23 / 43
番外編
わたしのドレスは、どう選ぶ? 3
しおりを挟む
「ローシェ、耳まで真っ赤だ」
可愛い、と吐息混じりに囁いたマリウスが、軽くローシェの肩を押した。壁に身体を押しつけられ、顔の横にマリウスが手をついて、逃げ場を塞ぐ。
そこにいたのは、ひとつ年下の天真爛漫な可愛い王子ではなく、驚くほどに色気のある瞳をした男だった。
見上げるほどの身長差も、ローシェを囲う腕のたくましさも、改めて彼が可愛いだけの少年でないことを認識させる。
「本当はね、結構色々と我慢してるんだよ」
ローシェの髪を掬い上げて口づけ、マリウスは妖艶に笑う。今まで見たことのない彼の姿に、ローシェは動けない。ただ、凍りついたようにマリウスの赤い瞳を見つめていた。
「可愛いマリウス王子は、きっと婚約者とは手を繋ぐのが精一杯。額か頬に口づけくらいなら、ギリギリ許容範囲かな」
くすりと笑ったマリウスが、そんなことを囁く。確かに、世間一般がマリウスとローシェに抱いているイメージは、そんなところだろう。
「だけど、本当の僕は全然違う。実を言うと、今すぐにだってきみを部屋に連れ去りたいと思うし、そんな劣情を抱いている僕をきみが嫌わないか、不安にも思ってる」
「そんな、嫌うなんて」
「本当? ずっと僕を好きでいてくれる? こんな僕でも?」
「もちろんです」
慌ててうなずくと、マリウスは困ったように笑った。
「その返しを僕が、今すぐ抱かれても構わないという意味に受け取ってしまっても?」
「えっと、それは……その」
真っ赤な顔でしどろもどろになるローシェを見て、マリウスはくすくすと笑った。
「ごめん、冗談が過ぎたね。だけど僕だって、好きな子に嫌われたくないと、ついカッコつけてしまう情けない男なんだよ」
「好きな……子」
呆然としてつぶやくと、マリウスは笑って首をかしげ、顔をのぞき込んだ。
「きみ以外に誰がいるの、ローシェ」
「本当、に?」
また縋るような声をあげてしまう。だけど、ローシェだってマリウスに愛されたいと、やっぱり思ってしまうのだ。思った以上に自分はマリウスのことを好きなのだと自覚して、ローシェの頬は真っ赤になる。
「エルヴィンには色々と言うのに、自分のことになると、思った以上にきみは初心だね」
そんなところも可愛いけれど、と囁いたマリウスが、そっと顔を近づける。
「マリウスさ、……」
言いかけた言葉は、彼の唇によって遮られた。目を見開いて固まるローシェのすぐそばに、マリウスの端正な顔がある。軽く伏せられた目の、その睫毛の長さにローシェは一瞬見惚れた。
ちゅ、と微かな音を響かせて唇が離れていく。
思わず崩れ落ちそうになったローシェの身体を、マリウスが小さく笑って抱き寄せた。
「ごめんね、ちょっと我慢できなくなっちゃった」
可愛らしく首をかしげるマリウスは、いつもの天真爛漫な王子の顔をしている。だけど赤い瞳の奥には、まだ微かに妖艶な色が残っていて、ローシェはその瞳から目を逸らすことができない。
「来年には僕も成人だし、結婚だってするし、こうやって少しずつ触れ合いを増やしていってもいいよね?」
もちろん誰もいないところで、と囁かれて、ローシェは熱い頬を押さえながらうなずいた。
「こう見えて、きみを名実ともにこの手にする日を、僕は指折り数えて楽しみにしてるんだよ」
するりと頬を撫でたあと、ローシェの手をとってマリウスはにこりと笑う。
「さて、今日は天気もいいし、庭でお茶をしようか。ローシェの好きなケーキも用意してあるんだ」
明るい声には、先程のような色気は全く感じられない。
いつもの天真爛漫な可愛いマリウス王子を再び演じ始めたことを知って、ローシェも笑ってうなずく。
「そのあと、お庭の薔薇を見に行きたいわ。マリウス様、つき合ってくださる?」
「もちろんだよ」
二人は、くすくすと笑いあうと手を繋いで歩き出した。
柔らかく握られた手のぬくもりを感じながら、ローシェはそっと握る手に力を込めた。
ちらりとローシェを見たマリウスは、にっこりと笑うと親指でそっとローシェの手の甲を撫でる。その動きだけはこっそりと官能的で、それは二人だけの秘密。
可愛い、と吐息混じりに囁いたマリウスが、軽くローシェの肩を押した。壁に身体を押しつけられ、顔の横にマリウスが手をついて、逃げ場を塞ぐ。
そこにいたのは、ひとつ年下の天真爛漫な可愛い王子ではなく、驚くほどに色気のある瞳をした男だった。
見上げるほどの身長差も、ローシェを囲う腕のたくましさも、改めて彼が可愛いだけの少年でないことを認識させる。
「本当はね、結構色々と我慢してるんだよ」
ローシェの髪を掬い上げて口づけ、マリウスは妖艶に笑う。今まで見たことのない彼の姿に、ローシェは動けない。ただ、凍りついたようにマリウスの赤い瞳を見つめていた。
「可愛いマリウス王子は、きっと婚約者とは手を繋ぐのが精一杯。額か頬に口づけくらいなら、ギリギリ許容範囲かな」
くすりと笑ったマリウスが、そんなことを囁く。確かに、世間一般がマリウスとローシェに抱いているイメージは、そんなところだろう。
「だけど、本当の僕は全然違う。実を言うと、今すぐにだってきみを部屋に連れ去りたいと思うし、そんな劣情を抱いている僕をきみが嫌わないか、不安にも思ってる」
「そんな、嫌うなんて」
「本当? ずっと僕を好きでいてくれる? こんな僕でも?」
「もちろんです」
慌ててうなずくと、マリウスは困ったように笑った。
「その返しを僕が、今すぐ抱かれても構わないという意味に受け取ってしまっても?」
「えっと、それは……その」
真っ赤な顔でしどろもどろになるローシェを見て、マリウスはくすくすと笑った。
「ごめん、冗談が過ぎたね。だけど僕だって、好きな子に嫌われたくないと、ついカッコつけてしまう情けない男なんだよ」
「好きな……子」
呆然としてつぶやくと、マリウスは笑って首をかしげ、顔をのぞき込んだ。
「きみ以外に誰がいるの、ローシェ」
「本当、に?」
また縋るような声をあげてしまう。だけど、ローシェだってマリウスに愛されたいと、やっぱり思ってしまうのだ。思った以上に自分はマリウスのことを好きなのだと自覚して、ローシェの頬は真っ赤になる。
「エルヴィンには色々と言うのに、自分のことになると、思った以上にきみは初心だね」
そんなところも可愛いけれど、と囁いたマリウスが、そっと顔を近づける。
「マリウスさ、……」
言いかけた言葉は、彼の唇によって遮られた。目を見開いて固まるローシェのすぐそばに、マリウスの端正な顔がある。軽く伏せられた目の、その睫毛の長さにローシェは一瞬見惚れた。
ちゅ、と微かな音を響かせて唇が離れていく。
思わず崩れ落ちそうになったローシェの身体を、マリウスが小さく笑って抱き寄せた。
「ごめんね、ちょっと我慢できなくなっちゃった」
可愛らしく首をかしげるマリウスは、いつもの天真爛漫な王子の顔をしている。だけど赤い瞳の奥には、まだ微かに妖艶な色が残っていて、ローシェはその瞳から目を逸らすことができない。
「来年には僕も成人だし、結婚だってするし、こうやって少しずつ触れ合いを増やしていってもいいよね?」
もちろん誰もいないところで、と囁かれて、ローシェは熱い頬を押さえながらうなずいた。
「こう見えて、きみを名実ともにこの手にする日を、僕は指折り数えて楽しみにしてるんだよ」
するりと頬を撫でたあと、ローシェの手をとってマリウスはにこりと笑う。
「さて、今日は天気もいいし、庭でお茶をしようか。ローシェの好きなケーキも用意してあるんだ」
明るい声には、先程のような色気は全く感じられない。
いつもの天真爛漫な可愛いマリウス王子を再び演じ始めたことを知って、ローシェも笑ってうなずく。
「そのあと、お庭の薔薇を見に行きたいわ。マリウス様、つき合ってくださる?」
「もちろんだよ」
二人は、くすくすと笑いあうと手を繋いで歩き出した。
柔らかく握られた手のぬくもりを感じながら、ローシェはそっと握る手に力を込めた。
ちらりとローシェを見たマリウスは、にっこりと笑うと親指でそっとローシェの手の甲を撫でる。その動きだけはこっそりと官能的で、それは二人だけの秘密。
10
お気に入りに追加
670
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。