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第2章 幼児期

17 詩詠唱

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「――私は魔法を行使する。


  私がどれだけ想っても

  貴方はいつも何処吹く風

  私の想いはいつしか

  あなたの風に散らされた

  そうだ、貴方にも教えてあげましょう

  孤独に震える夜の苦しみを

  嫉妬で妬けつくごうの苦しみを

  八度裏切った貴方に贈る八つのプレゼント
  
  伝わるかしら? この想い

  ――き尽くせ

  八つの業火オクト・ファイヤーボール!」

 千春の親指以外の指に計8つの炎の玉が浮かぶ。炎の玉はみるみる大きくなり、直径3センチ程になったところで、弾かれたようにゴブリンに向かってそれぞれ飛んでゆく。自動追尾機能があるようで、それぞれがカーブを描きながら確実にヒットし、爆発音が8つ起きる。3センチ程の火の玉が爆発したのだ。威力が凝縮された爆弾みたいなものだろうか。
 爆風にあおられて千春の帽子が落ち、尖った耳があらわになった。エマニエルさんの耳の形によく似ている。2人とも魔法が得意な種族なのだろうか?

(というか、凄いよ千春! いや、千春さん! 魔女っ子スタイルは伊達じゃなかったのね!
 しかし、あの詠唱は母さんが唱えていたクリエイト・ゴーレムの詠唱とはまるで違う。言っちゃ悪いが、母さんはもっとテキトーだったぞ)

(コン先生、あの詠唱はなんなんです?)
≪マスター、私への敬語は不要です≫
(いや、いいんです。コン先生にはお世話になってますから)
≪マスターは第13支に対して敬語を使ってません。ゆえに私に対しても不要です≫

(第13支というのは鈴音の事か。……何だろう、何となく『鈴音だけずるい、私にもタメ口がいい!』と言っている気がするんだけど気のせいだよね?)

(ま、まあコン先生がそう言うならそうするよ)
≪多謝します。先ほどのご質問への解答ですが、先程の詠唱方式を『詩詠唱しえいしょう』と言います。
 千春が行使した魔法、オクト・ファイヤーボールは基本魔法であるファイヤーボールに、とある魔道者が改編を加えたものです。
 通常は改編を加えた本人にしか改編魔法は使用出来ませんが、例外が『詩詠唱』となります。
 マスターは『錬成』の能力によって簡単に改編を行えますが、通常の魔道者はそうではありません。魔道者本人が精神的に大きな影響を受けた際、偶発的に発動し、習得するものです。
 『詩詠唱』は、詩を朗読する事によって、改編魔法が発動された際の魔道者本人になりきり、改編魔法の発動を可能にする技術です。
 但し、発動には多くの魔法量を消費するため、あまり実践では使われる事はありません≫

(へえ、そうなんだあ)

 俺はコン先生の丁寧な説明を話し半分に聞いていた。
 
 何故ならコン先生の説明中に中にエマニエルさんが「うわー! バカ弟子!! その魔法だけは人前で使うなっていつも言ってるだろ!! あと森で火は山火事になる!」
 と顔を真っ赤にして激怒(いや、ちょっと泣いてる?)していたからだ。まるで山火事がついでのような扱いだ。

 コン先生のご説明によると改編魔法には精神的に大きな影響を受けたときに覚えるらしい。
 ……これはあくまで推測だが、あの詩は、とある淑女が男性に8回裏切られた際の気持ちを謳ったのでは無いだろうか?8回も裏切られるというのは想像するのも難しいが、改編魔法を発動する程なのだから、それはそれは凄いストレスであっただろう。
……そしてその淑女とは……これ以上は語るまい。

 柵の近くでは、エマニエルさんが千春に対して詩詠唱無しの短縮版『オクト・ファイヤーボール』を発動しようとして、龍一郎じいさんに止められている姿がそこにあった。












◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「と、止めるなじいさん! こいつを殺してアタイも死ぬんだ!」
「はっはっは。若い者が死ぬなんて言ってはいかんな。ーーそれより、ほれ。ゴブリンがすぐそこまで迫っておるぞ」
「あ。」
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