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救出
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「きゃあぁっ!?」
悲鳴を上げたベルナデットと共に、黒服の男が幾人か瓦礫となった壁と一緒に吹き飛ばされる。
一体何が起きたのかと目を見開くシェイラの前には、青い竜。それがイーヴだと気づいた瞬間、彼は人の姿となってシェイラのもとに駆け寄ってきた。強く抱きしめられて、そのぬくもりに涙がこぼれ落ちる。
「シェイラ!」
「イーヴ……っ」
「大丈夫か? 何をされた?」
「っあ、びや、く……飲まされ、……っ」
肌に感じるイーヴのぬくもりすら安心感よりも快楽を感じ取ってしまい、シェイラは小さく呻いた。手早く縄を解いてくれたイーヴは、シェイラの身体を着ていた上着で包み込むと、再び強く抱きしめた。
「もう大丈夫だから。すぐに帰ろう」
シェイラを抱き上げたイーヴは、背後にいた黒い竜を見上げた。
「ルベリア、あとは任せる」
「了解。シェイラ、ごめんね。無事でよかったわ。ここはあたしがきっちりと片をつけるから、心配しないで」
竜の姿をした彼女を見るのは初めてだけど、見つめる黒い瞳も声もルベリアのもので間違いない。逃げようともがくベルナデットを踏みつけながら、ルベリアは任せろというように片目をつぶった。
「ま、待ってイーヴ様っ! どうしてそんな人間を……っ」
「この期に及んでよく喋るわねぇ」
「わたくしの方が、あなたの花嫁に相応しいのにっ!」
必死の形相で叫ぶベルナデットを見て、イーヴは冷たい一瞥をくれた。
「俺の花嫁は、俺が決める。相応しいかどうかなんて、他人のおまえが決めつけるな」
「……っでも、番いの証を刻んでいないということは、所詮それの寿命が尽きるまでの話なのでしょう。わたくし、あと数十年くらい待てますわ。ですから」
「残念ながら、あなたは黒竜一族から追放よ。違法な淫紋札の出どころが、まさかあなただったなんてね。ラグノリアの花嫁を娼館に売り飛ばそうとしたことも加えて長の怒りは凄まじいから、数百年は幽閉の身になることを覚悟しておくのね」
呆れたような声で、ルベリアが踏みつける足に力を込める。信じられない、自分は悪くないと泣き叫ぶベルナデットはじたばたと暴れているものの、逃げ出すことはできないようだ。
「イーヴ、早く行って。シェイラをよろしくね」
「分かってる」
まだ必死にイーヴの名前を呼び続けるベルナデットを無視して、彼はシェイラを抱いたまま外に出た。
庭らしき広い場所で竜に姿を変えたイーヴは、シェイラを背に乗せた。
「早く帰ろう。戻れば、レジスが解毒剤を処方してくれるはずだ」
「ん……」
イーヴのたてがみに頬を寄せて、シェイラはうなずく。身体の疼きは辛いけれど、イーヴのぬくもりに触れていたら、少しだけ落ち着けるような気がする。だけど、ベルナデットの言っていた番いの証のことがシェイラの心の中に暗い影を落としていた。
恐らくは竜族にとって特別な意味を持つそのしるしを、シェイラはもらっていない。イーヴが頑なに一線を越えようとしないことも、シェイラが彼の唯一でないことを示しているような気がして苦しい。
囚われている間にとっぷりと日は暮れていて、星の瞬く中をイーヴは滑るように飛んでいく。以前に、湖面に星が映るのを見に行こうと約束したことを思い出して、シェイラは小さくため息をついた。こんな形で再び空を飛ぶことになるとは思わなかった。
「今度は、星を見に行こう。前に約束しただろう」
同じことを考えていたのか、イーヴがちらりと眼だけでシェイラを振り返った。
「こんな形で俺と空を飛んだことを、覚えていてほしくない。幸せな思い出で上書きしよう」
「うん、ありがとう」
思わず滲んだ涙を隠すように、シェイラはイーヴのたてがみに顔を埋めた。こんなにもイーヴは優しくしてくれるのに、それだけでは足りないと思う自分が、酷く浅ましいものに思える。
媚薬のせいで疼いたこの身体をイーヴに慰めてほしいのだと願ったら、優しい彼は受け入れてくれるだろうか。
熱に浮かされた頭で、シェイラはぼんやりとそんなことを考えていた。
悲鳴を上げたベルナデットと共に、黒服の男が幾人か瓦礫となった壁と一緒に吹き飛ばされる。
一体何が起きたのかと目を見開くシェイラの前には、青い竜。それがイーヴだと気づいた瞬間、彼は人の姿となってシェイラのもとに駆け寄ってきた。強く抱きしめられて、そのぬくもりに涙がこぼれ落ちる。
「シェイラ!」
「イーヴ……っ」
「大丈夫か? 何をされた?」
「っあ、びや、く……飲まされ、……っ」
肌に感じるイーヴのぬくもりすら安心感よりも快楽を感じ取ってしまい、シェイラは小さく呻いた。手早く縄を解いてくれたイーヴは、シェイラの身体を着ていた上着で包み込むと、再び強く抱きしめた。
「もう大丈夫だから。すぐに帰ろう」
シェイラを抱き上げたイーヴは、背後にいた黒い竜を見上げた。
「ルベリア、あとは任せる」
「了解。シェイラ、ごめんね。無事でよかったわ。ここはあたしがきっちりと片をつけるから、心配しないで」
竜の姿をした彼女を見るのは初めてだけど、見つめる黒い瞳も声もルベリアのもので間違いない。逃げようともがくベルナデットを踏みつけながら、ルベリアは任せろというように片目をつぶった。
「ま、待ってイーヴ様っ! どうしてそんな人間を……っ」
「この期に及んでよく喋るわねぇ」
「わたくしの方が、あなたの花嫁に相応しいのにっ!」
必死の形相で叫ぶベルナデットを見て、イーヴは冷たい一瞥をくれた。
「俺の花嫁は、俺が決める。相応しいかどうかなんて、他人のおまえが決めつけるな」
「……っでも、番いの証を刻んでいないということは、所詮それの寿命が尽きるまでの話なのでしょう。わたくし、あと数十年くらい待てますわ。ですから」
「残念ながら、あなたは黒竜一族から追放よ。違法な淫紋札の出どころが、まさかあなただったなんてね。ラグノリアの花嫁を娼館に売り飛ばそうとしたことも加えて長の怒りは凄まじいから、数百年は幽閉の身になることを覚悟しておくのね」
呆れたような声で、ルベリアが踏みつける足に力を込める。信じられない、自分は悪くないと泣き叫ぶベルナデットはじたばたと暴れているものの、逃げ出すことはできないようだ。
「イーヴ、早く行って。シェイラをよろしくね」
「分かってる」
まだ必死にイーヴの名前を呼び続けるベルナデットを無視して、彼はシェイラを抱いたまま外に出た。
庭らしき広い場所で竜に姿を変えたイーヴは、シェイラを背に乗せた。
「早く帰ろう。戻れば、レジスが解毒剤を処方してくれるはずだ」
「ん……」
イーヴのたてがみに頬を寄せて、シェイラはうなずく。身体の疼きは辛いけれど、イーヴのぬくもりに触れていたら、少しだけ落ち着けるような気がする。だけど、ベルナデットの言っていた番いの証のことがシェイラの心の中に暗い影を落としていた。
恐らくは竜族にとって特別な意味を持つそのしるしを、シェイラはもらっていない。イーヴが頑なに一線を越えようとしないことも、シェイラが彼の唯一でないことを示しているような気がして苦しい。
囚われている間にとっぷりと日は暮れていて、星の瞬く中をイーヴは滑るように飛んでいく。以前に、湖面に星が映るのを見に行こうと約束したことを思い出して、シェイラは小さくため息をついた。こんな形で再び空を飛ぶことになるとは思わなかった。
「今度は、星を見に行こう。前に約束しただろう」
同じことを考えていたのか、イーヴがちらりと眼だけでシェイラを振り返った。
「こんな形で俺と空を飛んだことを、覚えていてほしくない。幸せな思い出で上書きしよう」
「うん、ありがとう」
思わず滲んだ涙を隠すように、シェイラはイーヴのたてがみに顔を埋めた。こんなにもイーヴは優しくしてくれるのに、それだけでは足りないと思う自分が、酷く浅ましいものに思える。
媚薬のせいで疼いたこの身体をイーヴに慰めてほしいのだと願ったら、優しい彼は受け入れてくれるだろうか。
熱に浮かされた頭で、シェイラはぼんやりとそんなことを考えていた。
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