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ステラはマグカップをテーブルの上に置くと、エリオスを見上げた。
「ねぇ、エリオス。今までありがとう。幸せになってね」
「……え?」
眉を寄せた表情で、エリオスが首をかしげる。見つめる視線に耐えかねて、ステラはうつむいた。
「聞いたの。結婚するんですってね。王女様はとっても可愛らしい方だっていうし、きっと2人はお似合いだわ。おめでとう、エリオス」
「え、なんでそれを」
焦ったようなその表情に、ステラは苦笑を浮かべる。
「色々と親切に教えてくれる人がいるのよ。いくら魔力の供給のためとはいえ、結婚してからもこんな関係を続けることは、許されないわ。だから、今日で終わりだよね」
「待ってステラ。終わりになんて、しないよ」
強い口調でそう言われて、ステラは内心で困惑していた。もしかして、彼は結婚してからもこの関係を続けるつもりだったのだろうか。そんな不誠実な人だとは思わなかったのに。それとも、ステラの魔力はそれほどまでに重要なのだろうか。
「明日の星祭りには、魔力がたくさん必要になるでしょう。最後になるけど、私の魔力は全部、あげるから」
「そうじゃなくて、ステラ」
「……っ離して」
腕を掴まれて、ステラは思わずその手を振り払ってしまう。その瞬間、エリオスが酷く傷ついたような目をするから、ステラは思わず動きを止めた。
うなだれて顔を覆ったエリオスは、大きなため息を落とした。
「そうだよな、ステラの優しさに甘えてばかりいた俺が悪い」
「エリオス?」
「結婚なんて、嘘だよ。確かに一度は打診された。だけど、断った。俺にはステラがいるから」
「え、え?」
意味の分からない言葉に目を見開くステラに、エリオスはちらりと視線を寄越した。
「国王が、俺の力を手元に置いておきたくて、王女と無理矢理結婚させようとしたんだ。彼女はまだ、成人もしていないような子なのに、結婚して早く子を成せと言われて」
確かに、王女とエリオスの年の差は倍近い。まだ幼い娘を差し出してまで、王はエリオスを繋ぎ止めておきたいのだろうか。
「王女も、そんなことは望んでいなかったからね、きっちりと断ったよ。俺が欲しいのは、ステラだけだ」
「でも……」
ゆるゆると首を振るステラを見て、エリオスは疲れたように笑った。
「本当はね、ずっとステラが欲しかった。だけど、きみの魔力をもらう約束をした時に、王に嵌められてね。年に一度しか会わせてもらえない上に、きみとの未来を語ることすらできないように、契約で縛られた。きみのことを、まるで道具みたいに扱って、申し訳ないと思ってる。だけど、もう契約は破棄したから」
にっこりと笑うエリオスの表情は、穏やかなのにどこか冷え冷えとしている。
「契約、破棄……?」
ぼんやりとつぶやきながら、ステラはエリオスに最初に出会った時のことを思い出していた。
「ねぇ、エリオス。今までありがとう。幸せになってね」
「……え?」
眉を寄せた表情で、エリオスが首をかしげる。見つめる視線に耐えかねて、ステラはうつむいた。
「聞いたの。結婚するんですってね。王女様はとっても可愛らしい方だっていうし、きっと2人はお似合いだわ。おめでとう、エリオス」
「え、なんでそれを」
焦ったようなその表情に、ステラは苦笑を浮かべる。
「色々と親切に教えてくれる人がいるのよ。いくら魔力の供給のためとはいえ、結婚してからもこんな関係を続けることは、許されないわ。だから、今日で終わりだよね」
「待ってステラ。終わりになんて、しないよ」
強い口調でそう言われて、ステラは内心で困惑していた。もしかして、彼は結婚してからもこの関係を続けるつもりだったのだろうか。そんな不誠実な人だとは思わなかったのに。それとも、ステラの魔力はそれほどまでに重要なのだろうか。
「明日の星祭りには、魔力がたくさん必要になるでしょう。最後になるけど、私の魔力は全部、あげるから」
「そうじゃなくて、ステラ」
「……っ離して」
腕を掴まれて、ステラは思わずその手を振り払ってしまう。その瞬間、エリオスが酷く傷ついたような目をするから、ステラは思わず動きを止めた。
うなだれて顔を覆ったエリオスは、大きなため息を落とした。
「そうだよな、ステラの優しさに甘えてばかりいた俺が悪い」
「エリオス?」
「結婚なんて、嘘だよ。確かに一度は打診された。だけど、断った。俺にはステラがいるから」
「え、え?」
意味の分からない言葉に目を見開くステラに、エリオスはちらりと視線を寄越した。
「国王が、俺の力を手元に置いておきたくて、王女と無理矢理結婚させようとしたんだ。彼女はまだ、成人もしていないような子なのに、結婚して早く子を成せと言われて」
確かに、王女とエリオスの年の差は倍近い。まだ幼い娘を差し出してまで、王はエリオスを繋ぎ止めておきたいのだろうか。
「王女も、そんなことは望んでいなかったからね、きっちりと断ったよ。俺が欲しいのは、ステラだけだ」
「でも……」
ゆるゆると首を振るステラを見て、エリオスは疲れたように笑った。
「本当はね、ずっとステラが欲しかった。だけど、きみの魔力をもらう約束をした時に、王に嵌められてね。年に一度しか会わせてもらえない上に、きみとの未来を語ることすらできないように、契約で縛られた。きみのことを、まるで道具みたいに扱って、申し訳ないと思ってる。だけど、もう契約は破棄したから」
にっこりと笑うエリオスの表情は、穏やかなのにどこか冷え冷えとしている。
「契約、破棄……?」
ぼんやりとつぶやきながら、ステラはエリオスに最初に出会った時のことを思い出していた。
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