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4 Hello sister !

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 気持ちが通じ合うと、途端にセドリックのお姉さんのこともそんなに気にならなくなってくるのだから、現金なものだ。
 少しまだ気恥ずかしいけれど、2人で手を繋いで買い物を再開する。せっかくだから、ご飯を食べて帰ろうということになったのだ。
 繋いだ手から感じるセドリックの温もりが、嬉しくて、くすぐったくて、目が合うだけでくすくすと笑い出してしまう。
 時折、確かめるかのように、ぎゅっと握りしめられる手が、嬉しくてたまらない。


◇◆◇


 買い物客の中に、見知った横顔を見つけて、リリアナは声をあげた。
「あれ?ルーナ?」
 リリアナの声に気づいたルーナがこちらを向き、笑顔を浮かべかけたその表情が、驚いたものになる。
 と同時に、隣でセドリックもつぶやいた。
「え、姉ちゃん?」
「えぇ、セドリック?リリアナ?」

 駆け寄ってきたルーナの反応や、セドリックの言葉に、リリアナも混乱しつつ2人の顔を交互に見る。
「え、ちょっと待って、ルーナがセドリックのお姉さん?」
 改めて聞くまでもなく、並んだルーナとセドリックは、血の繋がりを疑いようがないくらい似ている。今まで気がつかなかったことが不思議なくらいだ。

「そうだけど……。ってセドリック、この前言ってた子ってリリアナのことなの?」
「あーうん、そう。っていうか、リリアナ?って言うの?リリーじゃなくて?」
 意図的に隠していたわけだけど、こんな形でバレることになるとは思わなかった。リリアナは、ぺろりと舌を出して笑う。
「うん、本名はリリアナ。リリーって呼ぶ人もいるよ」
「そういえば、俺たちフルネーム知らなかったな、お互い」
「そだねぇ。んじゃ改めて。リリアナ・エドモントンです」
「セドリック・メリーウェルです。って、すげぇ今更だな」
「確かに」
 リリアナの本名を聞いても、セドリックの態度は変わらない。気づいていないだけかもしれないけれど、リリアナは少しだけホッとした。
 

「あれ、リリアナのそのピアス!」
 ルーナが、ずいっとリリアナの方に詰め寄ってくる。確か、ルーナの買い物に付き合ってあの店に行ったと言っていたから、きっとルーナもこのピアスを目にしていたのだろう。
 なんだか気恥ずかしくて、リリアナはルーナの視線から逃れるように身を引いた。
「あ、これは、セドリックが誕生日プレゼントにくれて……」
「ふーん、なるほどねぇ」
「え?」
 意味深な笑みを浮かべながら、納得したように何度もうなずくルーナに、リリアナは首をかしげた。

「わぁっ姉ちゃんっ」
 何かを察したセドリックが、慌てたようにルーナの口を塞ごうとするけれど、ルーナはそれをあっさりとかわす。
「最近セドリックが、めちゃくちゃバイト頑張ってるなぁって思ってたんだけど、リリアナにこのピアスをプレゼントするためだったのね。この前も、急に買い物についてきて欲しいって言われて、アクセサリーショップを連れ回されたんだけど、そうか、あれは下見だったかー」
「え、……そうなの?」
 リリアナの問いに、セドリックは照れたように視線をそらした。それはまさに無言の肯定で、リリアナは嬉しくなって思わず声をあげて笑ってしまった。



 立ち話も何だということで、3人は近くのカフェに入った。
 早速ケーキを頬張りながら、セドリックがリリアナとルーナを見る。

「そういえば、姉ちゃんとリリーって、なんで知り合いなの?」
「ん?魔導塔で一緒に働いてるからだけど」
「仲良しなんだよねー」
 2人は、ねー、と顔を見合わせて笑い合う。

「え、魔導塔って」
「あー、ごめんね、隠してた。あたし、魔導師なんだ」
 セドリックとルーナが姉弟だと判明した以上、隠しても無駄なので、リリアナはさらりと告げる。
 さすがにセドリックは、驚いたように目を見開いた。
「えぇ、マジで」
「知らなかったの?」
 ルーナはきょとんとしている。リリアナは笑って、魔導師は積極的に自らの素性を明かさないことを説明する。

「全然知らなかったし、普通にどこかの学生だと思ってた……。でも、なんか納得だわ。リリーのその大人びてる理由。もう立派に働いてたんだな。でも別に隠さなくても良かったのに」
「魔導師って一般的には謎の集団だからね。色々と偏見もあるし」
 魔力や魔法の存在は一般的だけど、魔導師は数が少ないせいか、何をしているか分からないと思う人は多い。それに、魔法で何でもできると勘違いされて、無理難題をふっかけられることも多いのだ。

「って言うか、ちょっと待って、エドモントンって、あの……宰相の?」
 セドリックは、ようやく気づいたようで、リリアナの方をうかがうように見る。リリアナは、苦笑しながらうなずいた。
「あー、うん。まぁさすがに分かるよね。うちの父だよ」
「マジか。リリー、すげぇお嬢様じゃん!」
 明るく笑うセドリックの表情には、純粋な驚きしか浮かんでいなくて、リリアナは少しだけ肩の力を抜いた。

「リリーって、すごい人だったんだな」
 感慨深い表情でうなずくセドリックに、ルーナも一緒にうなずく。
「うん。お仕事でもすっごいしっかりしてるんだよ。全然年下だなんて思えない」
「へぇー、すごいな」
 キラキラとした、純粋な尊敬の眼差しを向けられて、リリアナは照れくさいのを隠すように首を振った。
「セドリックだって、すごいじゃん。あの王立学園で、特待生なんでしょ」
 優秀な学生が集まるあの学園で、さらに優秀な一握りの人間だけが選ばれる特待生なのだから。
「まぁ、それはそうだけど」
 謙遜することなく、素直に称賛を受け止めて笑うセドリックの表情は明るく、そんなところも好きだなとリリアナは思う。


「なんか2人、すごい仲良しだね」
 紅茶を飲みながら、ルーナが嬉しそうに笑った。
 リリアナとセドリックは、顔を見合わせて照れくさそうに笑いあう。

「リリアナ、セドリックをよろしくね。勉強ばかりで、女の子の気持ちがあんまり分からないと思うけど、悪い子じゃないから」
 ルーナの言葉に、リリアナは笑ってうなずいた。
 そしてルーナは、今度はセドリックの方を向くと、びしりと指を突きつけた。
「セドリック、リリアナのこと大事にしてね。泣かせたりしたら、許さないから」
「えぇ、姉ちゃん、どっちの味方だよ」
 ルーナの言葉に、セドリックが大袈裟に身体をのけぞらせる。

「そりゃ、リリアナでしょー」
「わーん、ルーナ大好き!」
 当然といった様子で断言するルーナに、リリアナも笑顔で抱きついた。
「ちょ、リリー!」
 セドリックが焦ったような表情になるのがおかしくて、リリアナはくすくすと笑いながら、ルーナに抱きついた腕に力をこめた。
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