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第6章 呉との闘い
85 モンスター討伐依頼 馬車の中にて
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薄暗い馬車の中には数人の冒険者がすでに腰掛けていたが、その中にひとり、いつかのチンピラが座っていた。しかも首を地面にお埋めになられていた方だ。
「その節はどうも……。その後お加減はいかがですか?」
「あの時の記憶がいまいちはっきりしねえんだが、てめえにはしてやられたな。聞けば転成者って話じゃねえか。どんな汚ねえ手を使ったか知らねえが、モンスター討伐じゃあ奇抜な手は通用しねえぞ。ぼくちゃんは無理しねえでおうちに帰った方がいいんじゃねえか」
馬車の中に笑いが起きる。
「……巧魔氏、全員丸焦げにしてやりましょう」
「いやしないから。おとなしく座っておこう」
馬車で移動する間、俺は極小魔法の練習をしていた。
「随分とうまくなりましたね巧魔氏」
「ありがとうございます」
俺の人差し指の先には、ピンポン球ほどの水玉がぷよぷよと浮かんでいた。だんだんとマナのコントロールに慣れてきた気がする。
「そんなちびっこい水玉を作って何になるんじゃ」
「あえて小さいのを作ってコントロールの練習をしてるんだよ。鈴音は極小魔法って練習して無いのか?」
「無いのう」
「巧魔氏、集中して下さい。マナが不安定になってきてます」
水玉がかたちを崩し始めていた。俺は慌ててマナを安定させる。
「はっ。のんきにお水遊びか」
ちんぴらが皮肉たっぷりにそう言った。やけに突っかかってくる奴だ。この前やられたのを余程根に持っているらしい。
「すみません、まだ修行中のみで」
「お遊び気分で来られちゃ迷惑なんだがな」
「いえ、お邪魔はしませんよ」
「そのざまでか?」
よほど苛立ってしまったのか、水玉が縦に長くなったり横に長くなったりと、大きく揺れていた。
「そこの姉ちゃんたちもよう。そんなガキんちょ相手にしてねえで、こっちで仲良くしようぜ」
ちんぴらが千春さんに手を伸ばしてきたので、俺は体を入れてそれを遮った。
「おいおい、勘違いすんなよ。俺はちょっとお話をしようとしただけだぜ」
「そちらこそ勘違いしないで下さい。僕はあなたのためにやってるんですよ」
俺はけつの穴に剣をぶっさされた男と一緒にピクニックする趣味は無いのでな。
しかし、こいつは前回会ったときと全然変わってないな。あそこまでやられたというのに、まったく反省の色が無い。……一回、本当に串刺しの刑を食らっておいた方がいいんじゃ無いか? むろん、死なない程度に。
《警告。マスタ、水球へ注入している魔力量が臨界点をオーバーします》
いかん、気が昂ぶって水球に魔力を注入してしまっていたらしい。
「巧魔氏、そんなもの発動したら馬車ごと潰れちゃいますです」
「すみません、すぐ捨てますね」
俺は馬車の後ろにある布をめくると、水球を放り投げる。
放物線を描いて水球が地面へ触れる。と、大きな爆裂音と同時に巨大な水柱。
馬車へ夕立のように激しく水が降り注いだ。
「すみません話が中断してしまって。それで、なんのお話でしたっけ」
「いや、なんでもない」
その後、目的地に着くまで馬車の中は驚くほど静かであった。
「その節はどうも……。その後お加減はいかがですか?」
「あの時の記憶がいまいちはっきりしねえんだが、てめえにはしてやられたな。聞けば転成者って話じゃねえか。どんな汚ねえ手を使ったか知らねえが、モンスター討伐じゃあ奇抜な手は通用しねえぞ。ぼくちゃんは無理しねえでおうちに帰った方がいいんじゃねえか」
馬車の中に笑いが起きる。
「……巧魔氏、全員丸焦げにしてやりましょう」
「いやしないから。おとなしく座っておこう」
馬車で移動する間、俺は極小魔法の練習をしていた。
「随分とうまくなりましたね巧魔氏」
「ありがとうございます」
俺の人差し指の先には、ピンポン球ほどの水玉がぷよぷよと浮かんでいた。だんだんとマナのコントロールに慣れてきた気がする。
「そんなちびっこい水玉を作って何になるんじゃ」
「あえて小さいのを作ってコントロールの練習をしてるんだよ。鈴音は極小魔法って練習して無いのか?」
「無いのう」
「巧魔氏、集中して下さい。マナが不安定になってきてます」
水玉がかたちを崩し始めていた。俺は慌ててマナを安定させる。
「はっ。のんきにお水遊びか」
ちんぴらが皮肉たっぷりにそう言った。やけに突っかかってくる奴だ。この前やられたのを余程根に持っているらしい。
「すみません、まだ修行中のみで」
「お遊び気分で来られちゃ迷惑なんだがな」
「いえ、お邪魔はしませんよ」
「そのざまでか?」
よほど苛立ってしまったのか、水玉が縦に長くなったり横に長くなったりと、大きく揺れていた。
「そこの姉ちゃんたちもよう。そんなガキんちょ相手にしてねえで、こっちで仲良くしようぜ」
ちんぴらが千春さんに手を伸ばしてきたので、俺は体を入れてそれを遮った。
「おいおい、勘違いすんなよ。俺はちょっとお話をしようとしただけだぜ」
「そちらこそ勘違いしないで下さい。僕はあなたのためにやってるんですよ」
俺はけつの穴に剣をぶっさされた男と一緒にピクニックする趣味は無いのでな。
しかし、こいつは前回会ったときと全然変わってないな。あそこまでやられたというのに、まったく反省の色が無い。……一回、本当に串刺しの刑を食らっておいた方がいいんじゃ無いか? むろん、死なない程度に。
《警告。マスタ、水球へ注入している魔力量が臨界点をオーバーします》
いかん、気が昂ぶって水球に魔力を注入してしまっていたらしい。
「巧魔氏、そんなもの発動したら馬車ごと潰れちゃいますです」
「すみません、すぐ捨てますね」
俺は馬車の後ろにある布をめくると、水球を放り投げる。
放物線を描いて水球が地面へ触れる。と、大きな爆裂音と同時に巨大な水柱。
馬車へ夕立のように激しく水が降り注いだ。
「すみません話が中断してしまって。それで、なんのお話でしたっけ」
「いや、なんでもない」
その後、目的地に着くまで馬車の中は驚くほど静かであった。
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