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第2章 幼児期

8 とある黒猫の1日

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 ◇午前5時

 お気に入りのクッションの上で目を覚ますと、大きく伸びをし、ひとあくび。とんとんとん、と2階に上がっていく。

 目的地は2階の奥にあるあるじの寝室だ。寝室にたどり着くと、ドアノブにジャンプして飛び付く。この時少し体重をドアへ預けるのがコツだ。ワシレベルになると百発百中でドアを開けられる。
 後ろ足で立ち上がって、そっとベッドを覗きこむ。
 そこには今月で5ヶ月になる赤ん坊がすやすやと寝息をたてていた。
 異常無し。
 今日も元気に成長しているようだ。
 主はグレーターウルフとの戦いの後、転生者としての意識は眠りにつき、ただの赤ん坊として、かれこれ5ヶ月生活をしている。生命力は順調に回復をしており、ワシの見立てだと来月には意識を取り戻す見込みだ。
 ちなみに私は今黒猫の姿をしている。
 あの森での契約が終わり、主が眠りにつくと同時に私は主の生命力を回復させる為に私の生命力を常時主へ送り続けている。私の力が大きく削がれているため、人の姿を取る事が出来ず、以来ずっと猫の姿で生活しているのだ。


 ◇午前6時

「黒ちゃーん、朝ごはんよー」

 主の顔を眺めていると、1階から鈴音を呼ぶ声がした。少々長居をし過ぎたようだ。
 私は主の寝室を後にすると、1階のリビングへ向かう。
 「どうぞ、黒ちゃん」
 菫がそう言って床に置いた皿の上には、魚の切り身が一匹、卵焼き、ウィンナーが乗っていた。さすが菫だ。ワシの好物を完璧に熟知しておる。誉めてつかわそう。

 ◇午前7時

 私は朝ごはんを平らげ、一眠りすると散歩をするため家を出る。

 この村は私が住んでいた森の南に位置している。両端は山に囲まれており、村はそこに出来た谷の下に位置している。村の名前は森谷村もりやむらだそうだ。
 この家は村の中で一番高度が高い場所に位置している。こうして家の前に立つと、谷底から向かいの斜面に家々が点在しているのがわかる。
 今日はいい天気だ。私はお気に入りの日なたぼっこ場所に向けて歩き出した。

 ◇午後5時

 主の様子を見に行くと、目を覚ましていた。
 ワシの顔を見ると、主はにこにこと笑いかける。前足でほっぺたをプニプニと押すと、小さな手でぎゅっと握り返してきた。ふむ、異常無し。

 ◇午後6時

 「昨日、師匠から手紙が届いたよ」

夕食後、のんびりリビングでくつろいでいると、晃一が思い出したように言った。

「へえ、お父さんから。 何だって?」
「修行は怠けてないかとか、子供の名前を教えろとか」
「あ、まだ巧魔たくまの名前伝えていなかったわね」
「あと、約束通り生まれた子供を鍛え上げてやるから街に連れてこいと」
「巧魔は魔法に向いているから剣術は習わせないわよ。全く、お父さんはいつも一方的なんだから」

 ほう、剣の師範がいるのか。街とは、竜街りゅうとのことだろう。主には強くなってもらわなくてはならない。覚えておこう。

 ◇午後7時

 寝る前に主の様子を伺う。
 すやすやと寝息をたてて眠っている。
 異常無しだ。

 しかし、意識が戻ったら主は驚くだろうな。半年間送り続けた私の生命力には、濃い魔力も含まれている。今、主の魔法量は相当なものになっているはずだ。
 例えば、主がグレーターウルフを倒すために作り出したサムライゴーレム等は、ダース単位で同時に作り出せるだろう。

 私は主の寝室を出ると、お気に入りのクッションに身を埋める。
 クッションからは天日干しの良い香りがした。薫の仕業か。ワシのためにどれだけ尽くせば気が済むのか。よくよく誉めてつかわそうではないか。
 ワシは良い配下に恵まれたことに満足しながら、夢の世界へと旅だっていった。
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