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14 大事な人 挿絵あり
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「わぁ!見て、ノアール!クリスマスツリーよ!」
雪のように真っ白なケープを羽織ったセチアが、駅の中央に飾られた大きなクリスマスツリーを指差して華やいだ声をあげる。
見上げるほどの大きなツリーにはたくさんのカラフルなオーナメントが飾られていて、散りばめられた星の欠片がちかちかとほのかに瞬いている。
もうすぐ点灯式だということで、ツリーのまわりには続々と人が集まってきた。
「セチア、ちゃんと前を見て歩かないと」
ツリーに気を取られて段差に気づかず、よろめいたところをノアールの腕に抱きとめられて、セチアは赤くなった頬を隠すようにうつむいた。
「ご、ごめんなさい。ありがとう」
「危ないから手を繋いでおこう。人も多いし」
「……え、」
さっと手を取られ、更に指まで絡められて、セチアは驚きに目を見開く。
「ん?どうした、セチア」
「な……っ、何でもない!もっと近くまで見に行きましょ」
ノアールの表情は普段と変わらなくて、動揺しているのは自分だけなのだろうかと思いつつ、セチアは慌てて笑顔を浮かべる。
薄くなった傷跡のせいか、以前よりも柔らかな笑顔を浮かべることの増えた彼の横顔を見上げながら、セチアは繋がれた手のぬくもりからできるだけ意識を逸らそうと小さく息を吐いた。
ツリーの下にはすでにたくさんの人が集まっていて、小柄なセチアは人混みに埋もれてしまう。
「見え、ない……」
一生懸命に背伸びをしてもほとんどツリーが見えなくて、唇を尖らせたセチアにノアールが笑う。
「少し離れたところから見よう」
手を引いて連れて行かれたのは時計の下。ツリーから少し距離はあるけれど、その分全体を見ることができる。
そわそわとツリーの方を気にしながらも、セチアは繋がれたままの手と、ノアールの薄くなった傷跡を確認するように見た。
「呪いが解けて、本当に良かった。でも……これからも一緒、だよね?」
小さくつぶやいた言葉に気づいたのか、ノアールが首をかしげる仕草をしたので、セチアは何でもないと笑って首を振った。
「魔女さんの作ったナイフ、見つかるかなぁ」
話題を変えるようにそう言うと、ノアールは小さくうなずいた。
「俺たちなら、きっと」
ぎゅっと握った手に力を込められて、セチアも笑ってうなずく。
蠍火の魔女に呪いを解いてもらい、セチアの癒しの力も無くしてもらったあと、魔女からあらためて呪いのナイフを探して欲しいと依頼を受けた。
ノアールの左目に薄らと残った傷跡は、きっとナイフの居場所を教えてくれるだろうし、セチアの瞳は呪いを見ることができる。そして何より、聖獣であるキラが乗り気だったこともあって、二人は魔女の依頼を受けることにしたのだ。
呪いに苦しむのは自分で終わりにしたいというノアールの意向もあったし、過去の過ちに囚われる魔女を何とかしてやりたいという気持ちもあったから。
ナイフを見つけ出し、キラの力で浄化することができたなら、魔女からはたっぷりと謝礼をすると言われたので、二人にとっても悪い話ではないだろう。
新しい家を用意しておく、と言っていた魔女の言葉の意味は、セチアにはよく分からないけれど。
「ナイフの居場所はきっと、この傷が教えてくれる」
左目をそっと押さえたノアールの表情が、まるで魔女を想うかのように見えて、セチアは少しだけ唇を尖らせた。彼女に恩義は感じているけれど、ノアールには自分だけを見て欲しいのに。
「そんなに、魔女さんを助けたい?」
口にしてから、可愛くないことを言ってしまったと後悔するけれど、時すでに遅し。ごまかそうとしてセチアは慌てて言葉を重ねる。
「ほらあの、魔女さん綺麗な人だったもんね。すっごいスタイル良かったし。ノアールもやっぱりああいう人がいいのかなって」
一瞬ぽかんとした表情を浮かべたノアールは、小さく笑うとセチアの頭を撫でた。同時に繋いだ手を引き寄せられて、彼の腕の中にほとんど飛び込むような形になってしまう。
わぁ、という色気のない声をあげたセチアの耳元に、ノアールが唇を寄せた。
「確かに綺麗な人ではあったけど。……俺が好きなのは、さらさらの金の髪に好奇心旺盛なピンクの瞳をした、クリスマス生まれの可愛い子だ」
「……っ」
一気に熱をもった頬と速くなった鼓動に動揺しつつ見上げると、愛おしげにこちらを見つめるノアールと目が合った。
「ノアール……」
喉がからからになって、言葉が出てこない。辛うじて名前を呼ぶと、左右で色の違う瞳が優しく細められた。
「ずっとセチアを守ると言っていたのに、結局俺がセチアに救われた。優しくて、勇敢で……、俺にとってセチアは、誰よりも何よりも大事な人だ」
「わ、私だってノアールが一番大事よ」
少し震える声で、それでもまっすぐに見上げてそう言うと、ノアールが嬉しそうに笑った。そして、優しくまた髪を撫でた手が頬を滑り、そっと上を向かされる。
その時、ツリーがぱぁっと華やかに点灯した。
わっと声をあげたまわりの人々の視線はそちらに向かい、時計の下でひっそりと唇を重ねる二人には誰も気づかない。
二人の頭上に飾られたヤドリギだけが、そっと祝福するように見つめていた。
雪のように真っ白なケープを羽織ったセチアが、駅の中央に飾られた大きなクリスマスツリーを指差して華やいだ声をあげる。
見上げるほどの大きなツリーにはたくさんのカラフルなオーナメントが飾られていて、散りばめられた星の欠片がちかちかとほのかに瞬いている。
もうすぐ点灯式だということで、ツリーのまわりには続々と人が集まってきた。
「セチア、ちゃんと前を見て歩かないと」
ツリーに気を取られて段差に気づかず、よろめいたところをノアールの腕に抱きとめられて、セチアは赤くなった頬を隠すようにうつむいた。
「ご、ごめんなさい。ありがとう」
「危ないから手を繋いでおこう。人も多いし」
「……え、」
さっと手を取られ、更に指まで絡められて、セチアは驚きに目を見開く。
「ん?どうした、セチア」
「な……っ、何でもない!もっと近くまで見に行きましょ」
ノアールの表情は普段と変わらなくて、動揺しているのは自分だけなのだろうかと思いつつ、セチアは慌てて笑顔を浮かべる。
薄くなった傷跡のせいか、以前よりも柔らかな笑顔を浮かべることの増えた彼の横顔を見上げながら、セチアは繋がれた手のぬくもりからできるだけ意識を逸らそうと小さく息を吐いた。
ツリーの下にはすでにたくさんの人が集まっていて、小柄なセチアは人混みに埋もれてしまう。
「見え、ない……」
一生懸命に背伸びをしてもほとんどツリーが見えなくて、唇を尖らせたセチアにノアールが笑う。
「少し離れたところから見よう」
手を引いて連れて行かれたのは時計の下。ツリーから少し距離はあるけれど、その分全体を見ることができる。
そわそわとツリーの方を気にしながらも、セチアは繋がれたままの手と、ノアールの薄くなった傷跡を確認するように見た。
「呪いが解けて、本当に良かった。でも……これからも一緒、だよね?」
小さくつぶやいた言葉に気づいたのか、ノアールが首をかしげる仕草をしたので、セチアは何でもないと笑って首を振った。
「魔女さんの作ったナイフ、見つかるかなぁ」
話題を変えるようにそう言うと、ノアールは小さくうなずいた。
「俺たちなら、きっと」
ぎゅっと握った手に力を込められて、セチアも笑ってうなずく。
蠍火の魔女に呪いを解いてもらい、セチアの癒しの力も無くしてもらったあと、魔女からあらためて呪いのナイフを探して欲しいと依頼を受けた。
ノアールの左目に薄らと残った傷跡は、きっとナイフの居場所を教えてくれるだろうし、セチアの瞳は呪いを見ることができる。そして何より、聖獣であるキラが乗り気だったこともあって、二人は魔女の依頼を受けることにしたのだ。
呪いに苦しむのは自分で終わりにしたいというノアールの意向もあったし、過去の過ちに囚われる魔女を何とかしてやりたいという気持ちもあったから。
ナイフを見つけ出し、キラの力で浄化することができたなら、魔女からはたっぷりと謝礼をすると言われたので、二人にとっても悪い話ではないだろう。
新しい家を用意しておく、と言っていた魔女の言葉の意味は、セチアにはよく分からないけれど。
「ナイフの居場所はきっと、この傷が教えてくれる」
左目をそっと押さえたノアールの表情が、まるで魔女を想うかのように見えて、セチアは少しだけ唇を尖らせた。彼女に恩義は感じているけれど、ノアールには自分だけを見て欲しいのに。
「そんなに、魔女さんを助けたい?」
口にしてから、可愛くないことを言ってしまったと後悔するけれど、時すでに遅し。ごまかそうとしてセチアは慌てて言葉を重ねる。
「ほらあの、魔女さん綺麗な人だったもんね。すっごいスタイル良かったし。ノアールもやっぱりああいう人がいいのかなって」
一瞬ぽかんとした表情を浮かべたノアールは、小さく笑うとセチアの頭を撫でた。同時に繋いだ手を引き寄せられて、彼の腕の中にほとんど飛び込むような形になってしまう。
わぁ、という色気のない声をあげたセチアの耳元に、ノアールが唇を寄せた。
「確かに綺麗な人ではあったけど。……俺が好きなのは、さらさらの金の髪に好奇心旺盛なピンクの瞳をした、クリスマス生まれの可愛い子だ」
「……っ」
一気に熱をもった頬と速くなった鼓動に動揺しつつ見上げると、愛おしげにこちらを見つめるノアールと目が合った。
「ノアール……」
喉がからからになって、言葉が出てこない。辛うじて名前を呼ぶと、左右で色の違う瞳が優しく細められた。
「ずっとセチアを守ると言っていたのに、結局俺がセチアに救われた。優しくて、勇敢で……、俺にとってセチアは、誰よりも何よりも大事な人だ」
「わ、私だってノアールが一番大事よ」
少し震える声で、それでもまっすぐに見上げてそう言うと、ノアールが嬉しそうに笑った。そして、優しくまた髪を撫でた手が頬を滑り、そっと上を向かされる。
その時、ツリーがぱぁっと華やかに点灯した。
わっと声をあげたまわりの人々の視線はそちらに向かい、時計の下でひっそりと唇を重ねる二人には誰も気づかない。
二人の頭上に飾られたヤドリギだけが、そっと祝福するように見つめていた。
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