった。帰りが遅い子どもたちを心配して何人かの大人が山に登り、そこで二次災害的に起きた土砂崩れに巻き込まれてしまったそうだ。その中に、オーガスタさんのご主人がいたそうだよ」
この世界では各地に精霊庁配下の教会があり、そこで神官が平民の子どもたちに簡単な読み書きを教えてくれたり、課外授業と称して集団で遠足に出かけたりする。2人の子どもたちは普段は家でオーガスタさんが家庭教師となって勉強していたそうだが、町の子どもたちとも仲が良く、課外授業にはよく参加していたらしい。ピクニックに出かけた子どもたちと、それを心配して迎えに出かけた大人たちの何人かが土砂崩れに巻き込まれることになった。
「幸い彼女の2人の子どもは命は助かったんだが、お嬢さんの方がそのとき怪我をしてしまい、今でもその後遺症で片足を引きずって歩いているそうなんだ」
事故の後、ウォーレス領中から医師が集まり、怪我人の治療に当たった。彼女の娘も手厚い治療を受けたが、それ以上よくはならなかったらしい。オーガスタさんは夫を亡くし、未だ小さい息子と障害を負った娘を抱え、生きていくことになった。
幸い彼女には学があったため、夫に代わって赴任してきた新たな医師の元で事務員として働き始めた。悪い思い出が残る今の場所で暮らし続けるのは辛いのではと、当時の当主だったエリン様の父が転地も提案したが、悪い思い出だけでなく家族のよい思い出もたくさんあるこの地から、今は離れたくないと、残ることを選択したそうだ。
「それはとても……大変な思いをされたのですね」
「私もカトレアも、この話を聞いたとき、思わず言葉を失ってしまったよ」
顔を見合わせる両親に、私はふと浮かんだ疑問を投げた。
「だけど、そんな方が今更うちのメイド長になってくださるものですか?」
「そこなんだよ。私もそれが気になってエリン様に尋ねたんだがね」
「エリンが言うには、オーガスタさんは2人の子どもたちーーお名前をエリックさんとリンダさんとおっしゃるそうなのだけど、彼らの就職先を探しているそうなの、とくにリンダさんの」
「……どういうことですか?」
うちが探しているのはメイド長で、推薦されたのはオーガスタさんのはずだ。だけど、職を探しているのは子どもたち?
「つまり、オーガスタさんと子どもたちを全員、うちで雇ってもらえないだろうか、と提案されたのよ」
どうやらエリン様の話にはまだ続きがある模様だった。
55
お気に入りに追加
2,305
あなたにおすすめの小説
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)
ラララキヲ
ファンタジー
乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。
……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。
でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。
ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」
『見えない何か』に襲われるヒロインは────
※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※
※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※
◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
転生幼女の怠惰なため息
(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン…
紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢
座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!!
もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。
全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。
作者は極度のとうふメンタルとなっております…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる