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番外編

シフィルの誕生日 5 ★

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「可愛い、シフィル」
 囁きながら、エルヴィンの指がシフィルの肌の上を滑っていく。いつも、服を脱がせるエルヴィンの手際の良さには驚かされる。甘いキスに夢中になっているうちに、あっという間にシフィルは生まれたままの姿だ。
 少しだけ硬いエルヴィンの指先に触れられるたび、シフィルの身体は熱を増して幾度となく身体が震えた。

「すごく甘くていい香りがするな」
 首筋に顔を寄せたエルヴィンが、すんと鼻を鳴らす。
「ん、カリンからもらった香水をつけたの」
 微かに首に触れる唇に身体を震わせながらシフィルがそう言うと、エルヴィンがかぷりと首筋に噛みついた。優しく歯を立てられただけで痛くはないけれど、ただでさえ敏感になっている身体には刺激が強すぎて、シフィルは思わず悲鳴をあげた。
「美味しそうな香りだな。つい食べたくなってしまう」
「か、噛むのは……だめ」
「じゃあ、これなら?」
 小さく笑ったエルヴィンが、今度は唇で柔らかく食むように触れるから、くすぐったさとほのかな快楽にシフィルは身体をよじった。
 その拍子に、着けたままだったネックレスがしゃらりと肌を滑った。
「あ、ネックレス……、外さなきゃ」
 つぶやいて身体を起こそうとしたシフィルの肩を、エルヴィンがそっと押さえる。
「それは着けたままにしておいて」
「え?」
「何も着てないのに、俺が贈ったネックレスだけ身につけてる、という状況にすごく興奮する」
 妖艶な表情でエルヴィンがそう言うから、更に体温の上がった身体を自覚しつつ、シフィルは黙ってうなずいた。


 
「シフィルはどこを触っても柔らかくてふわふわで、強く触れたら壊してしまいそうだな」
 大きな手が、まるで宝物を扱うように優しくシフィルの胸に触れる。いつものような飲み込まれるほど激しいものではない穏やかな快楽がもどかしくて、シフィルは思わずエルヴィンの手に自らの手を重ねた。
「壊れたりなんてしないから、いつもみたいに……、もっとエルヴィンの好きにして」
「……シフィルは、すぐそういうことを言う」
 困ったような笑みを浮かべたエルヴィンが、シフィルに一度触れるだけのキスを落とした。
「今日は、優しくしたいのに」
「エルヴィンが優しいのは知ってるもの。だからもっと……」
 重ねた手に力を込めると、エルヴィンが小さくため息をついて笑った。
「お望みのままに、お姫様」
「あ、ん……っ!」
 痛くはないものの、先ほどよりも強く胸を掴まれて思わず高い声が漏れる。胸の先を手のひらで転がすようにされて、背筋をぞくりとした快感が駆け上がっていく。
「可愛い声」
 笑みを含んだ声が耳元で聞こえたと思った次の瞬間、熱く濡れたものが胸の先に触れる。今度は舌先で執拗に転がされて、シフィルの背が大きくしなった。
「ん、もっと?」
 まるで更にとねだるように胸を押しつけるような体勢になったからか、エルヴィンが笑ってそれに応える。
「あぁっ、ふ、ぁ……」 
 思わず快楽を逃すように首を振ると、シーツの上には銀の髪がくしゃくしゃと広がっていく。それを嬉しそうに見つめたあと、エルヴィンは再びシフィルの胸に唇を寄せた。
 シフィルが胸にコンプレックスを抱いていることを知っているからか、エルヴィンはいつも執拗なほどに胸を愛してくれる。シフィルの反応が可愛いと笑い、彼の手のひらにすっぽりとおさまってしまう胸を優しく包み込んでは、柔らかくて気持ちがいいと褒めてくれる。
 その甘く優しい快楽に溺れて、シフィルはいつだってエルヴィンの腕の中で幸せな気持ちのまま何度も身体を震わせるのだ。

 
「ね、そこばっかり……っ」
 胸に触れられることはもちろん嫌いではないけれど、身体の奥深くは刺激を求めてずっと疼いている。
 何度も愛おしげに胸に口づけを落とすエルヴィンの髪を撫でながら、シフィルは他にも触れてほしい場所があるのだと遠回しにねだる。
 ちゅ、と音を立ててまた新たな痕を残したエルヴィンが、顔を上げると意地悪な笑みを浮かべた。
「こっちも欲しくなった?」
「や、あぁ……っん」
 すでにシーツに垂れるほどに蜜をこぼしていた場所に指が沈められていく。何の抵抗もなく彼の指を飲み込んでいく感覚に、少しの恥ずかしさと待ち望んだものを与えられた喜びとが入り混じる。
「シフィル、腰が揺れてる」
「んんっ言わない、で……、だって、あぁんっ」
 思わずもっと奥にと迎え入れるように腰を浮かしてしまったことを笑い混じりの声で指摘されて、一瞬頬に血がのぼる。だけど、まるで内側を抉るように指を動かされて、抗議の言葉は喘ぎ声に変わってしまう。
 可愛い、と囁いたエルヴィンの指が、本数を増やして中で動くから、シフィルはもはや逃げたいのかもっと欲しいのか分からないままに、何度も身体を跳ねさせた。


 エルヴィンの指先や唇に導かれて、シフィルは幾度となく頭の中が真っ白になるほどの快楽に溺れた。それはとても気持ちがいいのだけど、本当に欲しいものはまだもらっていない。
 荒くなった呼吸を整えつつ、シフィルは震える手でエルヴィンの腕を掴み、見上げた。
「エルヴィン、お願い、もう……」
「何? シフィル」
 蕩けそうなほどに優しい笑みを浮かべるエルヴィンは、小さく首をかしげた。きっとシフィルの言いたいことは分かっているはずなのに、黙って続きを待っている。
 欲望を素直に口に出すことの恥ずかしさはあるものの、身体の奥の疼きはもう耐えられない。焦れたように首を振って、シフィルはエルヴィンを抱き寄せて胸元に頬を寄せた。こうすれば、顔だけは見られずにすむ。
「お願い、エルヴィンが欲しいの、早く……っ」
 泣き出しそうな声で叫ぶように求めると、エルヴィンが小さく息をのんだ気配がした。そして一度強く抱きしめられたあと、待ち望んだものがシフィルの中に入ってくる。
「……っあ、ふ……ぅっ」
 少し苦しいほどの圧迫感と、最奥まで満たされる充足感に、堪えようとしても声が漏れる。
「シフィル……」
 これ以上ないほどに密着した状態で、エルヴィンが囁いた。少しだけ余裕のなさそうなその声に、彼も快楽を得ていることが分かって嬉しくなる。
「愛してるわ、エルヴィン。この先の誕生日も、ずっとずっと一緒に過ごしてね」
 高まった気持ちのまま吐息混じりに囁くと、エルヴィンの表情が歪んだ。不機嫌そうに寄せられた眉と、深く刻まれた眉間の皺。そんな表情を向けられるのは、久しぶりだ。
「シフィル、今そういうこと言うのは反則……っ」
 表情は怖いけれど、微かに笑みを浮かべた口元を見れば、本当に不機嫌でないことはもう分かる。どうやら盛大に照れているらしいエルヴィンを見て、シフィルは思わず笑ってしまった。そのせいで震えた身体が新たな刺激を拾ってしまって、笑い声は途中から甘い声に変わってしまったけれど。
 
「だって、本当に……っあん、大好きなの」
 まるで仕返しのように揺さぶられながら、それでもシフィルは訴えた。胸元で、エルヴィンに贈られたネックレスが弾んで柔らかな光を放つ。
「知ってる。俺も、ずっとずっと、シフィルだけを、愛してる」
 言葉の合間に何度もシフィルの身体を突き上げながら、エルヴィンが愛おしげに囁く。返事をしたいのに、口から飛び出るのは意味をなさない甘い悲鳴ばかり。
 だからシフィルは、言葉のかわりにエルヴィンを強く抱きしめた。絶対に離れない、そして離さないという気持ちを込めて。



 翌朝目覚めたシフィルは、いつもと違う景色にぱちぱちと瞬きを繰り返した。
 うしろから抱きしめるエルヴィンのぬくもりを自覚したと同時に思い出されるのは、昨夜のこと。
 甘く幸せな夜だったなと反芻しかけて、シフィルは重大なことに気づいて息をのんだ。
「……っ」
「ん、おはようシフィル」
 シフィルが起きたことに気づいたのか、まるで甘えるように頬を擦り寄せて抱きしめたエルヴィンの腕に力がこもる。
「おはよう……じゃなくて、待ってエルヴィン、どうしよう、私……」
 青ざめながら、シフィルはエルヴィンの腕から抜け出て起き上がる。
 マリウスの好意で泊めてもらったとはいえ、ここは単なる宿ではない。この国の、王族が住まう場所なのに、そんなことも忘れて散々エルヴィンと愛し合ってしまった。
 慌ててシーツを整えようとするシフィルを、エルヴィンが笑いながらうしろから抱きしめる。
「マリウス様が手配してくれたと言っただろう。これで俺たちが健全な夜を過ごしていたら、ローシェにも何を言われるか分からない」
「で、でも」
 まだ顔色の悪いシフィルに笑いながら、エルヴィンが小さなカードを見せる。それはマリウスからのメッセージで、素敵な夜を過ごして欲しいこと、朝食はベルを鳴らせば用意できることに加えて、もしも朝、シフィルが起き上がれないようなら介助の者も呼べる(だけどエルヴィンはやりすぎに注意!)とまで書いてある。ふたりがこの部屋でどう過ごすかをしっかりと見透かされていて、恥ずかしさにシフィルの頬が真っ赤になった。
 次にマリウスに会う時に、どんな顔をすればいいか分からなくなりそうだ。
  
「心配しなくても防音はしっかりしているし、部屋には誰も近づかないように頼んでおいたから大丈夫」
 何なら今からもう一度、と言って、早速不埒な動きをし始めるエルヴィンの手を慌てて止め、シフィルは小さく唇を尖らせた。
「それでも恥ずかしいし、何だか落ち着かないの!」
「じゃあ、この続きは家で」
 残念だけどとつぶやいたエルヴィンが、シフィルの耳元に口づけて笑った。
 
 
 帰宅後は、どうやら休みを強引にもぎ取ったらしいエルヴィンが、当日祝えなかった分も祝うのだと言っていつも以上に甲斐甲斐しくシフィルの世話をしてくれた。
 一日遅れの誕生日は、エルヴィンがまるでお姫様のように扱ってくれるから、とても甘く幸せなものとなった。
 
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