上 下
5 / 5

5 ★

しおりを挟む
「……っう、ぁ」
「痛い? 杏」
 気遣うような表情の陸に小さくうなずきながら、杏は握りしめていたシーツから手を離して陸の首裏に手を回した。
「痛い、けど大丈夫。私、丈夫だし。途中で止めるとかナシだからね」
 荒い息の下で訴えると、陸の方が泣き出しそうな顔をした。子供の頃から変わらない、唇を噛みしめて涙を堪えるような表情を見上げて、杏はそっと陸の頭を撫でた。
「私、今すごい幸せだもん。だから平気」
「うん、俺も幸せ」
 眉を下げつつ笑った陸の頬に触れ、キスをねだるように引き寄せると柔らかく唇が重なった。
「恋を叶えるリップの効果、あったね」
 吐息が混じり合う距離で囁くと、陸が小さくうなずいてまたキスが落ちてくる。
「だけど、俺以外の前でつけるのはやめて」
 少し嫉妬を滲ませた口調に、思わず笑みがこぼれる。杏はすぐそばにある陸の耳元に唇を寄せた。
「分かった。陸とのデート専用にする」
「うん。まぁ、すぐにこうやって落としちゃうかもしれないけど」
 そう言って、陸がまたキスをする。それはどんどん深まっていって、息すらできなくなるほど。
 身体はまだ痛いけど、陸とこうして溶け合うように繋がるのは幸せだなと思いながら、杏は彼の背中に手を回した。
「動いて、いいよ」
 小さく囁くと、陸が一瞬驚いたように身体を震わせた。
 大丈夫だという気持ちを込めて見上げてうなずくと、陸がゆっくりと腰を動かし始めた。
「……っ、やば。気持ち、いい」
 引き攣れるような痛みはあるけれど、心の中は満たされて幸せだ。眉間に皺を寄せて快楽に耐える陸の表情も、漏れ出る声も、愛おしくてたまらない。
「大好き、陸」
「今、それ言うのは反則だって……っ」
 ぐっと唸った陸が、耐えるように顔をしかめる。箍が外れたように何度も突き上げられて、杏は必死で陸にしがみついた。
「く……っ、あ」
 大きくため息をついて少し身体の力を抜いた陸を見て、彼が欲望を吐き出したことを理解した杏も、ゆっくりと深呼吸した。杏自身はこの行為に快楽を得ることはなかったけれど、陸の気持ちよさそうな表情を見れただけで充分だ。

「気持ち、良かった?」
 後処理を終えて隣に寝転がった陸の胸に擦り寄りながら、杏は上目遣いで見上げる。
「最高に、気持ち良かった」
 ありがとな、と笑って頭を撫でられ、そのぬくもりに笑みがこぼれる。
「だから次は、杏が気持ち良くなる番な」
「え?」
 思いがけない言葉に目を瞬くと、陸はわくわくした表情を浮かべていた。
「俺、動画見ていっぱい勉強したから、きっと杏を気持ち良くさせられると思う」
「や、あの、ああいうのはほら、ファンタジーだから」
「大丈夫だって、痛いことはしないから」
 きらきらとした瞳で見つめられて、杏は陸の性格を思い出す。
 新しいおもちゃを手に入れたら、陸は全ての機能を試してみないと気が済まないのだ。どんなことができるのかを一通り試して、その中で気に入った遊びを繰り返す陸に、杏も付き合ったことが何度もある。
 きっと、陸は杏の身体を隅々まで知り尽くすつもりだ。
 物持ちの良い陸は、手に入れたものを大切に扱うことを知っているけれど、何をされるのかと杏は頬を引き攣らせた。
「お手柔らかに、頼みます……」
 逃げられないことを知っている杏は、笑うしかない。


 結局、杏は初体験を迎えたその日のうちにすっかり快楽に弱い身体となってしまった。耐えようとしても、陸に触れられるだけで身体が反応してしまうのだから仕方ない。
 可愛い、と何度も囁きながら甘い表情を浮かべる陸は、きっと杏だけが知るもので、それを独占していると思うだけで身体は喜びに震えてしまう。
 陸の前でだけ、杏はほんの少しだけ可愛い女の子になれるような気がする。彼が、言い聞かせるように可愛いと言ってくれるから。

 ◇
 
 絶大な効果のあった恋が叶うリップは、陸とデートの時だけにつけることにすると決めたものの、結局出かける前にいつも濃厚なキスで落とされてしまうからつけて外に出たことはない。
 だけど、陸がそうすることを楽しみにしているのも知っているから、杏は今日もリップを念入りに塗って、陸の部屋を訪ねる。

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

腹黒王子は、食べ頃を待っている

月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。

イケメン幼馴染に処女喪失お願いしたら実は私にベタ惚れでした

sae
恋愛
彼氏もいたことがない奥手で自信のない未だ処女の環奈(かんな)と、隣に住むヤリチンモテ男子の南朋(なお)の大学生幼馴染が長い間すれ違ってようやくイチャイチャ仲良しこよしになれた話。 ※会話文、脳内会話多め ※R-18描写、直接的表現有りなので苦手な方はスルーしてください

〈短編版〉騎士団長との淫らな秘め事~箱入り王女は性的に目覚めてしまった~

二階堂まや
恋愛
王国の第三王女ルイーセは、女きょうだいばかりの環境で育ったせいで男が苦手であった。そんな彼女は王立騎士団長のウェンデと結婚するが、逞しく威風堂々とした風貌の彼ともどう接したら良いか分からず、遠慮のある関係が続いていた。 そんなある日、ルイーセは森に散歩に行き、ウェンデが放尿している姿を偶然目撃してしまう。そしてそれは、彼女にとって性の目覚めのきっかけとなってしまったのだった。 +性的に目覚めたヒロインを器の大きい旦那様(騎士団長)が全面協力して最終的にらぶえっちするというエロに振り切った作品なので、気軽にお楽しみいただければと思います。

義兄様に弄ばれる私は溺愛され、その愛に堕ちる

一ノ瀬 彩音
恋愛
国王である義兄様に弄ばれる悪役令嬢の私は彼に溺れていく。 そして彼から与えられる快楽と愛情で心も身体も満たされていく……。 ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

優しい微笑をください~上司の誤解をとく方法

栗原さとみ
恋愛
仕事のできる上司に、誤解され嫌われている私。どうやら会長の愛人でコネ入社だと思われているらしい…。その上浮気っぽいと思われているようで。上司はイケメンだし、仕事ぶりは素敵過ぎて、片想いを拗らせていくばかり。甘々オフィスラブ、王道のほっこり系恋愛話。

処理中です...