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毒に溺れた小鳥は、甘い夢を見る
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「俺を……普通の人間として扱ってくれたのは、あの時のニーナが初めてだったんだ」
ぽつりとカイルがつぶやく。
カイルはその強大な魔力のせいで、幼い頃からずっと、周囲に化け物扱いをされていた。当時の国の大魔法使いのもとに、親に半ば捨てられるかのように預けられ、そこで魔法の修行をするも、カイルの力はその大魔法使いの力すら上回った。
国すら持て余すほどの力を持つカイルは、表向きは強い力を持つ子供を保護する名目で、だけど実体は恐れられ、気持ち悪がられ、魔力を封じるバングルをつけられて城の奥深い場所にほとんど閉じ込められていた。
バングルをつけられてさえ、カイルの魔力は完全に封じることはできなかった。感情の昂りで溢れた魔力で、何人かの魔法使いを殺してしまったこともあり、カイルはますます孤立していった。
そんなカイルを見出したのは今の王で、前王の崩御により若くして王の座を継ぐことになった彼は、カイルのその強大な魔力を自分のために使えと命じた。
初めて必要とされたことが嬉しくて、カイルは王に仕えることを決めた。以来、カイルは常に王の側にいて、彼を魔法で守っている。若い王はカイルの魔力にしか興味を示さないけれど、それでも恐れたり、気持ち悪がられることなく接してもらえることは、カイルにとって救いだったから。
そして、ニーナはカイルのことを気持ち悪がらず、それどころかこの魔力に怯えることなく、素直にすごいと賞賛してくれた唯一の人。
それがカイルにとって、どれほどの意味を持ったのか、ニーナは知らなかったのだろう。
中庭で小さくなって震えていたニーナを見て、弱った小動物を助けるような気持ちで気まぐれに声をかけた。カイルを見て驚いてはいたものの、嫌悪の表情を浮かべることなく、真っ直ぐに見上げて微笑んだ、あの柔らかな笑顔に一瞬で心を奪われた。
ニーナが向けてくれる穏やかな笑みや、時折交わす言葉は、カイルにとって唯一の光だった。
いつしか、彼女が自分に向ける微笑みを、他の誰かにも向けることが許せなくなり、カイルはニーナを閉じ込めることにした。ニーナがカイル以外を見たり、言葉を交わすことがないように。
ニーナは泣いていたけれど、閉じ込められてなお、カイルに嫌悪の表情を見せなかったし、憎しみをぶつけてくることもなかった。
ただ従順に、カイルを受け入れた。
だけど、あの暖かい笑顔を見せることはなくなり、どこか諦めたような儚い笑みしか浮かべなくなった。
ニーナはカイルしか見ていないはずなのに、その瞳はカイルを見ていない。優しい色をした、表情豊かなあの瞳が好きだったのに、まるでガラス玉のような瞳には、悲しげな表情しか浮かばない。
それでも、快楽を与えてやれば、ニーナはカイルを求めてくれる。そう躾けたのはカイル自身だけど。
ニーナを自分だけのものにしたかったのに、事実今はニーナはカイルだけのものなのに、ニーナの心だけが手に入らない。
いつからか、ニーナは泣かなくなった。最初の頃は、帰りたいといつも泣き腫らした目をしていたのに。
全てを諦めて受け入れたニーナは、まるで人形のようで。そうさせたのはカイルなのに、カイルはそれが許せない。
ニーナを抱きながら、わざと意地悪な言葉を囁き、時には媚薬を使う。そうすれば、ニーナはいつも、色々な反応を示してくれるから。だけど、事が終わればニーナはまた、大人しく従順な人形に戻ってしまう。
カイルは、ニーナにもっと愛して欲しいのに。
だから、ニーナがカイルのことをずっと好きだったと知って、頭を殴られたような衝撃を受けた。
ニーナの心は、きっとカイルのものになったはずなのに。それを壊したのはカイル自身だ。
取り返しのつかないことをしてしまったことを知り、身体が震える。
ぽつりとカイルがつぶやく。
カイルはその強大な魔力のせいで、幼い頃からずっと、周囲に化け物扱いをされていた。当時の国の大魔法使いのもとに、親に半ば捨てられるかのように預けられ、そこで魔法の修行をするも、カイルの力はその大魔法使いの力すら上回った。
国すら持て余すほどの力を持つカイルは、表向きは強い力を持つ子供を保護する名目で、だけど実体は恐れられ、気持ち悪がられ、魔力を封じるバングルをつけられて城の奥深い場所にほとんど閉じ込められていた。
バングルをつけられてさえ、カイルの魔力は完全に封じることはできなかった。感情の昂りで溢れた魔力で、何人かの魔法使いを殺してしまったこともあり、カイルはますます孤立していった。
そんなカイルを見出したのは今の王で、前王の崩御により若くして王の座を継ぐことになった彼は、カイルのその強大な魔力を自分のために使えと命じた。
初めて必要とされたことが嬉しくて、カイルは王に仕えることを決めた。以来、カイルは常に王の側にいて、彼を魔法で守っている。若い王はカイルの魔力にしか興味を示さないけれど、それでも恐れたり、気持ち悪がられることなく接してもらえることは、カイルにとって救いだったから。
そして、ニーナはカイルのことを気持ち悪がらず、それどころかこの魔力に怯えることなく、素直にすごいと賞賛してくれた唯一の人。
それがカイルにとって、どれほどの意味を持ったのか、ニーナは知らなかったのだろう。
中庭で小さくなって震えていたニーナを見て、弱った小動物を助けるような気持ちで気まぐれに声をかけた。カイルを見て驚いてはいたものの、嫌悪の表情を浮かべることなく、真っ直ぐに見上げて微笑んだ、あの柔らかな笑顔に一瞬で心を奪われた。
ニーナが向けてくれる穏やかな笑みや、時折交わす言葉は、カイルにとって唯一の光だった。
いつしか、彼女が自分に向ける微笑みを、他の誰かにも向けることが許せなくなり、カイルはニーナを閉じ込めることにした。ニーナがカイル以外を見たり、言葉を交わすことがないように。
ニーナは泣いていたけれど、閉じ込められてなお、カイルに嫌悪の表情を見せなかったし、憎しみをぶつけてくることもなかった。
ただ従順に、カイルを受け入れた。
だけど、あの暖かい笑顔を見せることはなくなり、どこか諦めたような儚い笑みしか浮かべなくなった。
ニーナはカイルしか見ていないはずなのに、その瞳はカイルを見ていない。優しい色をした、表情豊かなあの瞳が好きだったのに、まるでガラス玉のような瞳には、悲しげな表情しか浮かばない。
それでも、快楽を与えてやれば、ニーナはカイルを求めてくれる。そう躾けたのはカイル自身だけど。
ニーナを自分だけのものにしたかったのに、事実今はニーナはカイルだけのものなのに、ニーナの心だけが手に入らない。
いつからか、ニーナは泣かなくなった。最初の頃は、帰りたいといつも泣き腫らした目をしていたのに。
全てを諦めて受け入れたニーナは、まるで人形のようで。そうさせたのはカイルなのに、カイルはそれが許せない。
ニーナを抱きながら、わざと意地悪な言葉を囁き、時には媚薬を使う。そうすれば、ニーナはいつも、色々な反応を示してくれるから。だけど、事が終わればニーナはまた、大人しく従順な人形に戻ってしまう。
カイルは、ニーナにもっと愛して欲しいのに。
だから、ニーナがカイルのことをずっと好きだったと知って、頭を殴られたような衝撃を受けた。
ニーナの心は、きっとカイルのものになったはずなのに。それを壊したのはカイル自身だ。
取り返しのつかないことをしてしまったことを知り、身体が震える。
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