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10 対価
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まっすぐに指さされて、セチアは目を見開いて硬直することしかできない。そんなセチアを庇うように、ノアールがさっと前に出た。
「俺の呪いに彼女は関係ない」
「あら、決めるのはあたしよ。あなたたち、あたしの姉に会ったでしょう?」
「姉?」
訝しげに眉を顰めるノアールを見て蠍火の魔女はくすくすと笑い、くるりと回りながら腰かけていた星からふわりと降りてくる。するとその姿は以前に駅のホームで出会った老婆に変わった。
息をのむ2人の前でもう一度くるりと回ると、その姿はまた妖艶な美女へと戻る。
「双子の姉と違って、あたしがこの若さを保てている理由を知ってる?」
ゆっくりと降りてきた魔女は、瞬きする間にセチアのすぐ目の前にいた。血のように赤い爪をした指先が、つうっとセチアの頬を撫でる。
「そう、あなたみたいに若くて可愛い子の生き血を、……ってやぁね、冗談だってば」
ノアールに腕を掴まれて、蠍火の魔女が顔をしかめる。彼の腕はぶるぶると震えるほどに力が入っているのに、魔女はそれをあっさりと振り払った。はずみでノアールが少しよろめいて、信じられないといった表情を浮かべる。
「セチアに手を出すなら、呪いは解いてもらう必要はない」
それでもすぐに体勢を立て直したノアールは、セチアを守るように背に庇うと蠍火の魔女をにらみつけた。それを見て、彼女は楽しそうに笑い出す。
「あらぁ、素敵。愛ね。でも、呪いを解かなければもうすぐあなたは死ぬわよ。お嬢ちゃんを泣かせることになるわ」
「セチアを差し出してまで、生きたいとは思わない。……行こう、セチア」
拒絶するように魔女に背を向けて立ち去ろうとしたノアールの腕に、セチアは思わず縋りついた。
「待ってノアール。呪いを解いてもらって。今この機会を逃したら、きっともう蠍火の魔女には二度と会えないわ。今までノアールにはたくさん守ってもらったから、今度は私がノアールを助ける番よ」
「セチア」
止めようとするノアールの手を振り切って、セチアは蠍火の魔女の方に向き直った。魔女は面白がるような表情でこちらを見つめている。
「私は何を差し出せばいいの?この命?それとも血?」
微かに震えながらもまっすぐに魔女を見つめるセチアの肩に、まるで慰めるようにキラが止まった。そして、今にも飛びかかりそうなノアールを牽制するように鋭く鳴く。
まだ幼獣とはいえ聖獣であるキラの気配に圧倒されて、ノアールは凍りついたように足を止める。
「そうね、何をいただこうかしら。その綺麗な長い髪も素敵だし、可愛いピンク色の瞳もいいわね」
魔女の手がセチアの髪を撫で、頬を滑る。小さく震えながら、それでも動こうとしないのを見て蠍火の魔女はくすりと笑い、そっとセチアの額に触れた。
「俺の呪いに彼女は関係ない」
「あら、決めるのはあたしよ。あなたたち、あたしの姉に会ったでしょう?」
「姉?」
訝しげに眉を顰めるノアールを見て蠍火の魔女はくすくすと笑い、くるりと回りながら腰かけていた星からふわりと降りてくる。するとその姿は以前に駅のホームで出会った老婆に変わった。
息をのむ2人の前でもう一度くるりと回ると、その姿はまた妖艶な美女へと戻る。
「双子の姉と違って、あたしがこの若さを保てている理由を知ってる?」
ゆっくりと降りてきた魔女は、瞬きする間にセチアのすぐ目の前にいた。血のように赤い爪をした指先が、つうっとセチアの頬を撫でる。
「そう、あなたみたいに若くて可愛い子の生き血を、……ってやぁね、冗談だってば」
ノアールに腕を掴まれて、蠍火の魔女が顔をしかめる。彼の腕はぶるぶると震えるほどに力が入っているのに、魔女はそれをあっさりと振り払った。はずみでノアールが少しよろめいて、信じられないといった表情を浮かべる。
「セチアに手を出すなら、呪いは解いてもらう必要はない」
それでもすぐに体勢を立て直したノアールは、セチアを守るように背に庇うと蠍火の魔女をにらみつけた。それを見て、彼女は楽しそうに笑い出す。
「あらぁ、素敵。愛ね。でも、呪いを解かなければもうすぐあなたは死ぬわよ。お嬢ちゃんを泣かせることになるわ」
「セチアを差し出してまで、生きたいとは思わない。……行こう、セチア」
拒絶するように魔女に背を向けて立ち去ろうとしたノアールの腕に、セチアは思わず縋りついた。
「待ってノアール。呪いを解いてもらって。今この機会を逃したら、きっともう蠍火の魔女には二度と会えないわ。今までノアールにはたくさん守ってもらったから、今度は私がノアールを助ける番よ」
「セチア」
止めようとするノアールの手を振り切って、セチアは蠍火の魔女の方に向き直った。魔女は面白がるような表情でこちらを見つめている。
「私は何を差し出せばいいの?この命?それとも血?」
微かに震えながらもまっすぐに魔女を見つめるセチアの肩に、まるで慰めるようにキラが止まった。そして、今にも飛びかかりそうなノアールを牽制するように鋭く鳴く。
まだ幼獣とはいえ聖獣であるキラの気配に圧倒されて、ノアールは凍りついたように足を止める。
「そうね、何をいただこうかしら。その綺麗な長い髪も素敵だし、可愛いピンク色の瞳もいいわね」
魔女の手がセチアの髪を撫で、頬を滑る。小さく震えながら、それでも動こうとしないのを見て蠍火の魔女はくすりと笑い、そっとセチアの額に触れた。
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