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本編第一章
私は端っこで結構です
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一度部屋に戻ってから継母と落ち合い、3人で夕食会の会場に向かった。
アッシュバーン家には舞踏会も楽々開けるくらいの大きな応接間がある。ひろーい!天井たっかーい!と心の中で感嘆しながら辺りをキョロキョロ見渡した。考えてみれば前世の記憶を取り戻して以降、引き取られた男爵家は世間一般のご家庭よりは広い、といった程度のもので、こうした貴族然とした世界は初めて目にするものだった。これはこれで博物館や映画のセットを見ているようで面白い。
夕食は着席してのディナー形式だ。席順は当然ながら序列順。ゆえに我が家は末席だ。よかった、末席って落ち着くんだよと思いながら移動しかけた際、使用人さんが残念なお知らせを告げてきた。
「お子様方のお席はあちらになります」
なんと、まさかの大人子ども分離作戦だった。まぁ、両親と離れたところでぴーぴー泣く歳でもないのでいいのだけど。ほかの子と仲良くできるかおばちゃん的にはちょっと心配だ。
連れて行かれたのは大人様より少し小さめのテーブルだった。ここでも私は末席になるかと思いきや、こちらは自由席なのだという。ま、どちらにしたところで端っこを選ぶ習性は抜けない。
席にはすでに数名の子どもたちが座っていた。ギルフォードもいる。彼は私を見つけたとたん嬉しそうに顔を輝かせた。
「お。来たな、アンジェリカ。こっちこいよ」
彼は長テーブルの真ん中あたりに座っており、自分の正面席を指差した。すでに彼の両隣には別々の少女が陣取っていた。片方は薄紫のドレスに茶褐色の髪、もう片方の少女は青のドレスに金色の髪。その二人の少女が私に対して「誰だこいつ」といった視線を寄越す。あ、これ素直に従っちゃいけないやつだ、と感じた私は優雅に微笑んでから予定通り一番端に着席した。
「なんだよ、おまえ、なんでそんな端っこに行くんだよ」
「あら、ギルフォード様、よいではありませんか。端っこがお好きなのでしょう」
「本当に。それにあのドレスではとてもギルフォード様の近くには座れませんよ。どこの誰か知らないですけど、ドレスのひとつも用意できなかったのかしら」
くすくすと笑い合う少女たちの発言に少しむっとして私は彼女らの方を見つめた。年の頃は私と同じか少し上といったあたりか。二人とも似たようなフリルたっぷりのドレスを着込んでいる。ちなみに私は黒を基調としたワンピースだ。今日の夕食会はカジュアルと聞いていたので、ドレスではなくワンピースを選んだ。ギルフォードもタイなどはしていない略装だから、私のこれもあながち失礼ではないはずだ。むしろ2匹の毛並みのいい猫みたいなお嬢さん方の方がめかしこみ過ぎて目立っている。
私は無視を決め込んだ。落ち着け、相手はまだ子ども。私は中身アラサー。
私のその態度にムッとした表情を見せた子猫ちゃんたちだったが、すぐに新たにやってきた子どもたちに目線を奪われたようだった。こちらに近づいてくる集団の中にピンクやら黄色やらのドレスがある。そちらの方がより強力なライバルとでも思ったのだろう。威嚇しそうな視線をビシバシ投げつける。そして向こうからも似たような視線が返ってくる。
ギルフォードの正面2席は空いているが、ほかの席には招待客であろう男の子たちが座っていた。私や子猫ちゃんたちよりずっと年上っぽい女の子もいる。空席を合わせても全部で15人くらいだろうと当たりをつける。
そして空いていた正面席は、どうやらピンクのドレスの少女が勝ち取ったようだ。負けじと黄色のドレスの少女もすぐ隣に滑り込む。
なんだ、これ、ちっちゃなハーレムみたいだと、思わず笑いたくなった。しかもその中心がギルフォードだなんて、余計に笑ってしまう。しかしほかのお嬢さん方にとっては笑い事でない。
今、彼を囲んで4人の子猫ちゃんたちがあの手この手でギルフォードの気を引こうと必死だ。確かに彼は由緒あるアッシュバーン家の御曹司。将来的には家を継ぐ可能性だってある。そうなれば彼と結婚した女性は辺境伯爵夫人だ。たとえ後継に選ばれなかったとしても、ただの貴族の次男坊的な存在でなく、それなりな処遇が得られるだろう。将来的には高値をつけること間違いなしの有望株。それに今はやんちゃがすぎるけれど、ゲームのスチルでは、髪型はともかくとして精悍な男前に育っていた。髪を切った絵も見せてもらっとけばよかったな……ん、待てよ、恋愛ゲームじゃなくて育成ゲームと思えば意外と楽しめるかもしれない---。
そんなことを考えているうちに、夕食会の始まりが告げられた。
大人たちのテーブルの正面に立ち挨拶するのは現アッシュバーン伯爵、ギルフォードのお父様だ。初めてお目にかかったが、顔立ちは伯爵老やギルフォードに似ている。その隣に立つ薄い青のドレスを着た女性は、アッシュバーン伯爵夫人だとすぐにわかった。ミシェルそっくりだ。当然ながら二人ともまだ若い。30代という年齢は前世の私と同じで少し親近感が湧いた。
「皆さん、本日は我が息子、ギルフォードのためにお集まりいただき、誠にありがとうございます。おかげさまで息子も無事6の歳を迎えることができます。本日はささやかながらその前夜祭として、夕食会を披露させていただきます。どうぞごゆるりとおくつろぎください」
いったん言葉を切った伯爵は着席せず、起立のまま次の言葉を続けた。
「なお、本日は息子のために遠方よりお祝いに駆けつけてくださった方がおられます。みなさまとご一緒にお迎えしたく思います。ご紹介しましょう、我がセレスティア王国の王子、カイルハート・アイゼンベルク・セレスティア殿下です」
伯爵の発言に一瞬どよめきが走った。あれ? みんな知らなかったのかな。おとうさまはベイルから聞いたって言ってたから、てっきりみんなの耳に入っている情報だと思ったんだけど。
着席していた全員がばたばたと席を立ち始める。子ども席でも小さな悲鳴があがっていた。とくに薄紫と青とピンクと黄色の例の子猫ちゃんたちときたら、驚きのあまり全員がおんなじ表情をしている。
そして拍手に包まれながら、まずミシェルが扉を開け、誘導されたカイルハート王子が姿を現した。先ほどの服から紺色の凛々しいベスト姿に変わっている。王子様といえばかぼちゃパンツのイメージだったけどそんなことはなく、下は普通の黒いパンツ姿だ。殿下は実にきらきらしい笑顔を浮かべていた。さすが人前に慣れていらっしゃる。
本来ならここで主賓の挨拶などがあるのだろうが、何せ5歳の子ども、しかも非公式の訪問ということが強調され、そのあたりはスルーされた。招待された大人たちは挨拶をしたそうな素振りだったが、伯爵がそれすらさせず、ミシェルが殿下を伴いまっすぐこちらにやってきた。
「殿下はこちらでご一緒にお食事なさいます。あぁ、アンジェリカ嬢の隣が空いてるな」
「へ?」
ミシェルの言葉に私は思わず隣を見た。右隣はすでに別の少年が着席している。そして左隣はいわゆるお誕生日席というやつで、角席になっている。その席とさらに左隣、私からいうと正面の席が確かに空いていた。
(え、待って、ここにくるつもり……?)
背中を嫌な汗がつたう。4匹の子猫ちゃんたちのまるで射殺さんばかりの視線が痛い。これ、身体に穴開くやつだわ、間違いなく。
「アンジェリカ嬢、失礼するよ」
ミシェルの先導で私の隣の椅子に案内された殿下は、私に向かって天使もかくやの微笑みを向けた。
「やぁ、アンジェリカ。さっきは手作りのクッキーをありがとう。とてもおいしかったよ。また会いたいと思っていたんだ」
殿下の「お礼を言い忘れていたから」という続けての一言は、4匹の子猫ちゃんたちから発せられた呻き声らしきものにかき消された。
「さっきはありがとうって、どういうこと……!?」
「あの子、殿下と知り合いなの!?」
「手作りクッキーってなによ!?」
「カイルハート殿下が“会いたかった”って……!!」
いやいやいやいや会いたかったのは「お礼が言いたかったから」って言ってましたから! あなたたちの変な悲鳴のせいで聞こえなかっただけで! そして今の心の声ダダ漏れですからね? 殿下には聞こえないかもだけど私にはばっちり聞こえてますから! 何この不思議体験……!!!
私が目を白黒させている間に殿下がお誕生日席に、ミシェルが私の正面の席についた。すぐさま給仕係の方たちがペリエを注ぎにやってくる。
「あの、ミシェル様、席替えをした方がよろしいのでは? 王子殿下がおいででしたら上座をご利用いただくべきではないでしょうか」
私は真っ当な理由をあげつつミシェルに提案した。THE常識人の彼ならきっと頷いてくれるはず。
だが、私の予想はあっけなく潰された。
「いや、今回は非公式の訪問だからここでいい。いわゆる“招かれざる客”という奴だ」
「ミシェル、ひどい」
わざとらしく頬を膨らませる姿もこの上なく天使なお子様は、そんな嫌味もどこ吹く風で、私の方に向き直った。
「ミシェルとはいつも昼食を一緒に食べているから飽き飽きしてるんだ。だから僕はここでアンジェリカと一緒に食べたいな」
またしても爆弾発言に4匹の子猫ちゃんたちのぎりぎりという歯軋りが聞こえてきそうだった。殿下、頼むからもうしゃべらないでくれ……私の精神衛生上の問題のために。心の底からそう思ったとき、さらに火に油を注ぐ発言が聞こえてきた。
「いいなぁ、俺もそっちがいい。おい、誰かそこの席変わってくれよ」
テーブルの中央席にいたギルフォードが、私の右隣とミシェルの左隣の男の子たちに向かって声をかけた。
「いいから! あんたはそこにいなさい!」
声は潜めたものの語気も荒く私がそれを制する。これ以上カオスにしてたまるか、あんたまでここにきたら私が子猫ちゃんたちに引っかかれてズタズタにされるんだよ!
なんで俺だけ……とごねるギルフォードを視線で威嚇して黙らせる。すると殿下がまたしても新たな火種を投下してくれやがった。(言葉遣いな)
「アンジェリカはギルフォードと仲がいいんだね。……羨ましいな」
僕ももっとギルフォードとも仲良くしたいんだ、ミシェルの弟だからね、と付け加えた殿下の二言目もまた、子猫ちゃんたちのキイイイぃぃぃぃぃぃっ!!!!という鋭い悲鳴に消されたことをご報告しておきます。
……っていうか、殿下、天然なの? わざとなの?
どっちにせよいい迷惑だから! 空気読め!!!
アッシュバーン家には舞踏会も楽々開けるくらいの大きな応接間がある。ひろーい!天井たっかーい!と心の中で感嘆しながら辺りをキョロキョロ見渡した。考えてみれば前世の記憶を取り戻して以降、引き取られた男爵家は世間一般のご家庭よりは広い、といった程度のもので、こうした貴族然とした世界は初めて目にするものだった。これはこれで博物館や映画のセットを見ているようで面白い。
夕食は着席してのディナー形式だ。席順は当然ながら序列順。ゆえに我が家は末席だ。よかった、末席って落ち着くんだよと思いながら移動しかけた際、使用人さんが残念なお知らせを告げてきた。
「お子様方のお席はあちらになります」
なんと、まさかの大人子ども分離作戦だった。まぁ、両親と離れたところでぴーぴー泣く歳でもないのでいいのだけど。ほかの子と仲良くできるかおばちゃん的にはちょっと心配だ。
連れて行かれたのは大人様より少し小さめのテーブルだった。ここでも私は末席になるかと思いきや、こちらは自由席なのだという。ま、どちらにしたところで端っこを選ぶ習性は抜けない。
席にはすでに数名の子どもたちが座っていた。ギルフォードもいる。彼は私を見つけたとたん嬉しそうに顔を輝かせた。
「お。来たな、アンジェリカ。こっちこいよ」
彼は長テーブルの真ん中あたりに座っており、自分の正面席を指差した。すでに彼の両隣には別々の少女が陣取っていた。片方は薄紫のドレスに茶褐色の髪、もう片方の少女は青のドレスに金色の髪。その二人の少女が私に対して「誰だこいつ」といった視線を寄越す。あ、これ素直に従っちゃいけないやつだ、と感じた私は優雅に微笑んでから予定通り一番端に着席した。
「なんだよ、おまえ、なんでそんな端っこに行くんだよ」
「あら、ギルフォード様、よいではありませんか。端っこがお好きなのでしょう」
「本当に。それにあのドレスではとてもギルフォード様の近くには座れませんよ。どこの誰か知らないですけど、ドレスのひとつも用意できなかったのかしら」
くすくすと笑い合う少女たちの発言に少しむっとして私は彼女らの方を見つめた。年の頃は私と同じか少し上といったあたりか。二人とも似たようなフリルたっぷりのドレスを着込んでいる。ちなみに私は黒を基調としたワンピースだ。今日の夕食会はカジュアルと聞いていたので、ドレスではなくワンピースを選んだ。ギルフォードもタイなどはしていない略装だから、私のこれもあながち失礼ではないはずだ。むしろ2匹の毛並みのいい猫みたいなお嬢さん方の方がめかしこみ過ぎて目立っている。
私は無視を決め込んだ。落ち着け、相手はまだ子ども。私は中身アラサー。
私のその態度にムッとした表情を見せた子猫ちゃんたちだったが、すぐに新たにやってきた子どもたちに目線を奪われたようだった。こちらに近づいてくる集団の中にピンクやら黄色やらのドレスがある。そちらの方がより強力なライバルとでも思ったのだろう。威嚇しそうな視線をビシバシ投げつける。そして向こうからも似たような視線が返ってくる。
ギルフォードの正面2席は空いているが、ほかの席には招待客であろう男の子たちが座っていた。私や子猫ちゃんたちよりずっと年上っぽい女の子もいる。空席を合わせても全部で15人くらいだろうと当たりをつける。
そして空いていた正面席は、どうやらピンクのドレスの少女が勝ち取ったようだ。負けじと黄色のドレスの少女もすぐ隣に滑り込む。
なんだ、これ、ちっちゃなハーレムみたいだと、思わず笑いたくなった。しかもその中心がギルフォードだなんて、余計に笑ってしまう。しかしほかのお嬢さん方にとっては笑い事でない。
今、彼を囲んで4人の子猫ちゃんたちがあの手この手でギルフォードの気を引こうと必死だ。確かに彼は由緒あるアッシュバーン家の御曹司。将来的には家を継ぐ可能性だってある。そうなれば彼と結婚した女性は辺境伯爵夫人だ。たとえ後継に選ばれなかったとしても、ただの貴族の次男坊的な存在でなく、それなりな処遇が得られるだろう。将来的には高値をつけること間違いなしの有望株。それに今はやんちゃがすぎるけれど、ゲームのスチルでは、髪型はともかくとして精悍な男前に育っていた。髪を切った絵も見せてもらっとけばよかったな……ん、待てよ、恋愛ゲームじゃなくて育成ゲームと思えば意外と楽しめるかもしれない---。
そんなことを考えているうちに、夕食会の始まりが告げられた。
大人たちのテーブルの正面に立ち挨拶するのは現アッシュバーン伯爵、ギルフォードのお父様だ。初めてお目にかかったが、顔立ちは伯爵老やギルフォードに似ている。その隣に立つ薄い青のドレスを着た女性は、アッシュバーン伯爵夫人だとすぐにわかった。ミシェルそっくりだ。当然ながら二人ともまだ若い。30代という年齢は前世の私と同じで少し親近感が湧いた。
「皆さん、本日は我が息子、ギルフォードのためにお集まりいただき、誠にありがとうございます。おかげさまで息子も無事6の歳を迎えることができます。本日はささやかながらその前夜祭として、夕食会を披露させていただきます。どうぞごゆるりとおくつろぎください」
いったん言葉を切った伯爵は着席せず、起立のまま次の言葉を続けた。
「なお、本日は息子のために遠方よりお祝いに駆けつけてくださった方がおられます。みなさまとご一緒にお迎えしたく思います。ご紹介しましょう、我がセレスティア王国の王子、カイルハート・アイゼンベルク・セレスティア殿下です」
伯爵の発言に一瞬どよめきが走った。あれ? みんな知らなかったのかな。おとうさまはベイルから聞いたって言ってたから、てっきりみんなの耳に入っている情報だと思ったんだけど。
着席していた全員がばたばたと席を立ち始める。子ども席でも小さな悲鳴があがっていた。とくに薄紫と青とピンクと黄色の例の子猫ちゃんたちときたら、驚きのあまり全員がおんなじ表情をしている。
そして拍手に包まれながら、まずミシェルが扉を開け、誘導されたカイルハート王子が姿を現した。先ほどの服から紺色の凛々しいベスト姿に変わっている。王子様といえばかぼちゃパンツのイメージだったけどそんなことはなく、下は普通の黒いパンツ姿だ。殿下は実にきらきらしい笑顔を浮かべていた。さすが人前に慣れていらっしゃる。
本来ならここで主賓の挨拶などがあるのだろうが、何せ5歳の子ども、しかも非公式の訪問ということが強調され、そのあたりはスルーされた。招待された大人たちは挨拶をしたそうな素振りだったが、伯爵がそれすらさせず、ミシェルが殿下を伴いまっすぐこちらにやってきた。
「殿下はこちらでご一緒にお食事なさいます。あぁ、アンジェリカ嬢の隣が空いてるな」
「へ?」
ミシェルの言葉に私は思わず隣を見た。右隣はすでに別の少年が着席している。そして左隣はいわゆるお誕生日席というやつで、角席になっている。その席とさらに左隣、私からいうと正面の席が確かに空いていた。
(え、待って、ここにくるつもり……?)
背中を嫌な汗がつたう。4匹の子猫ちゃんたちのまるで射殺さんばかりの視線が痛い。これ、身体に穴開くやつだわ、間違いなく。
「アンジェリカ嬢、失礼するよ」
ミシェルの先導で私の隣の椅子に案内された殿下は、私に向かって天使もかくやの微笑みを向けた。
「やぁ、アンジェリカ。さっきは手作りのクッキーをありがとう。とてもおいしかったよ。また会いたいと思っていたんだ」
殿下の「お礼を言い忘れていたから」という続けての一言は、4匹の子猫ちゃんたちから発せられた呻き声らしきものにかき消された。
「さっきはありがとうって、どういうこと……!?」
「あの子、殿下と知り合いなの!?」
「手作りクッキーってなによ!?」
「カイルハート殿下が“会いたかった”って……!!」
いやいやいやいや会いたかったのは「お礼が言いたかったから」って言ってましたから! あなたたちの変な悲鳴のせいで聞こえなかっただけで! そして今の心の声ダダ漏れですからね? 殿下には聞こえないかもだけど私にはばっちり聞こえてますから! 何この不思議体験……!!!
私が目を白黒させている間に殿下がお誕生日席に、ミシェルが私の正面の席についた。すぐさま給仕係の方たちがペリエを注ぎにやってくる。
「あの、ミシェル様、席替えをした方がよろしいのでは? 王子殿下がおいででしたら上座をご利用いただくべきではないでしょうか」
私は真っ当な理由をあげつつミシェルに提案した。THE常識人の彼ならきっと頷いてくれるはず。
だが、私の予想はあっけなく潰された。
「いや、今回は非公式の訪問だからここでいい。いわゆる“招かれざる客”という奴だ」
「ミシェル、ひどい」
わざとらしく頬を膨らませる姿もこの上なく天使なお子様は、そんな嫌味もどこ吹く風で、私の方に向き直った。
「ミシェルとはいつも昼食を一緒に食べているから飽き飽きしてるんだ。だから僕はここでアンジェリカと一緒に食べたいな」
またしても爆弾発言に4匹の子猫ちゃんたちのぎりぎりという歯軋りが聞こえてきそうだった。殿下、頼むからもうしゃべらないでくれ……私の精神衛生上の問題のために。心の底からそう思ったとき、さらに火に油を注ぐ発言が聞こえてきた。
「いいなぁ、俺もそっちがいい。おい、誰かそこの席変わってくれよ」
テーブルの中央席にいたギルフォードが、私の右隣とミシェルの左隣の男の子たちに向かって声をかけた。
「いいから! あんたはそこにいなさい!」
声は潜めたものの語気も荒く私がそれを制する。これ以上カオスにしてたまるか、あんたまでここにきたら私が子猫ちゃんたちに引っかかれてズタズタにされるんだよ!
なんで俺だけ……とごねるギルフォードを視線で威嚇して黙らせる。すると殿下がまたしても新たな火種を投下してくれやがった。(言葉遣いな)
「アンジェリカはギルフォードと仲がいいんだね。……羨ましいな」
僕ももっとギルフォードとも仲良くしたいんだ、ミシェルの弟だからね、と付け加えた殿下の二言目もまた、子猫ちゃんたちのキイイイぃぃぃぃぃぃっ!!!!という鋭い悲鳴に消されたことをご報告しておきます。
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