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2 やらかした。

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「はい、コーヒー。熱いから気をつけて」
「ありがとうございます……」
 神妙な顔でリズベットはカップを受け取る。ここは我が家のはずなのに、何故キースにコーヒーを淹れてもらっているのだろう。
 だけど口をつけたコーヒーはリズベットが自分で淹れるよりも香り高く美味しくて、思わず頬が緩む。ミルク多めなところも、リズベットの好みに合っている。さすがは人気コーヒー店の店長。
 キースがコーヒーを淹れてくれている間に元通り服を着たリズベットは、隣に座る彼をちらりと見上げる。
 毎朝出勤前に立ち寄るコーヒー店の店長であるキースは、いつも美味しいコーヒーと共に優しい笑顔でリズベットを癒してくれる。
 魔法薬の工場で働くリズベットは、毎日錠剤や水薬に睡眠魔法を込めるのが仕事だ。特技を生かした仕事と言えば聞こえがいいけれど、朝から晩まで目の前に流れてくる薬に魔法をかけ続けるだけ。同じ姿勢で立ちっぱなしだから足は浮腫むし、肩凝りも酷い。
 そんなリズベットの唯一の楽しみが、キースの店で買うコーヒーだ。彼と交わす僅かな会話は毎日の活力の元だし、テイクアウトしたカップにさらりと書かれた応援メッセージに何度励まされただろう。
 きっと他の客にも同じことをしていると分かっていても、接客をしてくれるその瞬間だけはリズベットを見つめて笑ってくれる。
 いつからかそれをもっと独り占めしたくなって、だけどどうすればいいか分からなくて、そうこうしているうちに親からはそろそろ結婚しないのかとせっつかれるし、キースが店を辞めるかもしれないなんて噂まで聞いて、リズベットは冷静さを失っていた。
 もう会えなくなるくらいなら、いっそのことうちに閉じ込めちゃえばいいんじゃない?
 そうしたら、キースはリズベットだけを見てくれる。
 激務すぎて友人とは疎遠になっていたし、ありえない計画を立てたリズベットを止めてくれる人は誰もいなかった。
 配達サービスを始めたと聞いたから、キースが来てくれる可能性に賭けて注文をして、本当に彼が家まで配達に来てくれた時には運命だと思った。
 手が離せないからと部屋の中にまで届けてもらって、リズベットはソファの前で思いっきり睡眠魔法をキースにかけた。本当は眠った彼を襲うつもりだったけど、さすがにそんな勇気はなくて、せめて写真を撮ってありもしない事実を捏造しようとしたのだ。
 
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