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51 信じてくれる人

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 ルフィナの尋問は、昼夜を問わず行われた。入れ代わり立ち代わり男がやってきては、ルフィナに自白させようと様々な言葉で尋ねてくる。直接的な暴力は振るわれないものの、荒々しい声で問い詰められ、脅すように机を叩かれる。
 何を聞かれても、自分も侍女も無実である、心当たりなどないことを呪文のようにつぶやき続けた。
 時々水だけは与えられるものの、食事は固いパンがひとつだけ。尋問は夜遅くまで行われることもあって、ルフィナは睡眠不足と空腹でぼんやりとする頭で何度も無実を訴える。
「――思った以上に口を割らないな。ホロウードでそういった訓練でも受けていたのか」
「ですから、私も侍女も何も……知りません」
 ふらりと傾いだ身体を必死にまっすぐに保ちながら、ルフィナは何度目かも分からない言葉を口にする。昼も夜も続けられる尋問のせいで、今がいつなのか、どれくらいの時間が経ったのかも分からない。
 一瞬意識を飛ばしかけたルフィナは、机を乱暴に叩く音でハッとして目を開けた。
 目の前の男は、そんなルフィナを見て顔を歪めて笑う。
「あんたに拷問は無理だが、侍女の女にはそれが許される。あの女もなかなかの忠誠心のようで、一向に口を割らないからな。目の前であの女に拷問をしようか。そうすればあんただって、さすがに話す気になるんじゃないか?」
「やめ……やめて、何度も言っているでしょう。私もイライーダも何も知らない。何もしていない……!」
 男の恐ろしい発言に、ルフィナは思わず立ち上がって叫ぶ。うしろに立った見張りの男に押さえつけられながらも、ルフィナは必死に首を振った。
 ルフィナの表情が変わったことで、イライーダがルフィナの尋問に使えると判断したのだろう。男はここに彼女を連れてくるようにと命じる。拷問のための鞭を一緒に持ってくるようにという言葉に、ルフィナの身体は震えた。
 このままでは、潔白を証明するどころかイライーダが傷つけられてしまう。彼らは、自分たちの望む答えを引き出すまで彼女を痛めつけるに違いない。
 どうすればいいのだと、ぼんやりする頭を必死に働かせていると、牢の外が急に騒がしくなった。何か叫ぶような声も聞こえて、何事かと眉を顰めた時、牢にカミルが飛び込んできた。
「……ルフィナ!!」
「カミル、さま」
 強く抱きしめられて、ルフィナの身体から力が抜ける。彼のぬくもりに包まれて、自分がどれほど身体をこわばらせていたのかを自覚した。
「殿下、お待ちください。その者は我が国に反逆を企てた疑いが……」
「ルフィナがそんなことをするはずがない」
 はっきりと言い切って、カミルはそのままルフィナを抱き上げた。
「ですが……」
「俺の妻を疑うということは、俺のことも反逆者とみなしていると受け取るが」
 低い声で言ってにらみつけるカミルに、男たちは慌てたように首を振った。
「アイーシャがルフィナに会わせろと何度も訴えていたのに、おまえたちはそれを受け入れなかったな。王女の命令をきけないほどの事情があったとでも言う気か?」
「は、反逆の疑いのある者を、アイーシャ様と接触させるわけにはいかないと……。それに、証拠があります。ホロウードの王太子に向けた手紙を見つけたのです。近況報告と見せかけ、中に我が国の軍事情報を忍ばせて……」
 男の言葉に、カミルはハッと鼻で笑った。そして嘲るように男を見下ろす。
「そんなものを信じるとはな。ルフィナがあの王太子とどんな関係であったかも知らないくせに。近況報告をするような仲ではないことは、俺が一番よく知ってる。その手紙とやらは、ルフィナが無実である何よりの証拠だな」
「え……」
「とにかく、ルフィナは連れて行く。詳細は父上と共にあとで聞くから、今のうちに情報を整理しておけ」
 それだけ言い捨てると、カミルはルフィナを抱き上げたまま牢を出た。
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