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本編第一章
新しい商売のアイデア大募集です4
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自分の商売に関する認識の甘さに気づくと同時に、前世のことを思い出した。
私が働いていたNGOの組織。発展途上国支援を目的に活動しており、よく勘違いもされるのだが、その実は決してボランティアではない。活動のベースに各方面からの寄付金があったことは事実だが、私たちは支援先の生活を安定させることや、商売として成り立つものを育てることを目的としていた。ただのボランティアや趣味ごとのようなものでは、その地域の人々への真の支援にならないからだ。そしてそれらの支援をしながら私たち職員もまたしっかりお給料はもらっていた。「ボランティアで教えてください」と言われたら、私だって「は?」と返していただろう。
「儲からないものは流行らない」と双子たちは言った。もちろん世の中には流行に左右されないものもあるだろう。だが前世と違い、行動や流通が制限されるこの世界。自分の生まれた地域から一歩も出ずに生涯を終える者もたくさんいる。
そんな彼らに外の世界の空気を運んできてくれるのが商人だ。ダスティン領にも定期的に行商の馬車が到来していた。街から街へ伝播させるためには彼らの力は欠かせない。そんな彼らに喰いついてもらうためにも、商売になるかならないかは重要なファクターだろう。
「私の認識が甘かったわ。ごめんなさい……」
「いや、謝らせたかったわけじゃないんだ」
「そうですわ。こちらこそ、きつい言い方になってしまって申し訳ありません」
「いいえ、私は重大な過ちをおかすところだった。それを気づかせてくれたこと、とても感謝しています」
双子たちの助言がなければ、私は採算のことは無視して闇雲にこの事業を進めてしまっただろう。そしてせっかく生み出したポテト料理の可能性を潰してしまうところだった。そうなればマクスウェル宰相が言うところの“一地域における特産”で終わらせてしまうことになったかもしれない。
「もう一度ちゃんと考えてみたいの。きちんと採算がとれる方法を。ただ、うちは貧乏だからお金も人員も足りない。今あるものでどうにかしないと……」
「とりあえずアッシュバーン領にある一号店は大事にしたいよな。仕入れ値や人件費の計算の仕方も隙がないし、五ケ年計画の売り上げシミュレーションも無理のない数字だ。よく練られているよ」
「本当に。とくにこの季節ごとの売り上げ予想はとても興味深いですわ。よくできた計画書ですこと」
「ありがとう。それ、うちの執事が作ったの。彼、王立学院出身で、経営学を専攻していたそうだから」
私が双子たちに見せていたのはロイが作ったお店の計画書だ。王宮の財務関係からもスカウトがきていたという逸材が久々に本領発揮して作成したそれは、前世の私の知識からしても素晴らしい出来栄えだった。
「えっ、こんなすごいもの作った人がアンジェリカの家で執事なんかやってるのかよ」
「ライト、それはダスティン家に対して失礼な物言いだよ」
ミシェルが嗜めてくれたが私は気にしなかった。ロイは経歴だけ見ればうちにはもったいない存在であることは確かだ。いじめられている幼児を放置するような、性格は少々アレな人だけど。
「でも、本当によくできた財務計画書ですわね。さぞかし優秀な方だったのではないかしら。この方の卒業研究を見せていただきたいわ。執事さんのお名前、なんておっしゃいますの?」
「え、えーっと……ロイって言うんだけど」
「苗字は?」
「ごめん、知らない」
それは本当だ。そういえばロイの苗字、聞いてなかったな。おかげでキャロルたちに嘘をつかないですんだけど。
「と、とにかく、1号店はなんとか見通しがたっているのよ。問題はこの先。どう展開していけばいいかってこと。できれば2号店や3号店が出したいのだけど」
もともと私はこれで儲ける気はなかった。だから「ポテト料理を勉強したい!」と手をあげてくれる人がいればタダで教えてあげるつもりでいた。だが双子たちにダメ出しをされた今、きちんと採算が取れる方法で見直していかなくてはならない。
話題をロイから一旦逸らし、商売のあり方について再度問いかけると、ライトが何かを思案するように指を立てた。
「あのさ、アンジェリカは“儲ける気はない”って言ってたよな」
「え? えぇ、初めはそれでいいと思っていたわ。今は考えを改めたけれど」
「ということは、売り上げの額についてはそこまで拘らないってことだよな」
「そうね。2人にアドバイスをもらった今だから、ゼロっていうのは困るなって思うけど。もともとはルシアンたちにお給料が出せて、あとは不測の事態にも対応できるだけの貯蓄ができる程度であればいいかなって思っていたわ。というより、そもそもうちが経営するのもどうかと思っていたくらいなのよ」
ルシアンが固辞したので経営権をダスティン家で握ることになったが、彼女が自分でやりたいと言い出せば譲ってもいいと思っていたのは、何度も言うが本当の話だ。
「だったら、店舗からダスティン家に納めてもらう売り上げ金額を一定額に決めてしまったらどうだろう?」
「どういうこと?」
「たとえば店舗からダスティン家に毎月10万カーティを納めてもらうようにするんだ。それ以上売り上げが出れば、それは店を実際に運営している者たちの収入にする。10万カーティはいわゆる上納金ってやつだな。店員は頑張れば自分たちの収入増につながるわけだからやる気もあがるだろうし、ダスティン家は一定額の収入を半永久的に手に入れることができるようになるわけだ」
カーティというのはこの世界のお金の単位だ。前世で言うところの1円=1カーティくらい。ライトは定額の上納金を設定して、その分だけ徴収するシステムを提案している。
ライトネルのアイデアに、キャロルとミシェルが目を丸くしていた。その隣で私もまた唖然としていた。
私が働いていたNGOの組織。発展途上国支援を目的に活動しており、よく勘違いもされるのだが、その実は決してボランティアではない。活動のベースに各方面からの寄付金があったことは事実だが、私たちは支援先の生活を安定させることや、商売として成り立つものを育てることを目的としていた。ただのボランティアや趣味ごとのようなものでは、その地域の人々への真の支援にならないからだ。そしてそれらの支援をしながら私たち職員もまたしっかりお給料はもらっていた。「ボランティアで教えてください」と言われたら、私だって「は?」と返していただろう。
「儲からないものは流行らない」と双子たちは言った。もちろん世の中には流行に左右されないものもあるだろう。だが前世と違い、行動や流通が制限されるこの世界。自分の生まれた地域から一歩も出ずに生涯を終える者もたくさんいる。
そんな彼らに外の世界の空気を運んできてくれるのが商人だ。ダスティン領にも定期的に行商の馬車が到来していた。街から街へ伝播させるためには彼らの力は欠かせない。そんな彼らに喰いついてもらうためにも、商売になるかならないかは重要なファクターだろう。
「私の認識が甘かったわ。ごめんなさい……」
「いや、謝らせたかったわけじゃないんだ」
「そうですわ。こちらこそ、きつい言い方になってしまって申し訳ありません」
「いいえ、私は重大な過ちをおかすところだった。それを気づかせてくれたこと、とても感謝しています」
双子たちの助言がなければ、私は採算のことは無視して闇雲にこの事業を進めてしまっただろう。そしてせっかく生み出したポテト料理の可能性を潰してしまうところだった。そうなればマクスウェル宰相が言うところの“一地域における特産”で終わらせてしまうことになったかもしれない。
「もう一度ちゃんと考えてみたいの。きちんと採算がとれる方法を。ただ、うちは貧乏だからお金も人員も足りない。今あるものでどうにかしないと……」
「とりあえずアッシュバーン領にある一号店は大事にしたいよな。仕入れ値や人件費の計算の仕方も隙がないし、五ケ年計画の売り上げシミュレーションも無理のない数字だ。よく練られているよ」
「本当に。とくにこの季節ごとの売り上げ予想はとても興味深いですわ。よくできた計画書ですこと」
「ありがとう。それ、うちの執事が作ったの。彼、王立学院出身で、経営学を専攻していたそうだから」
私が双子たちに見せていたのはロイが作ったお店の計画書だ。王宮の財務関係からもスカウトがきていたという逸材が久々に本領発揮して作成したそれは、前世の私の知識からしても素晴らしい出来栄えだった。
「えっ、こんなすごいもの作った人がアンジェリカの家で執事なんかやってるのかよ」
「ライト、それはダスティン家に対して失礼な物言いだよ」
ミシェルが嗜めてくれたが私は気にしなかった。ロイは経歴だけ見ればうちにはもったいない存在であることは確かだ。いじめられている幼児を放置するような、性格は少々アレな人だけど。
「でも、本当によくできた財務計画書ですわね。さぞかし優秀な方だったのではないかしら。この方の卒業研究を見せていただきたいわ。執事さんのお名前、なんておっしゃいますの?」
「え、えーっと……ロイって言うんだけど」
「苗字は?」
「ごめん、知らない」
それは本当だ。そういえばロイの苗字、聞いてなかったな。おかげでキャロルたちに嘘をつかないですんだけど。
「と、とにかく、1号店はなんとか見通しがたっているのよ。問題はこの先。どう展開していけばいいかってこと。できれば2号店や3号店が出したいのだけど」
もともと私はこれで儲ける気はなかった。だから「ポテト料理を勉強したい!」と手をあげてくれる人がいればタダで教えてあげるつもりでいた。だが双子たちにダメ出しをされた今、きちんと採算が取れる方法で見直していかなくてはならない。
話題をロイから一旦逸らし、商売のあり方について再度問いかけると、ライトが何かを思案するように指を立てた。
「あのさ、アンジェリカは“儲ける気はない”って言ってたよな」
「え? えぇ、初めはそれでいいと思っていたわ。今は考えを改めたけれど」
「ということは、売り上げの額についてはそこまで拘らないってことだよな」
「そうね。2人にアドバイスをもらった今だから、ゼロっていうのは困るなって思うけど。もともとはルシアンたちにお給料が出せて、あとは不測の事態にも対応できるだけの貯蓄ができる程度であればいいかなって思っていたわ。というより、そもそもうちが経営するのもどうかと思っていたくらいなのよ」
ルシアンが固辞したので経営権をダスティン家で握ることになったが、彼女が自分でやりたいと言い出せば譲ってもいいと思っていたのは、何度も言うが本当の話だ。
「だったら、店舗からダスティン家に納めてもらう売り上げ金額を一定額に決めてしまったらどうだろう?」
「どういうこと?」
「たとえば店舗からダスティン家に毎月10万カーティを納めてもらうようにするんだ。それ以上売り上げが出れば、それは店を実際に運営している者たちの収入にする。10万カーティはいわゆる上納金ってやつだな。店員は頑張れば自分たちの収入増につながるわけだからやる気もあがるだろうし、ダスティン家は一定額の収入を半永久的に手に入れることができるようになるわけだ」
カーティというのはこの世界のお金の単位だ。前世で言うところの1円=1カーティくらい。ライトは定額の上納金を設定して、その分だけ徴収するシステムを提案している。
ライトネルのアイデアに、キャロルとミシェルが目を丸くしていた。その隣で私もまた唖然としていた。
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