星空列車で行こう 〜訳アリな彼の呪いを解くために、白いモフモフな聖獣と旅をしています!〜

夕月

文字の大きさ
上 下
10 / 15

10 対価

しおりを挟む
 まっすぐに指さされて、セチアは目を見開いて硬直することしかできない。そんなセチアを庇うように、ノアールがさっと前に出た。
「俺の呪いに彼女は関係ない」
「あら、決めるのはあたしよ。あなたたち、あたしの姉に会ったでしょう?」
「姉?」
 訝しげに眉を顰めるノアールを見て蠍火の魔女はくすくすと笑い、くるりと回りながら腰かけていた星からふわりと降りてくる。するとその姿は以前に駅のホームで出会った老婆に変わった。
 息をのむ2人の前でもう一度くるりと回ると、その姿はまた妖艶な美女へと戻る。
「双子の姉と違って、あたしがこの若さを保てている理由を知ってる?」
 ゆっくりと降りてきた魔女は、瞬きする間にセチアのすぐ目の前にいた。血のように赤い爪をした指先が、つうっとセチアの頬を撫でる。
「そう、あなたみたいに若くて可愛い子の生き血を、……ってやぁね、冗談だってば」
 ノアールに腕を掴まれて、蠍火の魔女が顔をしかめる。彼の腕はぶるぶると震えるほどに力が入っているのに、魔女はそれをあっさりと振り払った。はずみでノアールが少しよろめいて、信じられないといった表情を浮かべる。

「セチアに手を出すなら、呪いは解いてもらう必要はない」
 それでもすぐに体勢を立て直したノアールは、セチアを守るように背に庇うと蠍火の魔女をにらみつけた。それを見て、彼女は楽しそうに笑い出す。
「あらぁ、素敵。愛ね。でも、呪いを解かなければもうすぐあなたは死ぬわよ。お嬢ちゃんを泣かせることになるわ」
「セチアを差し出してまで、生きたいとは思わない。……行こう、セチア」
 拒絶するように魔女に背を向けて立ち去ろうとしたノアールの腕に、セチアは思わず縋りついた。
「待ってノアール。呪いを解いてもらって。今この機会を逃したら、きっともう蠍火の魔女には二度と会えないわ。今までノアールにはたくさん守ってもらったから、今度は私がノアールを助ける番よ」
「セチア」
 止めようとするノアールの手を振り切って、セチアは蠍火の魔女の方に向き直った。魔女は面白がるような表情でこちらを見つめている。

「私は何を差し出せばいいの?この命?それとも血?」
 微かに震えながらもまっすぐに魔女を見つめるセチアの肩に、まるで慰めるようにキラが止まった。そして、今にも飛びかかりそうなノアールを牽制するように鋭く鳴く。
 まだ幼獣とはいえ聖獣であるキラの気配に圧倒されて、ノアールは凍りついたように足を止める。
 
「そうね、何をいただこうかしら。その綺麗な長い髪も素敵だし、可愛いピンク色の瞳もいいわね」
 魔女の手がセチアの髪を撫で、頬を滑る。小さく震えながら、それでも動こうとしないのを見て蠍火の魔女はくすりと笑い、そっとセチアの額に触れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済】姿を偽った黒髪令嬢は、女嫌いな公爵様のお世話係をしているうちに溺愛されていたみたいです

鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
王国の片田舎にある小さな町から、八歳の時に母方の縁戚であるエヴェリー伯爵家に引き取られたミシェル。彼女は伯爵一家に疎まれ、美しい髪を黒く染めて使用人として生活するよう強いられた。以来エヴェリー一家に虐げられて育つ。 十年後。ミシェルは同い年でエヴェリー伯爵家の一人娘であるパドマの婚約者に嵌められ、伯爵家を身一つで追い出されることに。ボロボロの格好で人気のない場所を彷徨っていたミシェルは、空腹のあまりふらつき倒れそうになる。 そこへ馬で通りがかった男性と、危うくぶつかりそうになり────── ※いつもの独自の世界のゆる設定なお話です。何もかもファンタジーです。よろしくお願いします。 ※この作品はカクヨム、小説家になろう、ベリーズカフェにも投稿しています。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

【完結】伯爵の愛は狂い咲く

白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。 実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。 だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。 仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ! そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。 両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。 「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、 その渦に巻き込んでいくのだった… アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。 異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点) 《完結しました》

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました

鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。 素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。 とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。 「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

頑張って番を見つけるから友達でいさせてね

貴志葵
BL
大学生の優斗は二十歳を迎えてもまだαでもβでもΩでもない「未分化」のままだった。 しかし、ある日突然Ωと診断されてしまう。 ショックを受けつつも、Ωが平穏な生活を送るにはαと番うのが良いという情報を頼りに、優斗は番を探すことにする。 ──番、と聞いて真っ先に思い浮かんだのは親友でαの霧矢だが、彼はΩが苦手で、好みのタイプは美人な女性α。うん、俺と真逆のタイプですね。 合コンや街コンなど色々試してみるが、男のΩには悲しいくらいに需要が無かった。しかも、長い間未分化だった優斗はΩ特有の儚げな可憐さもない……。 Ωになってしまった優斗を何かと気にかけてくれる霧矢と今まで通り『普通の友達』で居る為にも「早くαを探さなきゃ」と優斗は焦っていた。 【塩対応だけど受にはお砂糖多めのイケメンα大学生×ロマンチストで純情なそこそこ顔のΩ大学生】 ※攻は過去に複数の女性と関係を持っています ※受が攻以外の男性と軽い性的接触をするシーンがあります(本番無し・合意)

処理中です...