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番外編
わたしのドレスは、どう選ぶ? 3
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「ローシェ、耳まで真っ赤だ」
可愛い、と吐息混じりに囁いたマリウスが、軽くローシェの肩を押した。壁に身体を押しつけられ、顔の横にマリウスが手をついて、逃げ場を塞ぐ。
そこにいたのは、ひとつ年下の天真爛漫な可愛い王子ではなく、驚くほどに色気のある瞳をした男だった。
見上げるほどの身長差も、ローシェを囲う腕のたくましさも、改めて彼が可愛いだけの少年でないことを認識させる。
「本当はね、結構色々と我慢してるんだよ」
ローシェの髪を掬い上げて口づけ、マリウスは妖艶に笑う。今まで見たことのない彼の姿に、ローシェは動けない。ただ、凍りついたようにマリウスの赤い瞳を見つめていた。
「可愛いマリウス王子は、きっと婚約者とは手を繋ぐのが精一杯。額か頬に口づけくらいなら、ギリギリ許容範囲かな」
くすりと笑ったマリウスが、そんなことを囁く。確かに、世間一般がマリウスとローシェに抱いているイメージは、そんなところだろう。
「だけど、本当の僕は全然違う。実を言うと、今すぐにだってきみを部屋に連れ去りたいと思うし、そんな劣情を抱いている僕をきみが嫌わないか、不安にも思ってる」
「そんな、嫌うなんて」
「本当? ずっと僕を好きでいてくれる? こんな僕でも?」
「もちろんです」
慌ててうなずくと、マリウスは困ったように笑った。
「その返しを僕が、今すぐ抱かれても構わないという意味に受け取ってしまっても?」
「えっと、それは……その」
真っ赤な顔でしどろもどろになるローシェを見て、マリウスはくすくすと笑った。
「ごめん、冗談が過ぎたね。だけど僕だって、好きな子に嫌われたくないと、ついカッコつけてしまう情けない男なんだよ」
「好きな……子」
呆然としてつぶやくと、マリウスは笑って首をかしげ、顔をのぞき込んだ。
「きみ以外に誰がいるの、ローシェ」
「本当、に?」
また縋るような声をあげてしまう。だけど、ローシェだってマリウスに愛されたいと、やっぱり思ってしまうのだ。思った以上に自分はマリウスのことを好きなのだと自覚して、ローシェの頬は真っ赤になる。
「エルヴィンには色々と言うのに、自分のことになると、思った以上にきみは初心だね」
そんなところも可愛いけれど、と囁いたマリウスが、そっと顔を近づける。
「マリウスさ、……」
言いかけた言葉は、彼の唇によって遮られた。目を見開いて固まるローシェのすぐそばに、マリウスの端正な顔がある。軽く伏せられた目の、その睫毛の長さにローシェは一瞬見惚れた。
ちゅ、と微かな音を響かせて唇が離れていく。
思わず崩れ落ちそうになったローシェの身体を、マリウスが小さく笑って抱き寄せた。
「ごめんね、ちょっと我慢できなくなっちゃった」
可愛らしく首をかしげるマリウスは、いつもの天真爛漫な王子の顔をしている。だけど赤い瞳の奥には、まだ微かに妖艶な色が残っていて、ローシェはその瞳から目を逸らすことができない。
「来年には僕も成人だし、結婚だってするし、こうやって少しずつ触れ合いを増やしていってもいいよね?」
もちろん誰もいないところで、と囁かれて、ローシェは熱い頬を押さえながらうなずいた。
「こう見えて、きみを名実ともにこの手にする日を、僕は指折り数えて楽しみにしてるんだよ」
するりと頬を撫でたあと、ローシェの手をとってマリウスはにこりと笑う。
「さて、今日は天気もいいし、庭でお茶をしようか。ローシェの好きなケーキも用意してあるんだ」
明るい声には、先程のような色気は全く感じられない。
いつもの天真爛漫な可愛いマリウス王子を再び演じ始めたことを知って、ローシェも笑ってうなずく。
「そのあと、お庭の薔薇を見に行きたいわ。マリウス様、つき合ってくださる?」
「もちろんだよ」
二人は、くすくすと笑いあうと手を繋いで歩き出した。
柔らかく握られた手のぬくもりを感じながら、ローシェはそっと握る手に力を込めた。
ちらりとローシェを見たマリウスは、にっこりと笑うと親指でそっとローシェの手の甲を撫でる。その動きだけはこっそりと官能的で、それは二人だけの秘密。
可愛い、と吐息混じりに囁いたマリウスが、軽くローシェの肩を押した。壁に身体を押しつけられ、顔の横にマリウスが手をついて、逃げ場を塞ぐ。
そこにいたのは、ひとつ年下の天真爛漫な可愛い王子ではなく、驚くほどに色気のある瞳をした男だった。
見上げるほどの身長差も、ローシェを囲う腕のたくましさも、改めて彼が可愛いだけの少年でないことを認識させる。
「本当はね、結構色々と我慢してるんだよ」
ローシェの髪を掬い上げて口づけ、マリウスは妖艶に笑う。今まで見たことのない彼の姿に、ローシェは動けない。ただ、凍りついたようにマリウスの赤い瞳を見つめていた。
「可愛いマリウス王子は、きっと婚約者とは手を繋ぐのが精一杯。額か頬に口づけくらいなら、ギリギリ許容範囲かな」
くすりと笑ったマリウスが、そんなことを囁く。確かに、世間一般がマリウスとローシェに抱いているイメージは、そんなところだろう。
「だけど、本当の僕は全然違う。実を言うと、今すぐにだってきみを部屋に連れ去りたいと思うし、そんな劣情を抱いている僕をきみが嫌わないか、不安にも思ってる」
「そんな、嫌うなんて」
「本当? ずっと僕を好きでいてくれる? こんな僕でも?」
「もちろんです」
慌ててうなずくと、マリウスは困ったように笑った。
「その返しを僕が、今すぐ抱かれても構わないという意味に受け取ってしまっても?」
「えっと、それは……その」
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「ごめん、冗談が過ぎたね。だけど僕だって、好きな子に嫌われたくないと、ついカッコつけてしまう情けない男なんだよ」
「好きな……子」
呆然としてつぶやくと、マリウスは笑って首をかしげ、顔をのぞき込んだ。
「きみ以外に誰がいるの、ローシェ」
「本当、に?」
また縋るような声をあげてしまう。だけど、ローシェだってマリウスに愛されたいと、やっぱり思ってしまうのだ。思った以上に自分はマリウスのことを好きなのだと自覚して、ローシェの頬は真っ赤になる。
「エルヴィンには色々と言うのに、自分のことになると、思った以上にきみは初心だね」
そんなところも可愛いけれど、と囁いたマリウスが、そっと顔を近づける。
「マリウスさ、……」
言いかけた言葉は、彼の唇によって遮られた。目を見開いて固まるローシェのすぐそばに、マリウスの端正な顔がある。軽く伏せられた目の、その睫毛の長さにローシェは一瞬見惚れた。
ちゅ、と微かな音を響かせて唇が離れていく。
思わず崩れ落ちそうになったローシェの身体を、マリウスが小さく笑って抱き寄せた。
「ごめんね、ちょっと我慢できなくなっちゃった」
可愛らしく首をかしげるマリウスは、いつもの天真爛漫な王子の顔をしている。だけど赤い瞳の奥には、まだ微かに妖艶な色が残っていて、ローシェはその瞳から目を逸らすことができない。
「来年には僕も成人だし、結婚だってするし、こうやって少しずつ触れ合いを増やしていってもいいよね?」
もちろん誰もいないところで、と囁かれて、ローシェは熱い頬を押さえながらうなずいた。
「こう見えて、きみを名実ともにこの手にする日を、僕は指折り数えて楽しみにしてるんだよ」
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「さて、今日は天気もいいし、庭でお茶をしようか。ローシェの好きなケーキも用意してあるんだ」
明るい声には、先程のような色気は全く感じられない。
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「そのあと、お庭の薔薇を見に行きたいわ。マリウス様、つき合ってくださる?」
「もちろんだよ」
二人は、くすくすと笑いあうと手を繋いで歩き出した。
柔らかく握られた手のぬくもりを感じながら、ローシェはそっと握る手に力を込めた。
ちらりとローシェを見たマリウスは、にっこりと笑うと親指でそっとローシェの手の甲を撫でる。その動きだけはこっそりと官能的で、それは二人だけの秘密。
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