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5 媚薬の効かない魔女 ★
しおりを挟む「み、水飲んで!少しは中和できるはずだから」
シャルは、慌てて水差しに手を伸ばした。その手をリアンが掴む。
「必要ないよ」
「え?」
空になった小瓶を置き、口元を拭ったリアンがシャルの身体を引き寄せる。
「待っ……」
制止の言葉は、リアンの唇に塞がれて消えた。
リアンの舌がシャルの唇を割って、奥まで侵入してくる。リアンの口の中に残っていたのであろう、媚薬の甘い味も同時に流れ込んできて、シャルは飲み込むまいと必死に堪える。
だけど、シャルの口内を生き物のように動くリアンの舌が、それを邪魔する。
気がつけば、シャルはリアンの唾液ごと、その甘い液体を飲み込んでいた。
「ん……、はぁっ、リア、ン」
強い酒を飲んだ時のように、顔が熱い。普段から調合で様々な薬品に触れているし、自分の魔力を込めた魔法薬は、シャルには効かないはずなのに。
リアンは、熱にうかされたような表情でシャルの頬に触れる。
「行かせないよ、シャル。僕のものだ……、僕だけのシャル」
「や……嫌、リアン……」
リアンの胸を押して離れようとするけれど、その身体はびくともしない。手のひらに感じる硬い筋肉の感触に、シャルは今更、男女の体格差を思い知る。
リアンはくすりと笑うと、シャルの両手首を片手でまとめて掴んだ。そして、もう片手は、シャルの着ているワンピースの胸元にかかる。
ビスチェタイプの胸元をリアンが少し力を込めて引っ張れば、白い胸がふるりとこぼれ出た。
「いやっ……!」
柔らかな胸の感触を確かめるように触られて、シャルは首を振る。リアンはシャルの手を拘束したまま、空いた手でゆっくりと胸を鷲掴みにする。痛くはないけれど、やわやわと揉まれて思わず背筋がぞくりとした。
赤く色づいた頂をかり、と引っかかれて、シャルの口からはついに、小さな悲鳴がこぼれた。
「リアン、やめて……」
首を振りながら涙を流すシャルを見て、リアンがゆっくりと抑えていた手を解放した。
「シャル、好きなんだ。お願い、僕を受け入れて」
苦しそうな表情でそう言われて、シャルは思わず抵抗をやめる。こんなことをされているのに、シャルはリアンが苦しむ顔は見たくないと思ってしまう。
「だって私……」
「シャルは、僕が嫌い?」
その不安そうな表情は、出会ったばかりの頃を思い出させて、シャルは首を振った。
「そんなわけない……、けど、こんなこと」
ノルドと別れてから、そういうことをしたことはない。ノルドとの行為は痛いものでしかなかったし、きっと自分は不感症なのだとも思っていた。
なのに今、シャルの身体は酷く疼いている。外気に晒された肌は、ひんやりとした空気すら刺激に感じて、胸の先が触れて欲しいと、きゅっと固くなるのが分かる。
おかしい、シャルに媚薬は効かないはずなのに。
シャルは震えながら、乱されたワンピースの胸元を直す。
「だって私、違う……、こんなの、怖い」
熱く疼く身体も、リアンに本気で抵抗できない自分も、じっと見つめるリアンの瞳も。
このままでは、今までの関係が変わってしまう。
それは、シャルにとって恐怖だった。
かつて、身体を許した途端に豹変したノルドとのことは、シャルの心の奥に深い傷を残している。
リアンとは、そうなりたくない。
震えながら涙をこぼすシャルの頬に、リアンがゆっくりと触れた。
一瞬身体が震えるけれど、リアンの手は優しく、そっとシャルの涙を拭う。
「怖がらないで、シャル。僕は、ノルドとは違うよ」
心の中を言い当てられて、シャルは思わず顔を上げた。藍色の瞳が、優しくシャルを見つめている。
「僕は、変わらない。ずっとずっと、シャルのことが好きだよ」
「でも……っ」
言い募ろうとした言葉は、またリアンの唇に邪魔される。優しく下唇を甘噛みされて、シャルの身体から力が抜けていく。
「リアン、」
「シャルはこうするの、嫌?気持ち悪い?」
問われてシャルは緩く首を振った。
嫌でもなく、気持ち悪くもない。むしろもっと欲しくなる、それが怖くて。
リアンは、そっとシャルの頬に触れると、優しく笑った。
「ねぇ。全部、媚薬のせいにしてしまおうよ。今日だけでいいから、シャルを僕にちょうだい?」
「媚薬の、せい……」
シャルに媚薬は効かないのに。
この、熱く疼く身体は、媚薬のせいなんかじゃないのに。
あの媚薬は、リアンにも効かないことを知っているのに。
それでも、逃げ道を用意してくれるのは、きっとリアンの優しさ。
「だから、ね?」
甘い微笑みを浮かべて、リアンがシャルを抱き上げた。軽々と抱き上げる腕の強さに、思わず小さな吐息をこぼして、シャルは目を閉じてリアンの胸に頬を擦り寄せた。
◇◆◇
リアンはそっとシャルをベッドに降ろすと、上から手をついてシャルを囲う。そして、シーツの上に広がる黒髪を掬い上げると、口づけた。
「大好きだよ、シャル」
「リアン、私、」
「何も言わないで。お願い、今夜だけは拒絶しないで」
懇願するように言われて、シャルは首を振った。
「違うの、好きよ、リアン」
その言葉に、リアンの目が大きく見開かれる。シャルは、笑ってリアンの頬に手を伸ばした。
「いつから、とかは分からない。けど、本当よ。リアンが好き」
「それは……、子供とか、弟として、じゃなくて?」
確かめるような言葉に、シャルは笑って首を振った。
「子供や弟とは、こんなことしたいと思ったりしないわ」
その言葉に、リアンの表情が明るく輝く。
「シャル……!僕、頑張るね。僕にはシャルだけだから、シャルにも僕だけって思ってもらえるように、シャルが泣いちゃうくらい、気持ち良くさせるから」
「え、えぇ!?」
なんだか頑張る方向性を間違えているような気もするが、リアンは器用にシャルの服を脱がせていく。
「ちょっと、待っ……、リアン、手際良すぎっ」
服を脱がせる合間合間に落とされる口づけに応えているうちに、シャルはいつの間にか全裸だ。
思わずそう言うと、リアンはくすりと笑った。
「だって僕、手先が器用だもん。シャルも知ってるでしょ?」
◇◆◇
「や、リア、ン……、もうっ……」
指と舌で執拗に胸を責められて、シャルはぼうっとしてきた頭で懸命に首を振る。
甘噛みされたり、舌先で転がすようにされたり、指先や爪でいじられたり。
ノルドにはされたことのない甘い責めと、延々と与えられる快感に、シャルは戸惑いを隠せない。不感症だと思っていたのに、自分の身体が、自分で分からなくなりそうだ。
「シャル、綺麗だよ。すっごく可愛い。ねぇ、そろそろこっちもいい?」
リアンが満面の笑みでそう言って、シャルの脚を大きく広げる。
あぁ、そろそろ挿入されるのだな、とシャルは小さく息を吐いた。かつて苦痛しか感じなかったその行為は、今思い出しても少し身体がすくむ。だけど、目を閉じてじっと耐えていれば、恐らく数分で終わるはずだ。
できれば痛み止め入りの潤滑油を使ってもらえるとありがたいのだけど、生憎ここにはない。今から調合するのは、さすがにナシだろう。
「あぁ、シャル。すごい濡れてる。嬉しいな、気持ち良くなってもらえたのかな」
弾んだ声と共に、脚の付け根のその場所に触れられて、シャルの身体が跳ねた。静かな部屋に響いた濡れた音と、自分でも分かる濡れた感覚。
「や、何……?こんなの知らない……!」
初めての感覚に、シャルは動揺を隠せない。ノルドと身体を重ねた時は、こんなふうになったことはない。知識として、その場所が潤むことは知っていたけれど、シャルは不感症だから濡れないと思っていたのだ。
「わ、それって何だか、シャルの初めてをもらった気分」
戸惑うシャルとは対照的に、リアンは上機嫌だ。
「ちょ、待っ……、やぁっ、なんでそんなっ」
ぬるりとした感覚に思わず目をやると、リアンがシャルのその場所に口づけていた。なぞるような舌の動きに、背筋がぞくりとする。それは、嫌悪感ではなく、快感。
でも、自分でもろくに触れたことのない場所を舐められて、シャルは羞恥に首を振った。手でリアンの頭を押しやろうとするけれど、うまく力が入らない。柔らかな明るい茶色の髪に指を絡めるのが精一杯だ。それはリアンにとって抵抗ではなく、ただ頭を撫でられているも同然。
「ひゃうっ……!や、あん、そこだめっ、」
上の方のある一点を舐められると、思わず腰が跳ねた。頭が白くなるほどの快感に、シャルの灰青の瞳からは涙がこぼれ落ちる。
「あは、やっぱりここは気持ちいい?」
リアンは、シャルの反応に嬉しそうに笑うと、こんどは指先でさらにその場所を責めたてる。
かつて、ノルドにもその場所は触られたことがある。女はここが一番気持ちいいんだ、と言って指先で何度も擦られた。だけど、その時は痛みしかなくて、でもノルドを怒らせたくなくて、いつも痛みを堪えながら気持ちがいいと嘘をついていた。
なのに、今は頭がどうかなってしまいそうなくらいに気持ちがいい。
「可愛い、シャル。大好き。ほんと可愛い」
「あっ……やぁっ、んん、」
リアンは、可愛いと大好きを繰り返し、そのたびにいろんな場所に口づけながら、シャルに触れる。
大切にすると、好きなんだとシャルに伝えるように。
濡れるはずないと思っていたその場所は、リアンが指を動かすたびに恥ずかしくなるほど大きな水音をたてていて、シャルはどうすればいいか分からない。
かつては、痛み止め入りの潤滑油を使ってさえ、苦痛でしかなかったはずなのに、リアンに触れられると、なんだかむずむずするような感覚に襲われる。もっと欲しいと口走りそうになるのを、シャルは必死に堪えていた。
「ね、もうだめ、おかしく……なっちゃう、からっ」
リアンの指が触れた場所から、どんどんと快感が広がっていく。ぱんぱんに膨らんだ風船のように、これ以上の快感を与えられたら、爆発してしまいそうな気がする。
「大丈夫、おかしくなっていいよ。どんなシャルだって大好き。ねぇ、おかしくなって、僕のことしか考えられないようになってよ」
言葉は不穏なのに、リアンが触れる指先はとても優しい。だけど、シャルに快感を与えるのを、止めるつもりはないらしい。
「や、あ……、もう、だめ、」
どんどん追い詰められて、シャルに逃げ場はない。
与えられる甘い快楽に溺れて、シャルは高い声をあげて全身を震わせた。
一瞬、呼吸すら忘れるほどに頭が白くなったあと、シャルの身体はぐったりと力を失った。
凄まじい快楽の余韻に、まだ時折身体が震える。
「シャル、大丈夫?」
心配そうに顔をのぞきこまれて、シャルはゆっくりとうなずいた。
「大、丈夫」
「多分、今のがイくってことだよね。シャル、気持ち良かった?」
自ら快楽を認めるなんて恥ずかしくてできないと思うのに、リアンはきらきらとした瞳で、シャルの返事を待っている。
「……うん」
さすがに目を見ながらは無理なので、横を向きつつ答えると、リアンは嬉しそうに笑った。
「あぁもう、恥ずかしがるシャルも可愛い。ねぇ、今度こそ、シャルの全部をちょうだい?」
いつもより低い声で、耳元で囁かれて、シャルは小さく息をのんだ。
さっきからシャルの足に当たっているものの正体を、シャルは知っている。まだ服を着たままのリアンの、布越しでも感じる熱い昂り。
受け入れることの恐怖は、まだ少しある。シャルにとってその行為は、痛くて苦しくて、愛を交わすものだとは到底思えなかったから。
だけど、リアンなら大丈夫だと信じられる。彼はきっと、シャルに酷いことはしない。
「いいよ、リアン」
しっかりと目を見つめてそう言うと、リアンは一瞬驚いたように目を見開き、そして幸せそうに笑った。
「ありがとう、シャル。でも、途中で辛くなったら教えて」
「大丈夫。リアンなら、嫌なことも怖いこともしないって、信じてる」
「シャル、そんなこと言われたら僕、我慢できないんだけど」
困ったように笑いながら、リアンがゆっくりと服を脱いでいく。
しなやかな筋肉のついたその身体に、シャルは見惚れた。服を脱ぐ仕草があまりに妖艶で、あの小さかった子がいつの間にこんな色気の塊に……!?と思わず動揺してしまう。
「そんなに見つめないで。なんだか照れる」
くすくすと笑いながら、服を脱ぎ捨てたリアンは、シャルに覆い被さった。
脚の付け根に当たる硬く熱いものの感覚に思わず目をやって、シャルは息をのんだ。
記憶の中に微かにある、ノルドのものより随分大きい気がする。初めてではないけれど、かなり久しぶりなシャルに、受け入れることができるだろうか。
「……あ、」
ゆっくりと、リアンのものが入ってきて、シャルは一瞬身体を強張らせたが、痛みは全く感じない。むしろ、満たされるような満足感と、背筋がぞくりとするほどの快感に、シャルは甘く長い吐息を漏らした。
「あぁ……、最高。やっと、シャルとひとつになれた」
ゆっくりと腰を進めながら、リアンが笑う。最奥までリアンのもので満たされて、シャルはリアンの背に手を回した。
「リアン、好きよ」
シャルの言葉に、リアンは顔を赤くして困ったように笑った。
「嬉しい、けど、今はヤバいって。僕、初めてなんだから、我慢できなくなっちゃう」
そう言いながらも、リアンの手つきは初めてとは思えないほど手慣れている。今も、ゆっくりと腰を動かしながら、シャルの胸を優しくいじっている。同時に色々な場所に与えられる快楽に、シャルは首を振った。
「ね、リアン、もう……だめ」
「シャル、またイっちゃう?すごい締めつけられて、僕もヤバいかも。でも、シャルが先にイくまで頑張るからね」
「え?ちょ、やぁっ……!だめって、あぁんっ」
リアンの腰の動きが激しくなり、シャルはなす術もなく、与えられる快楽に溺れた。最奥を突かれるたびに、堪えようと思っても悲鳴のような声をあげてしまう。
「や、もう……、だめ……っ!あぁっ」
「シャル……!」
頭の中が白くなるほどの快楽の渦に飲み込まれて、シャルは全身を震わせる。どこか遠くで、リアンが名前を呼びながら小さくうめいたのを聞いた。
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