上 下
123 / 307
本編第一章

新しい商売のアイデア大募集です4

しおりを挟む
 自分の商売に関する認識の甘さに気づくと同時に、前世のことを思い出した。

 私が働いていたNGOの組織。発展途上国支援を目的に活動しており、よく勘違いもされるのだが、その実は決してボランティアではない。活動のベースに各方面からの寄付金があったことは事実だが、私たちは支援先の生活を安定させることや、商売として成り立つものを育てることを目的としていた。ただのボランティアや趣味ごとのようなものでは、その地域の人々への真の支援にならないからだ。そしてそれらの支援をしながら私たち職員もまたしっかりお給料はもらっていた。「ボランティアで教えてください」と言われたら、私だって「は?」と返していただろう。

 「儲からないものは流行らない」と双子たちは言った。もちろん世の中には流行に左右されないものもあるだろう。だが前世と違い、行動や流通が制限されるこの世界。自分の生まれた地域から一歩も出ずに生涯を終える者もたくさんいる。

 そんな彼らに外の世界の空気を運んできてくれるのが商人だ。ダスティン領にも定期的に行商の馬車が到来していた。街から街へ伝播させるためには彼らの力は欠かせない。そんな彼らに喰いついてもらうためにも、商売になるかならないかは重要なファクターだろう。

「私の認識が甘かったわ。ごめんなさい……」
「いや、謝らせたかったわけじゃないんだ」
「そうですわ。こちらこそ、きつい言い方になってしまって申し訳ありません」
「いいえ、私は重大な過ちをおかすところだった。それを気づかせてくれたこと、とても感謝しています」

 双子たちの助言がなければ、私は採算のことは無視して闇雲にこの事業を進めてしまっただろう。そしてせっかく生み出したポテト料理の可能性を潰してしまうところだった。そうなればマクスウェル宰相が言うところの“一地域における特産”で終わらせてしまうことになったかもしれない。

「もう一度ちゃんと考えてみたいの。きちんと採算がとれる方法を。ただ、うちは貧乏だからお金も人員も足りない。今あるものでどうにかしないと……」
「とりあえずアッシュバーン領にある一号店は大事にしたいよな。仕入れ値や人件費の計算の仕方も隙がないし、五ケ年計画の売り上げシミュレーションも無理のない数字だ。よく練られているよ」
「本当に。とくにこの季節ごとの売り上げ予想はとても興味深いですわ。よくできた計画書ですこと」
「ありがとう。それ、うちの執事が作ったの。彼、王立学院出身で、経営学を専攻していたそうだから」

 私が双子たちに見せていたのはロイが作ったお店の計画書だ。王宮の財務関係からもスカウトがきていたという逸材が久々に本領発揮して作成したそれは、前世の私の知識からしても素晴らしい出来栄えだった。

「えっ、こんなすごいもの作った人がアンジェリカの家で執事なんかやってるのかよ」
「ライト、それはダスティン家に対して失礼な物言いだよ」

 ミシェルが嗜めてくれたが私は気にしなかった。ロイは経歴だけ見ればうちにはもったいない存在であることは確かだ。いじめられている幼児を放置するような、性格は少々アレな人だけど。

「でも、本当によくできた財務計画書ですわね。さぞかし優秀な方だったのではないかしら。この方の卒業研究を見せていただきたいわ。執事さんのお名前、なんておっしゃいますの?」
「え、えーっと……ロイって言うんだけど」
「苗字は?」
「ごめん、知らない」

 それは本当だ。そういえばロイの苗字、聞いてなかったな。おかげでキャロルたちに嘘をつかないですんだけど。

「と、とにかく、1号店はなんとか見通しがたっているのよ。問題はこの先。どう展開していけばいいかってこと。できれば2号店や3号店が出したいのだけど」

 もともと私はこれで儲ける気はなかった。だから「ポテト料理を勉強したい!」と手をあげてくれる人がいればタダで教えてあげるつもりでいた。だが双子たちにダメ出しをされた今、きちんと採算が取れる方法で見直していかなくてはならない。

 話題をロイから一旦逸らし、商売のあり方について再度問いかけると、ライトが何かを思案するように指を立てた。

「あのさ、アンジェリカは“儲ける気はない”って言ってたよな」
「え? えぇ、初めはそれでいいと思っていたわ。今は考えを改めたけれど」
「ということは、売り上げの額についてはそこまで拘らないってことだよな」
「そうね。2人にアドバイスをもらった今だから、ゼロっていうのは困るなって思うけど。もともとはルシアンたちにお給料が出せて、あとは不測の事態にも対応できるだけの貯蓄ができる程度であればいいかなって思っていたわ。というより、そもそもうちが経営するのもどうかと思っていたくらいなのよ」

 ルシアンが固辞したので経営権をダスティン家で握ることになったが、彼女が自分でやりたいと言い出せば譲ってもいいと思っていたのは、何度も言うが本当の話だ。

「だったら、店舗からダスティン家に納めてもらう売り上げ金額を一定額に決めてしまったらどうだろう?」
「どういうこと?」
「たとえば店舗からダスティン家に毎月10万カーティを納めてもらうようにするんだ。それ以上売り上げが出れば、それは店を実際に運営している者たちの収入にする。10万カーティはいわゆる上納金ってやつだな。店員は頑張れば自分たちの収入増につながるわけだからやる気もあがるだろうし、ダスティン家は一定額の収入を半永久的に手に入れることができるようになるわけだ」

 カーティというのはこの世界のお金の単位だ。前世で言うところの1円=1カーティくらい。ライトは定額の上納金を設定して、その分だけ徴収するシステムを提案している。

 ライトネルのアイデアに、キャロルとミシェルが目を丸くしていた。その隣で私もまた唖然としていた。




しおりを挟む
感想 103

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

処理中です...