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少しずつ ★

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「……っ、シェイラ、だめだ」
 伸ばした手を、イーヴが止めるように握りしめる。その手は熱いし、見上げたイーヴの顔も真っ赤だ。
「どうして止めるの」
「今、そんなことされたら、俺は本当に自制が効かなくなってしまう。っていうか、どこでそんなこと覚えてきた」
「本で読みました。ラグノリアでは、恋愛小説が流行っていたんですよ」
 いつも妹のマリエルが持ってきてくれる本を、楽しみにしていたのだと話すと、イーヴは顔を覆ってため息をついた。
「随分と過激な本が流行ってるんだな。信じられん」
「私、たくさん本を読んでいたから、知識は結構あると思うの。大好きな人のものを口で愛するのは、最大級の愛情表現なんですって」
「いや、知識に偏りがありすぎだろ……」
「ね、だから私にやらせて。きっと気持ちよくなれるように頑張るから」
「ちょ、待て待て待て、だから触るな……って!」
 再びイーヴの方に手を伸ばしたら、血相を変えて止められてしまった。
「どうして? もう我慢なんてしなくていいでしょう。本当の夫婦になりたいって言ったのはそういうことじゃないの?」
「いや、ゆくゆくはそうなれたら……とは思うけど、こういうのは手順を踏んでだな」
「手順?」
 首をかしげたシェイラを見て、イーヴは深いため息をついた。
「シェイラは初めてだろう。前にも言ったが初めての場合、女性は特に痛みや苦痛を感じることが多い。これでも、理性を失ってシェイラを襲わないように必死で耐えてるんだ。触られると、その……、我慢にも限界がある」
「私は別に、構わないのに」
「シェイラは小さいし華奢だから、乱暴に触れたら壊してしまいそうで怖い。傷つけたくないんだ」
 首を振って、イーヴは身体に篭る熱を吹き飛ばすかのように息を吐いた。そして、シェイラの身体をひょいと抱き上げるとベッドへと連れて行った。
 ぽすりとシーツの上に下ろされて、シェイラは戸惑って瞬きを繰り返す。まさかこのままもう寝ろということだろうか。
 不満が顔に出たのか、イーヴが小さく笑ってシェイラの唇を突く。どうやら無意識のうちに尖らせていたらしい。
「俺は尽くしたいタイプだから、何かをしてもらうよりも、シェイラを甘やかしたい」
「もう、充分甘やかしてもらってるのに」
「まだまだ足りない」
 そう言って、イーヴが触れるだけの口づけを落とした。それだけで、シェイラは何も言えなくなる。この甘いキスをもらうと、身体から力が抜けてしまうから。
「シェイラ」
 身体の上にのしかかるような体勢で、イーヴが囁く。
「大好きな人を口で愛するのが最大級の愛情表現、だったか」
「え……?」
「俺がどれほどシェイラを愛しているか、伝えさせて」
 にこりと笑ったイーヴは、いつもの優しい表情をしているのにどこか怖い。本能的に危険を察知したシェイラがずり上がって逃げようとするものの、イーヴの手と大きな枕に阻まれた。
「ま、待ってイーヴ、何……っひゃんっ」
 何をする気なのかと問おうとした声は、イーヴが首筋に顔を埋めたせいで裏返った悲鳴に変わってしまう。おそらく彼の舌だろう、首に熱く柔らかなものが触れるせいで、シェイラの口からは何度も悲鳴がこぼれ落ちる。
「シェイラのそんな声を聴ける日が来るなんて」
「や、恥ずかし……」
「もっと聴かせて」
 妖艶に笑ったイーヴが、口を塞ごうとしたシェイラの手を取ると、今度は指先に舌を這わせた。爪の先に口づけを落としながら、なぞるように舌が指をたどる。そのたびにシェイラは背筋がぞくりとするような感覚に身体を震わせ、押し殺した悲鳴をあげた。
 全ての指に口づけを終えると、イーヴの唇はまた首筋に戻ってくる。そして寝衣と肌の境目に一度キスを落とすと、シェイラを見上げた。
「脱がせていいか」
「イーヴの好きにしていいって、言いました」
 素直にうなずくのが恥ずかしくて、腕で顔を隠しながらシェイラは小さくつぶやく。その返答に笑うような吐息を漏らしたイーヴは、ゆっくりと寝衣のボタンを外していく。
 ぷつり、ぷつりと微かな音を立てて胸元が緩み、肌が露出する。役目を終えた寝衣はどこかへ行ってしまい、ついでとばかりに下着まで取り去られてしまう。まさか一糸纏わぬ姿を晒すことになると思わなかったシェイラは、慌てて隠すように身を縮めようとした。なのにそれを、イーヴの手が止める。
「全部見せて、シェイラ」
「だって」
「好きにしていいんだろう?」
「う……」
 揶揄うような声で言われて、思わず言葉に詰まる。叫び出したくなるほどに恥ずかしいけれど、自分の発言を嘘にはしたくない。羞恥に唇を噛みつつ、シェイラはゆっくりと身体の力を抜いた。
 隠すことなく晒された肌の上を、イーヴの視線がなぞるように動いていく。まだどこにも触れられていないのに、見つめられるだけで身体が熱くなり、シェイラは籠った熱を逃がすよう震える吐息を漏らした。
「綺麗だな」
 囁いたイーヴが、そっとシェイラの肌に触れる。彼の指先が掠めるだけで、そこから熱が広がっていくような気がして呼吸が自然と速くなる。恥ずかしくてたまらないのに、もっと触れてほしい。そんなシェイラの気持ちに気づいたのか、イーヴはわずかに目元を緩めると、下から掬い上げるようにシェイラの胸に触れた。
「ひ……ぁ、んっ」
「柔らかいな。いつまででも触っていたいくらいだ」
「や、あ……」
「あぁ、ここが物足りない?」
 くすりと笑ったイーヴの指が、摘まむように胸の先に触れた。その瞬間、シェイラの身体はびくんと大きく弾む。
「んん……っ、待っ、イーヴ」
「気持ちいい? シェイラ」
「分かんな……い、あぁ……っ」
「こっちの方が好きかな」
 そう言って、イーヴは胸元に顔を寄せた。深い谷間の中央に一度口づけを落としたあと、唇は先ほどまで指先に摘ままれていた胸の先をぱくりと食む。硬く尖っていつもより赤く色づいたその場所を吸い上げるようにされて、シェイラは堪えきれずに悲鳴を上げた。
「その声を、俺が上げさせてるかと思うとぞくぞくするな」
「ふぁ、……ん、イーヴ止まっ……、あぁんっ」
「可愛い、シェイラ。こんな日が来るなんて、夢みたいだ」
 楽しそうに笑いながら、イーヴは指と口でシェイラの胸をひたすらに愛撫する。与えられる快楽から逃れられなくて、シェイラはただ首を振って甘い声を上げ続けることしかできなかった。
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