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すごい量の魔力を秘めていると城に連れて行かれ、エリオスにその魔力を捧げるよう命令された。
最初に彼に抱かれたのは、城の一室だった。慣れない環境で、事態についていけなくて泣いて戸惑うステラを、エリオスは優しく抱いてくれた。その時から、ステラはずっと彼のことが好きだ。
親を早くに亡くし、ずっと一人で生きてきたステラにとって、エリオスに魔力を捧げることは、自分の存在が初めて人の役にたつようで、嬉しかったから。
あの時、王の前で何かの書類にサインをさせられたのは覚えている。ステラの魔力は全てエリオスに捧げること、他の男と寝ることは許されないことが、記載してあったはずだ。
「あの頃は、俺も若くて物知らずだったからね。言われるがままに契約をしてしまって、あとから死ぬほど後悔したよ」
冷え冷えとした笑みを浮かべたまま、エリオスはステラの頬に触れる。慈しむように、指先が唇をなぞった。
「俺の力を、余すところなく国のために使えと言われて、余計なことを考えさせないように次々と仕事を与えられて。ステラに会える日だけが、唯一の楽しみだったんだ」
確かにエリオスの活躍は、城から遠く離れたこの島にも届いていた。寝る間も惜しんで国中を飛び回っていたという噂も、真実なのだろう。
「なのに、俺からステラを奪おうとするから」
低い声でつぶやいたエリオスは、笑顔なのに目の奥は笑っていない。
「エリオス……?」
思わず名前を呼ぶと、エリオスは更に笑みを深めた。
「国のためだなんて言いながら、私利私欲のために俺の力を使おうとするからさ、そんな王なんて、もう必要ないかなって思って」
にっこりと笑ったエリオスに、ステラは目を見開く。
「まさか……」
もしかして、彼は国王を手にかけたのだろうか。
そんなステラの表情を見て、エリオスは困ったように笑った。
「そろそろ代替わりをすべきだと思ったからね、国王には引退してもらった。多少脅しはしたけど、手荒な真似はしていないよ」
戸惑って身を引こうとするステラの身体を抱き寄せて、エリオスは優しい笑みを浮かべる。
「それから、第二王子から随分と言い寄られていただろう」
「……っ」
誰にも言っていなかったはずのことを言い当てられて、ステラは思わず息をのむ。確かに、このところ第二王子の使いだという人物から、城に上がるよう幾度となく打診されていて、そのたびに言葉を尽くして断っていた。
女好きで知られる第二王子は、興味を持った女性を次々と召し上げるものの、すぐに飽きて捨ててしまうのだという噂は、ステラも知っていたから。捨てられた女性たちの末路があまり幸せなものではないことも。
何度も、ステラの魔力はエリオスのものであり、他の人のものになることはできないことを説明していたのに、それでも高圧的な態度で訪問を繰り返す使いの者に、随分と消耗させられていた。
「あの王は、自分に似て出来の悪い第二王子を可愛がっていたからね。俺がステラを望んでいることを知って、息子が興味を持つよう仕向けたんだ」
吐き捨てるように言ったエリオスは、にこりと笑ってステラの頬に触れる。
「だけど、もう邪魔者は消えたから。これからは、年に一度じゃなくて、好きな時に会えるんだ」
「消えた……って」
エリオスは、やはり第二王子を手にかけたのだろうか。青褪めたステラを見て、彼は笑って首を振った。
「そんな物騒なことはしないよ。あの男は、ずっと違法薬物に手を出していたからね。集めた女性たちにも使っていたという噂は、きみも聞いたことあるだろう。使うたびに使用量が増えていたんだろうね、俺が手を下すまでもなく死んだよ」
だからもう安心していいと囁かれて、ステラは戸惑いつつもうなずく。残虐で知られる第二王子のもとに行くくらいなら、死んだ方がましだと思っていたから、どこか安心したのも事実なのだ。
「王太子が、新しい王になる。あの人はまともだからね、この国も少しは良くなるだろう」
晴れやかな表情でそう言うと、エリオスはステラに手を差し出した。
「王との契約は破棄したから、ステラも自由だ。ねぇ、俺の手をとって。年に一度じゃなくて、ずっとステラと一緒にいたいんだ」
真っ直ぐに見つめながら差し出された手を、ステラは黙って見つめる。
会うのは年に一度だけど、少なくない年月を過ごしてきたエリオスのことは、信頼できる人だと分かっている。
甘く優しくステラを抱いてくれた彼のことを信じても、差し出されたこの手をとっても、いいのだろうか。
最初に彼に抱かれたのは、城の一室だった。慣れない環境で、事態についていけなくて泣いて戸惑うステラを、エリオスは優しく抱いてくれた。その時から、ステラはずっと彼のことが好きだ。
親を早くに亡くし、ずっと一人で生きてきたステラにとって、エリオスに魔力を捧げることは、自分の存在が初めて人の役にたつようで、嬉しかったから。
あの時、王の前で何かの書類にサインをさせられたのは覚えている。ステラの魔力は全てエリオスに捧げること、他の男と寝ることは許されないことが、記載してあったはずだ。
「あの頃は、俺も若くて物知らずだったからね。言われるがままに契約をしてしまって、あとから死ぬほど後悔したよ」
冷え冷えとした笑みを浮かべたまま、エリオスはステラの頬に触れる。慈しむように、指先が唇をなぞった。
「俺の力を、余すところなく国のために使えと言われて、余計なことを考えさせないように次々と仕事を与えられて。ステラに会える日だけが、唯一の楽しみだったんだ」
確かにエリオスの活躍は、城から遠く離れたこの島にも届いていた。寝る間も惜しんで国中を飛び回っていたという噂も、真実なのだろう。
「なのに、俺からステラを奪おうとするから」
低い声でつぶやいたエリオスは、笑顔なのに目の奥は笑っていない。
「エリオス……?」
思わず名前を呼ぶと、エリオスは更に笑みを深めた。
「国のためだなんて言いながら、私利私欲のために俺の力を使おうとするからさ、そんな王なんて、もう必要ないかなって思って」
にっこりと笑ったエリオスに、ステラは目を見開く。
「まさか……」
もしかして、彼は国王を手にかけたのだろうか。
そんなステラの表情を見て、エリオスは困ったように笑った。
「そろそろ代替わりをすべきだと思ったからね、国王には引退してもらった。多少脅しはしたけど、手荒な真似はしていないよ」
戸惑って身を引こうとするステラの身体を抱き寄せて、エリオスは優しい笑みを浮かべる。
「それから、第二王子から随分と言い寄られていただろう」
「……っ」
誰にも言っていなかったはずのことを言い当てられて、ステラは思わず息をのむ。確かに、このところ第二王子の使いだという人物から、城に上がるよう幾度となく打診されていて、そのたびに言葉を尽くして断っていた。
女好きで知られる第二王子は、興味を持った女性を次々と召し上げるものの、すぐに飽きて捨ててしまうのだという噂は、ステラも知っていたから。捨てられた女性たちの末路があまり幸せなものではないことも。
何度も、ステラの魔力はエリオスのものであり、他の人のものになることはできないことを説明していたのに、それでも高圧的な態度で訪問を繰り返す使いの者に、随分と消耗させられていた。
「あの王は、自分に似て出来の悪い第二王子を可愛がっていたからね。俺がステラを望んでいることを知って、息子が興味を持つよう仕向けたんだ」
吐き捨てるように言ったエリオスは、にこりと笑ってステラの頬に触れる。
「だけど、もう邪魔者は消えたから。これからは、年に一度じゃなくて、好きな時に会えるんだ」
「消えた……って」
エリオスは、やはり第二王子を手にかけたのだろうか。青褪めたステラを見て、彼は笑って首を振った。
「そんな物騒なことはしないよ。あの男は、ずっと違法薬物に手を出していたからね。集めた女性たちにも使っていたという噂は、きみも聞いたことあるだろう。使うたびに使用量が増えていたんだろうね、俺が手を下すまでもなく死んだよ」
だからもう安心していいと囁かれて、ステラは戸惑いつつもうなずく。残虐で知られる第二王子のもとに行くくらいなら、死んだ方がましだと思っていたから、どこか安心したのも事実なのだ。
「王太子が、新しい王になる。あの人はまともだからね、この国も少しは良くなるだろう」
晴れやかな表情でそう言うと、エリオスはステラに手を差し出した。
「王との契約は破棄したから、ステラも自由だ。ねぇ、俺の手をとって。年に一度じゃなくて、ずっとステラと一緒にいたいんだ」
真っ直ぐに見つめながら差し出された手を、ステラは黙って見つめる。
会うのは年に一度だけど、少なくない年月を過ごしてきたエリオスのことは、信頼できる人だと分かっている。
甘く優しくステラを抱いてくれた彼のことを信じても、差し出されたこの手をとっても、いいのだろうか。
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