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  果てしなく続く広い廊下の赤絨緞の上を、メイドに案内してもらいながらエレーンはてくてく歩いていた。歩きながらも所々にディスプレイされている壷や絵画に目が泳ぐのは、にわか骨董屋店主の性だ。

  手には布でくるんだオルゴール、そして背中にはリュック。中には言わずもがなのモノたちが詰まっている。ついさっきまで「ワイの顔つぶすなーっ」とか「年長者をいたわらんかっ」という叫びが聞こえていたが、今は状況を読んでくれているのか、おとなしくしている。

「こちらでございます」

  エプロン姿のメイドさんが、一際大きな扉の前で立ち止まった。礼を言ってエレーンはノックする。すると、中から扉が開いて、あの黒縁眼鏡が顔を出した。

「おや、骨董屋さんですか。お勤めご苦労様です。まぁどうぞ」

  言われてエレーンは部屋の中に入る。そして言葉を失った。

それは部屋の中央にある豪奢なシャンデリアのせいでもなく、かわいらしい小花模様の壁紙のせいでもなく、綺麗な発色の年代物の家具のせいでも足が沈みそうなほどの絨緞のせいでもなく、部屋の真ん中に佇む派手なドレス姿の女性のせいだった。うずたかく結い上げられた髪、厚過ぎる化粧、そして鼻の曲がりそうな香水。

「あああああーーーっ!!!」

  あの時のケバケバ女、という叫びをエレーンは辛うじて飲み込んだ。間違いない、あれほどに強烈で趣味の悪い女が世の中に二人といるはずがない。

「こちらが伯爵令嬢のゼルダ様です」

  黒縁眼鏡がやけにえらそうに紹介する。そうか、このケバケバ女と黒縁眼鏡はつながっていたのか!とようやく納得できた。

「オルゴールは直ったの?  早くお見せなさい」

  高飛車な声でゼルダが言う。

「そのことなんですが、このオルゴール、直りませんでした」
「どういうこと?  なぜ直らないの」
「なぜなら、これは本当はあなたの持ち物ではないからです」

  エレーンは布を外してオルゴールを取り出した。蓋を開け、ネジを巻く。しかしオルゴールはならない。

「これはどこも壊れてなどいないんです。ただ、鳴らないだけです」
「何を言ってるのよ。鳴らないのが壊れている証拠でしょ」
「違います。オルゴールが自分の意志で鳴らないんです。なぜなら、これはあなたのものではなくジュリアという女性のものだから」
「ジュリアですって?」

  ゼルダの顔が激しく歪む。赤い唇を開いて何か言いかけたとき、ノックの音が響き渡った。黒縁眼鏡がドアを開けにいく。

  そして入ってきた人物を見て、エレーンは目を丸くした。

「マシュー!」

 そこにいたのは、かつてエレーンが一目ボレをしたマシュー青年だった。
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