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本編

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 リブレ領の主産業は林業だ。林業は一朝一夕に為るものではない。材木が出荷できるまでに育つには最低でも20年はかかる。何代も前から育ててきた木が今の私たちの糧になるように、私たちもまた未来のリブレ領にそれを残していかなければならない。

 材木にとっての天敵は害虫や病気、それに災害だ。特に嵐は、植林して数年の若い材木を根こそぎ薙ぎ倒すことがある。材木だけでなく麓に暮らす領民の命までも奪ってしまうこともある。

 嵐の夜に父の元にもたらされたのは、山崩れの報だった。風雨激しい中、父は被害状況を確認すべく家を出ていき、そして帰らぬ人となった。領民たちを非難させつつ、土魔法と風魔法で土砂崩れを修復しようと山に近づいていたところに、第二の災害が起きたのだ。

 魔力の残滓を母が辿ることで父の遺体を見つけることができた。その嵐が奪ったのは父と領民数名の命、それに出荷間近だった一帯の材木だった。土砂崩れに飲まれた木々を切り出そうにもまずは土砂を除去する必要があり、そのためには父の強力な風魔法が必要だったが、その父もいない。母得意の火魔法では埒が開かず、領民たちの少ない魔力を集結させても足りない。最終的に高いお金を払って王都から魔導士を呼んで処理させたものの、薙ぎ倒された材木の傷が思ったより深く、正規の料金で流通させることはできそうになかった。加えて嵐の爪痕深く、山の地場がかなり緩んでしまい、魔法か工事で全面補強しなければならない状況だった。

 山全体の補強魔法など法外な金額になるし、工事にしても同様だ。父の土魔法があればどうにかなっただろう。同じ属性を受け継いだクラウディオはまだそれだけの魔法を使える身体ではない。すでに今年の収益の半分以上を失い、来年以降の出荷も見込めない我が家の財政はこの時点で大きく傾くことになった。

 悪いことは重なるもので、土砂崩れが小麦畑にまで達し、小麦の収穫量も減ってしまった。いつもは他領に輸出できるだけの余剰があったのが、領内を満たすだけで精一杯。その冬はひどい寒波までやってきて、他領との流通がストップし、飢えを凌ぐために貯蔵分を食い尽くすほどまでに疲弊した領地は、ようやく春を迎えてもかつての穏やかな日常を取り戻すには程遠かった。

 やらねばならないことは山のようにある。けれど先立つものがない。父亡き後、一気に領地経営の重荷を背負うことになった母の焦燥は火を見るより明らかで、慣れない中での無理が祟り、とうとう倒れてしまった。

 家にいるのは病床の母と6歳の弟と12歳の私。手を差し伸べてくれる親族もない状況で、領地の復興もままならない。元より売れるような財産もない。病床の母はそれでも身体を酷使して、あちこちに借財の申し込みの手紙を出し、私はただそれを見守るよりほかなかった。

 不安と恐怖と、自分の不甲斐なさに対する憤りと、あらゆる感情に苛まれた私の元に、その報は突如としてもたらされた。




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