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第4章 呉の進出

57 意外な依頼人

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「お久しぶりです、巧魔くん、と鈴音様」

 鈴音はこちらを見ようともせず、屋根の上からパタパタと尻尾を振って返事の代わりにしている。おい、失礼にも程があるぞお前。

「巧魔くんは流石ですね。自分の弱点を認め、いち早く改善しようと努力する。あなたは強くなりますよ」
「いえいえ、ただの自己満足でやっているだけなので」

 エマニエルさんのようなきれいな人に褒められると、どうしてもドキドキしてしまう。

「ですが、さっきのはやりすぎです。実験もほどほどにして下さいね。あなたはこの国の大切な戦力何ですから」
「へ? 戦力?? 一体何の話をしてるんです」
「はは、これは説明の順序があべこべになりました。 今日はお願いがあって参りました」

 お願い? 一体何の話だろう。

 取り合えず俺はエマニエルさんを東商店の来賓室へ招き入れることにした。
 その時何故か鈴音に尻をつねられたのは謎だ。いったい俺が何をしたというのだ。


「どうぞ、冷めない内に」

 来賓室の中には俺、鈴音、千春さん、エマニエルさんの四人がテーブルに腰を掛けている。
 部屋の中には香ばしい肉の焼ける匂いが充満している。テーブルの上に並んでいる光ポークのステーキ定食が匂いの元だ。

「これはまさか光ポーク?」
「豚狩村の風丸村長から頂いてきました」

 エマニエルさんは、そんな貴重なものをいただくわけにはといいながら箸を手に取っている。この肉に逆らえる意思など持ち合わせられる訳がないのだ。

「いいんですよ。また仕入れられる算段はついております。昨日、光ポーク狩り用のゴーレムを作った所です。上手くいけば、豚狩村の新しい名産品になるでしょう」
「で、では遠慮なく!」

 ゆくゆくはうっかり魔女邸の名物にする予定の光ポークステーキ定食の試作品だ。
 俺たちは心行くまで光ポークを堪能した。

「それで、今回お願いしたいこととは?」

 みんなステーキ定食を平らげ、お茶をすすっていた所で俺はエマニエルさんに質問をした。

「ええ。巧魔くん、そして鈴音様。 これから私と一緒に龍都へ来て頂きたいのです」
「良いぞ。主、さっそく支度をするとしよう」
「うぉい?! 決断が速すぎるわ! まだ理由すら聞いてないぞ?!」
「理由なんて一つしかあるまいて。のう、エマニエル」
「流石は鈴音様。お察しが宜しいようで。……巧魔様、今の東大陸の勢力図がどうなっているかご存じですか?」
「勢力図?? いえ、まったく」
「主は石いじりにしか興味が無いからのう……」
「むっ! そんなことはないぞ!」

 たぶん。きっと。

「はっはっは! 巧魔くんらしい」

 エマニエルさんは心底楽しそうに笑った。笑顔が朝日のように透き通る美しさだ。これで口調がアレでなければ完璧なんだろう。

「いや、失敬。普段龍都ではバカ国王のせいで国政に苦労させられているので、まったくそんなことを気にしていない無垢な巧魔くんをみて思わず」
「エマニエル、主は無垢ではなく馬鹿なだけじゃ」
「200年森に閉じこもって世界の事なんて何にも知らないお前にだけは言われたくありませんけど?!」
「ワシは別にいいのじゃ! それでエマニエル、一応その理由とやらを聞いておこうかのう」

 一応ってなんだよ。最重要だろうが。ここを離れるなら、武器の仕入れ方法とかも考えなくちゃいけないしなあ。

「ええ。……実は、国王様からの依頼をお伝えに参りました」

 …………あんだって?
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