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本編第一章
意外な真実が知れました
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その後、「勝負しろ---!!」と叫びながらまとわりついてくるギルフォードと、腰を軽く折りながら笑いをこらえている伯爵老の案内で玄関に戻り、父と合流した。父と伯爵老は挨拶を交わし、次に私の後ろにいる麦わら小僧に挨拶した。
「これはこれはギルフォード殿、この度は6歳のお誕生日おめでとうございます」
相手は辺境伯の息子だが息子というだけでまだ爵位はない。父は男爵家の当主なので、立場的には「殿」と呼んで許される。そういうお作法はルビィから習った。態度はアレだが、ちゃんとしたことは教えてくれてたんだよな、あの人。もちろん、継母が側で見守っていてくれたからではあるが。
そんな貴族のお作法を思い出している横で、私は背後の麦わら小僧を振り返った。そうだった、今回誕生日を迎える次男の名前はギルフォードと言うんだった。すっかり忘れていたよ。ということは、この子か兄のミシェルが次の辺境伯で、私と同じ世代を生きることになるのだけど……。
私は、父に対して元気に「ありがとうございます!」と礼を述べる麦わら小僧を斜めに見た。うん、まぁ、人は良さそうだけど、この単純さで、王国に名を馳せる辺境伯が務まるのか、おばちゃんちょっと心配だよ。まぁ兄もいるらしいからまだどうなるかわからないけど。
「バーナード殿、後嗣が無事王家に認められたそうで、何よりであったな」
「はっ、ありがとうございます」
「よい娘御を迎えられたの。奥方殿も……大義であった」
「ありがとう存じます。アンジェリカを我が娘として頂戴できましたこと、王家と聖霊様と、その他ご厚情を賜ったすべての方々に日々感謝しております」
継母は言葉の最後にしっかりと顔をあげ、伯爵老に対して静かに言い切った。そのゆるぎない視線に、私は言葉を挟むことができなかった。
「……以前、奥方殿には申し上げたな。“すべての責は私にある。すべての負の感情は私が引き受ける”」
「覚えております。覚えておりますが……」
継母はその優しい目で私を一瞬見つめた。そして再び伯爵老に向き直った。
「伯爵老がどんな意味でおっしゃったのか……、無学な私にはわかりかねますわ」
そして優雅に強く微笑んでみせた。
父もまた静かに、その二人のやりとりを見つめていた。ギルフォードだけはわけもわからずぽかんとしている。それでも、ここは大人しくしているべき場面なのだと、貴族の令息らしく空気を読んだのか、無言を通していた。
そして私は、継母と伯爵老の会話からすべてを察した。伯爵老が実母を屋敷で雇うことを厭い、隣の男爵家に押し付けた。父は否やを言えず母をメイドとしてひきとり、その後、愛人として関係を持つようになった。そういうストーリーだと思っていた。けれど、その裏には、伯爵老と両親の間で交わされた密約があったのだ。長らく跡継ぎに恵まれず、家の行末が心配された男爵家に、良かれと思い実母を紹介した。けれど内容が内容なだけに、表沙汰にはできない。その結果、上記のようなストーリーをでっち上げた。裏で、伯爵老は継母カトレアへのフォローも忘れなかった。実母を押し付けたのは自分、だから、あやゆる負の感情、恨みや憎しみといったものは、自分に向けろ、と。
思いもよらなかった真実に、私は背筋が伸びる思いがした。そうまでしてつながなければならない貴族としての「血」。私には未だ理解しがたいものだが、この世界ではそれが常識であり規律なのだ。だから私も、この血をつないでいかなければならない。
同時に伯爵老の人となりも知ることになった。彼のことを、貴族のしきたりの前には個人の感情など無視すべきという、冷徹な思考を持った人、と言えるかもしれない。けれど今、継母にかけた言葉の端々に、義務感だけではない、貴族としての、人としての、深い思いを感じた。
この人は信用できるかもしれない。隣の広大な領地の元領主がこの人であったことは、私たちにとっても僥倖だった。
「これはこれはギルフォード殿、この度は6歳のお誕生日おめでとうございます」
相手は辺境伯の息子だが息子というだけでまだ爵位はない。父は男爵家の当主なので、立場的には「殿」と呼んで許される。そういうお作法はルビィから習った。態度はアレだが、ちゃんとしたことは教えてくれてたんだよな、あの人。もちろん、継母が側で見守っていてくれたからではあるが。
そんな貴族のお作法を思い出している横で、私は背後の麦わら小僧を振り返った。そうだった、今回誕生日を迎える次男の名前はギルフォードと言うんだった。すっかり忘れていたよ。ということは、この子か兄のミシェルが次の辺境伯で、私と同じ世代を生きることになるのだけど……。
私は、父に対して元気に「ありがとうございます!」と礼を述べる麦わら小僧を斜めに見た。うん、まぁ、人は良さそうだけど、この単純さで、王国に名を馳せる辺境伯が務まるのか、おばちゃんちょっと心配だよ。まぁ兄もいるらしいからまだどうなるかわからないけど。
「バーナード殿、後嗣が無事王家に認められたそうで、何よりであったな」
「はっ、ありがとうございます」
「よい娘御を迎えられたの。奥方殿も……大義であった」
「ありがとう存じます。アンジェリカを我が娘として頂戴できましたこと、王家と聖霊様と、その他ご厚情を賜ったすべての方々に日々感謝しております」
継母は言葉の最後にしっかりと顔をあげ、伯爵老に対して静かに言い切った。そのゆるぎない視線に、私は言葉を挟むことができなかった。
「……以前、奥方殿には申し上げたな。“すべての責は私にある。すべての負の感情は私が引き受ける”」
「覚えております。覚えておりますが……」
継母はその優しい目で私を一瞬見つめた。そして再び伯爵老に向き直った。
「伯爵老がどんな意味でおっしゃったのか……、無学な私にはわかりかねますわ」
そして優雅に強く微笑んでみせた。
父もまた静かに、その二人のやりとりを見つめていた。ギルフォードだけはわけもわからずぽかんとしている。それでも、ここは大人しくしているべき場面なのだと、貴族の令息らしく空気を読んだのか、無言を通していた。
そして私は、継母と伯爵老の会話からすべてを察した。伯爵老が実母を屋敷で雇うことを厭い、隣の男爵家に押し付けた。父は否やを言えず母をメイドとしてひきとり、その後、愛人として関係を持つようになった。そういうストーリーだと思っていた。けれど、その裏には、伯爵老と両親の間で交わされた密約があったのだ。長らく跡継ぎに恵まれず、家の行末が心配された男爵家に、良かれと思い実母を紹介した。けれど内容が内容なだけに、表沙汰にはできない。その結果、上記のようなストーリーをでっち上げた。裏で、伯爵老は継母カトレアへのフォローも忘れなかった。実母を押し付けたのは自分、だから、あやゆる負の感情、恨みや憎しみといったものは、自分に向けろ、と。
思いもよらなかった真実に、私は背筋が伸びる思いがした。そうまでしてつながなければならない貴族としての「血」。私には未だ理解しがたいものだが、この世界ではそれが常識であり規律なのだ。だから私も、この血をつないでいかなければならない。
同時に伯爵老の人となりも知ることになった。彼のことを、貴族のしきたりの前には個人の感情など無視すべきという、冷徹な思考を持った人、と言えるかもしれない。けれど今、継母にかけた言葉の端々に、義務感だけではない、貴族としての、人としての、深い思いを感じた。
この人は信用できるかもしれない。隣の広大な領地の元領主がこの人であったことは、私たちにとっても僥倖だった。
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