【コミカライズ決定】魔力ゼロの子爵令嬢は王太子殿下のキス係

ayame@コミカライズ決定

文字の大きさ
61 / 106
本編

61

しおりを挟む
 今後のことで相談があると、国王陛下と王妃様がお戻りになった後、カーティス殿下から切り出された。

「私は王太子妃におまえを望んでいる。ユーファミア、おまえも異存はない、な?」
「え?」

 殿下の発言の語尾が自信なく細切れになるのを驚きをもって聞き返した。いつも冷静で堂々としている殿下とは思えない言い方に一瞬返事が止まった。

「異存あるのか!?」
「い、いいえ! 違います。ただ……」

 異存ではなく、何事にも如才ない殿下が歯切れ悪そうなことに戸惑っただけなのだが、それを口に出すのは憚られたため、別の話題に置き換えることにした。

「あの、私では身分が釣り合いません」

 リブレ家は子爵だ。そして王太子妃に必要な身分は伯爵家以上。これは王国の不文律だ。

 だが殿下は「なんだ、そんなことか」と鼻で笑った。

「おまえは自分の役柄に忠実だったくせに、意外と知らないのだな」
「何がですか?」
「魔力過多な私の側仕えとして、私の命を長年に渡り支えてくれたおまえには褒賞が与えられることになっている」
「それは……聞いております」

 王宮にあがる前もあがった後も、バルト伯爵から聞かされた。ただその褒賞が何になるのかまでは聞いていなかった。私の知らぬところで家族と話し合われたものとばかり思っていた。

「王家はおまえの果たした功績に対して女伯爵の位を授与することにしている。これは前例もあることだから、いくらマクレガー宰相が横槍を入れたくても反対することはできない」
「女伯爵……」
「あぁ。これで身分の問題は片がつく」

 女伯爵は一代限りに与えられる爵位で、子や孫に受け継がせることはできないが、身分的には文字通り伯爵と同等の扱いになる。確かにこれなら王太子妃の条件をクリアすることになる。

「いいのでしょうか、そんな簡単に……」

 爵位が与えられるとはいえ元は子爵家の娘だ。なんだかズルをしたみたいな気になってしまう。

「まったく問題ない。むしろ過去にも女伯爵位を賜って、そのまま妃となった例もある」

 どうやら殿下は今回のことを運ぶにあたり、過去の王家の魔力過多について入念に調べ上げたらしい。「その執念を自分の気持ちを素直に伝えることになぜ向けられなかったのかしらね」というのは後から聞いた王妃様のお小言だ。

「とにかく、おまえが気にしている身分についてはなんら問題がなくなるのだが、ついでだからもうひとつ布石を打つことにした。これについてはまだ明かせないんだが、そのうちわかる。問題があるとすれば王太子妃選定会議の方なんだが……」
「王太子妃選定会議、ですか?」
「あぁ。この国の王族が結婚する際に必ず開かれる会議だ。ここで王族の婚姻相手候補が提出され、誰が相応しいかを決定することになっている。出席者は国王両陛下のお二人、貴族を束ねるマクレガー宰相、官僚トップの内務長官、軍部を束ねる近衛総長、それに学院から院長だ。この6名で話し合いが行われ、最終的には多数決で決定される。そして今現在候補として名を挙げられているのがメラニア・マクレガーだ」

 メラニア様のお名前が出たことにひゅっと息を呑んだ。そうだった、いくら殿下の思いがこちらにあるとはいえ、王太子妃という位は私より侯爵家令嬢であり宰相の娘である彼女の方がずっと相応しい。

「多数決、となりますと、全員がメラニア様に票を投じれば……」
「あの女が王太子妃となるな」

 苦虫を噛み潰したように顔を歪める殿下。私の顔色はというと、青を通り越して白くなりかけていた。

「ここに、ユーファミア、おまえの名前を入れる予定だ」
「そんな……! 無茶です!」
「無茶? なぜ」
「みんなメラニア様に票を投じるに決まっています!」

 田舎の子爵家の令嬢と侯爵家で宰相の娘であり、学院でもトップクラスだったメラニア様。誰がどう見ても王太子妃に相応しいのは彼女の方だ。

 だが殿下は心配ないと微笑んだ。

「父上と母上は間違いなくおまえに投じるよ。宰相と、血筋主義の近衛総長はあの女につくだろうな。内務長官は読めないんだが……王立学院の院長はこちらの味方になってくれるのではと踏んでいる」
「院長先生がですか?」
「あぁ。他の5名と違い、学院は基本中立姿勢をとらねばならぬこともあるため、政治的な色でなく純粋に学院内での成績や振る舞い、人となりで判断することがほとんどだ。それならユーファミアに利がある」
「そんなはずはありません。メラニア様はとても優秀なお方です。それにひきかえ私は魔力なしで、まともに授業も受けておりません」

 メラニア様はいつもトップ10に入る成績を誇っていた。対する私は実技系の科目はまったく受講できず、学院の順位がつくテストも受けていない。すべてレポートや私専用のテストに置き換えられて、その結果でぎりぎり単位がもらえていたという有様。王家の温情で席を置いてもらっていただけだ。

 そう力説する私に、殿下は両手を広げて否定した。

「あの女が優秀だと学院の生徒は皆思っているだろうが、とんだ茶番だぞ。あいつのレポートのうち自身で書いたものはほとんどないはずだ。全部マクレガー家子飼いの魔道士に代筆させていたからな」
「は?」
「ペーパーテストに関してはズルできないから、さすがに必死で勉強していたみたいだがな。それも魔道士たちに事前に予想問題を作らせて予習していたそうだぞ。この国の魔道士はすべてあの学院出身だからな。教師の入れ替わりも少ない中で、優秀な人間なら過去に習った教師の出す問題など、あらかた予想がつくさ」
「メラニア様が、ズルをしていたと?」
「知らぬは生徒だけだろうな。学院の教師たちはうっすら把握していたはずだ。時の権力者に逆らえる個人はいないから、見過ごしていただけだ。そうだ、いつだったか、おまえに分厚い参考書を押し付けていただろう? あれ、あの女は1ページだって読んでないぞ。むしろ読めなかっただろうな、能力的に」

 殿下の発言で、いつぞやのテストのことを思い出した。魔法解析学のレポートに悩んでいた私をさらに悩ませることになった分厚い参考書三冊。あれを元に書いたレポートをメラニア様にも提出した。彼女はとても丁寧なフィードバックをくれたけれど……。

「自宅の魔道士に読ませて、その感想を横取りしただけだろう。あの女にそこまでの能力はない。ただのガリ勉バカだ」

 なんだか聞いてはいけない台詞を聞いた気がして気を失いそうになった。が、ここでまた倒れるわけにはいかない。

「とにかく、学院でのあいつの成績はハリボテだ。そのことは院長も知っているはずだ。その点おまえは毎回優秀なレポートに申し分ないテストの点を叩き出し、その上うるさ方の教授たちと対等にやりあえるだけの知識と度胸を備えている。文句なし女子の1位はおまえだよ。ちなみにおまえが在籍中に書いたレポートのいくつかが、王宮の魔道士部で回し読みされていて結構な評判だぞ」
「えぇ!?」

 どうやら学院の教授たちの手から王宮勤めのエリート魔道士たちの手に、私の書いたつたないレポートが回っているらしい。学院卒業後はぜひ魔道士部に就職をという声がかりがあったのを殿下が全力で握りつぶしたとまで聞いて、唖然とするしかなかった。

「当然だろう。ユーファミアは私の妻になるんだ。魔道士連中になぞ渡してたまるか」

 堂々とそうのたまう殿下をただただ見つめるしかなかった。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで

あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。 怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。 ……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。 *** 『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』  

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

お姉様優先な我が家は、このままでは破産です

編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。 だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!  愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理! 姉の結婚までにこの家から逃げたい! 相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。 王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。 数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ! 自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。

『婚約破棄ありがとうございます。自由を求めて隣国へ行ったら、有能すぎて溺愛されました』

鷹 綾
恋愛
内容紹介 王太子に「可愛げがない」という理不尽な理由で婚約破棄された公爵令嬢エヴァントラ。 涙を流して見せた彼女だったが── 内心では「これで自由よ!」と小さくガッツポーズ。 実は王国の政務の大半を支えていたのは彼女だった。 エヴァントラが去った途端、王宮は大混乱に陥り、元婚約者とその恋人は国中から総スカンに。 そんな彼女を拾ったのは、隣国の宰相補佐アイオン。 彼はエヴァントラの安全と立場を守るため、 **「恋愛感情を持たない白い結婚」**を提案する。 「干渉しない? 恋愛不要? 最高ですわ」 利害一致の契約婚が始まった……はずが、 有能すぎるエヴァントラは隣国で一気に評価され、 気づけば彼女を庇い、支え、惹かれていく男がひとり。 ――白い結婚、どこへ? 「君が笑ってくれるなら、それでいい」 不器用な宰相補佐の溺愛が、静かに始まっていた。 一方、王国では元婚約者が転落し、真実が暴かれていく――。 婚約破棄ざまぁから始まる、 天才令嬢の自由と恋と大逆転のラブストーリー! ---

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

処理中です...