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2 ミリアムの解毒剤
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扉を開けて、ミリアムは中を見回した。そう広くない部屋の中には、一人用の狭いベッドがひとつと、小さな机と椅子がひとつずつ。
荷物をとりあえず床に置いて、ミリアムはイヴァンを振り返った。
「イヴァン、大丈夫?とりあえずベッドで休んで」
ミリアムの言葉に、イヴァンは苦しげな吐息を漏らしつつゆっくりと顔を上げた。黒い瞳が、眇められてミリアムを見つめる。
「おまえ、なんで部屋……」
「だって、お部屋ひとつしか空いてないって言うんだもの。イヴァンの毒は私のせいだし、ほら早く横になって身体を休めて。急いで解毒剤を作るから、待っててね」
「……っでも」
「大丈夫、大丈夫。私は床でだって寝られるから。そもそもこんなことになったのは、私のせいだし」
「いや、さすがに床で眠らせるわけには……」
「はいはい、文句は元気になってから聞くわ。とにかく今は、休んでて」
まだ何か言いたそうにしていたイヴァンだったけれど、やはり身体にまわる毒は思った以上に苦しいらしく、ため息をついて彼はベッドに横になった。
目を閉じて、苦しそうに眉を寄せるイヴァンを横目に見ながら、ミリアムは机の上に解毒剤の調合に必要なものを並べていく。
解毒剤にはいくつか種類があるけれど、事態は一刻を争う。なるべく少ない手順で作れるレシピを思い出しながら、ミリアムは急いで調合に取り掛かる。
少し高価で貴重な素材を使うことになったけど、今は解毒剤を早く作成することの方が大事だ。きっと師匠も許してくれるだろう。
出来上がった解毒剤は、どろりとした緑色をしている。いかにも苦そうなその見た目に顔をしかめつつ、ミリアムはその解毒剤に自らの魔力を注ぎ込んだ。ふわりと淡い光と共に、解毒剤の色は少しだけ飲みやすそうな黄緑色に変化した。
「イヴァン、解毒剤ができたわ。早く飲んで」
肩を揺すって声をかけると、イヴァンがゆっくりと目を開けた。ぼんやりとした表情と、熱をもった瞳に、一瞬色っぽさを感じてどきりとしてしまう。
「……これ、は」
「解毒剤よ。ほら、早く飲んで」
「いや、ミリアムこれは……」
微妙に困った表情を浮かべるイヴァンに、ミリアムは唇を尖らせる。
「何よう。私が作った解毒剤が信用できないの?これでも薬の調合は、師匠にも褒められるのよ」
「いや、そうじゃなくて……」
何か言いたげなイヴァンだけど、毒のせいで朦朧としているのか、言葉が続かない。唇から漏れる吐息も熱く苦しそうで、これは早く解毒剤を飲ませなければと焦ったミリアムは、手にした解毒剤を自らの口に含むと、イヴァンの唇に重ねた。
荷物をとりあえず床に置いて、ミリアムはイヴァンを振り返った。
「イヴァン、大丈夫?とりあえずベッドで休んで」
ミリアムの言葉に、イヴァンは苦しげな吐息を漏らしつつゆっくりと顔を上げた。黒い瞳が、眇められてミリアムを見つめる。
「おまえ、なんで部屋……」
「だって、お部屋ひとつしか空いてないって言うんだもの。イヴァンの毒は私のせいだし、ほら早く横になって身体を休めて。急いで解毒剤を作るから、待っててね」
「……っでも」
「大丈夫、大丈夫。私は床でだって寝られるから。そもそもこんなことになったのは、私のせいだし」
「いや、さすがに床で眠らせるわけには……」
「はいはい、文句は元気になってから聞くわ。とにかく今は、休んでて」
まだ何か言いたそうにしていたイヴァンだったけれど、やはり身体にまわる毒は思った以上に苦しいらしく、ため息をついて彼はベッドに横になった。
目を閉じて、苦しそうに眉を寄せるイヴァンを横目に見ながら、ミリアムは机の上に解毒剤の調合に必要なものを並べていく。
解毒剤にはいくつか種類があるけれど、事態は一刻を争う。なるべく少ない手順で作れるレシピを思い出しながら、ミリアムは急いで調合に取り掛かる。
少し高価で貴重な素材を使うことになったけど、今は解毒剤を早く作成することの方が大事だ。きっと師匠も許してくれるだろう。
出来上がった解毒剤は、どろりとした緑色をしている。いかにも苦そうなその見た目に顔をしかめつつ、ミリアムはその解毒剤に自らの魔力を注ぎ込んだ。ふわりと淡い光と共に、解毒剤の色は少しだけ飲みやすそうな黄緑色に変化した。
「イヴァン、解毒剤ができたわ。早く飲んで」
肩を揺すって声をかけると、イヴァンがゆっくりと目を開けた。ぼんやりとした表情と、熱をもった瞳に、一瞬色っぽさを感じてどきりとしてしまう。
「……これ、は」
「解毒剤よ。ほら、早く飲んで」
「いや、ミリアムこれは……」
微妙に困った表情を浮かべるイヴァンに、ミリアムは唇を尖らせる。
「何よう。私が作った解毒剤が信用できないの?これでも薬の調合は、師匠にも褒められるのよ」
「いや、そうじゃなくて……」
何か言いたげなイヴァンだけど、毒のせいで朦朧としているのか、言葉が続かない。唇から漏れる吐息も熱く苦しそうで、これは早く解毒剤を飲ませなければと焦ったミリアムは、手にした解毒剤を自らの口に含むと、イヴァンの唇に重ねた。
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