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奪われた唇

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「ほら、ブランシュ。こっちを向いて」
 頬にあたたかな手が触れ、上を向くようにと促される。
 うつむいていた顔を上げれば、ジスランがにっこりと笑った。
 その美しい赤に見惚れていると、唇に何か柔らかなものが触れた。それがジスランの唇であることに気づいた瞬間、全身が燃えるように熱くなった。
 これから男女の交わりをすることは理解しているけれど、ブランシュには男性経験がない。アルマンは結婚するまでは大事にしたいからと、軽く抱き寄せることと頬や額に口づけ以上のことをしなかったから。
 純潔を重んじるこの国では、それは当然のことだ。それでもブランシュは、アルマンに大切にされていることが嬉しかったし、結婚をして彼に純潔を捧げる日を夢見ていた。
 まさか、アルマンの前で他の男との口づけや交わりをすることになるなんて、思いもしなかった。
 初めての口づけに戸惑う気持ちと、アルマンへの罪悪感で、ブランシュはどんな顔をすればいいのか分からない。
「……っ」
「あれ、初々しい反応。もしかして、キスもはじめて?」
 ブランシュの顔をのぞき込んで、ジスランは楽しそうに笑う。真っ赤になっているであろう頬を押さえつつうなずくと、彼は声をあげて笑った。
「あははっ、さすが兄さん。本当に一切手を出してなかったんだ。分かるよ、結婚するまでは大事にしたかったんだよね。ブランシュは、大切なお姫様だもの」
 ジスランの言葉にも、アルマンはぴくりとも表情を動かさない。
 まだ楽しそうに肩を震わせて笑いながら、ジスランは寝台の枕元にある小さな引き出しに手を伸ばした。そして中から何かを取り出すと、ぽいと自らの口に放り込んだ。
 何をしているのだろうと眉を顰めたブランシュに、ジスランが再び唇を重ねてくる。今度はただ触れ合うだけではなく、唇の間を割ってぬるりと舌が滑り込んできた。
 
「……ぅ、んっ」
 口内を蠢く自分以外の舌に驚いて身体をよじって逃げようとするものの、しっかりと抱きしめられていて動けない。後頭部を押さえつけるように固定されて、ブランシュはただひたすらジスランの舌が我が物顔で動き回るのを受け入れるしかなかった。
 やがて、舌に何か小さな飴のようなものが押しつけられた。
 お互いの体温で溶けたそれは、中からとろりとした甘い液体をこぼして口の中に広がっていく。
「っ、……ぁ」
「ブランシュ、それを全部ちゃんと飲み込んで」
 ほとんど唇を離さない状態で、ジスランが囁くように命じる。舌の上に広がる甘い味は、不味くはないものの強い酒のように熱い。
 こくん、と小さく音を鳴らして唾液ごとその甘さを飲み込んだブランシュを見て、ジスランはにっこりと笑って頭を撫でてくれた。
「いい子だね、ブランシュ。すぐに効果が出てくるはずだから、きっときみも気持ち良くなれると思うよ」
「効果……?」
 眉を顰めたブランシュの頬に触れて、ジスランは笑顔でうなずく。
「だってきみは初めてだからね。痛い思いはさせたくないから、媚薬を使うことにしたんだ」
「びや、く……っ」
 初心なブランシュでも、その薬がどういった用途のものかくらいは知っている。
 慌てて口元を押さえるものの、すでに飲み込んでしまったあと。
「怖がらないで、悪いものではない。依存性もないし、安全な薬だよ」
「でも、そんな、媚薬だなんて……っん、」 
 喋っている最中に不自然なほどに身体が熱くなって、ブランシュは思わず小さく呻いた。それを見て、ジスランは目を細めて笑う。
「もう効いてきた? さすがだね、即効性のものを取り寄せた甲斐があったよ」
「待ってくださ……ジスラン、さま……っあぁ」
「大丈夫、怖いことなんて何もない。その可愛い声をもっとたくさん聞かせて、ブランシュ」
 くすくすと笑いながら、ジスランはブランシュの身体を寝台の上に横たえた。彼に触れられた場所が熱くて、どうしようもないほどに身体が疼く。
 羽織っていたガウンを剥ぎ取られ、身につけていた下着すらあっという間に脱がされて寝台の下に落ちる。
 一糸纏わぬブランシュの身体を見下ろして、ジスランは蕩けるような笑みを浮かべた。
「あぁ、想像していた以上に綺麗だよ、ブランシュ。服を着ていた時は、こんなにも胸が大きいなんて知らなかったな」
「や……っ、見ない、で……」
「今からそんなに恥ずかしがっていて、どうするの。きみの身体のことは、これから隅々まで見せてもらうのに」
 羞恥に身体をよじろうとするブランシュを押さえ込んで、ジスランは楽しそうにそんな宣言をする。
 逃げられるはずもないのに、抵抗をやめられないブランシュを見て、ジスランは少し考えるように首をかしげた。
「……うーん、やっぱり少し緊張をほぐしてあげないといけないみたいだね。無理強いはしたくないし」
 顔を上げたジスランは、寝台の足元を振り返った。そしてそこに佇むアルマンに、にこりと笑いかける。
「兄さん、こっちに来て。ブランシュを気持ち良くさせてあげてよ」
「……っジスランさま、それは……」
 思わず息をのんだブランシュの頭を、ジスランは慈しむように撫でる。
「きみも、気心の知れた兄さんに触れてもらった方がいいと思うんだ。兄さんだって、ブランシュに触れたいはずだよ。今だってもう、きみの裸を目にして……ほら」
 くすくすと笑うジスランの言葉の意味はブランシュには分からなかったものの、それまで無表情だったアルマンは、微かに眉を顰めた。
「ほら、早く。僕がブランシュの手を握っていてあげるから、兄さんはブランシュの身体をほぐしてあげて。指なら挿れていいよ」
 ジスランの言葉に一度唇を噛みしめたアルマンは、何かを吹っ切るように首を振ると寝台に上がってきた。
 そして覆い被さるようにしてブランシュを見下ろすと、両脚を大きく割り開いた。
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