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思い浮かべるのは、リュートへ婚約破棄の書類を差し出した時の事だった。
感情に流されていたのか、それとも状況に流されていたのか分からないが……
とにかく、リュートがろくに書面に目を通さないでサインしようとしたところを、ドルシーが横から奪ったのだ。

早く話を進めたい私としては、面倒が加算された等と思ってしまったけれど。
それでも、契約の書かれた紙をちゃんと読み込む事の大事さを知っている事にだけは内心で眉を上げていました。

『……これ、婚約解消じゃなくて、婚約破棄の届じゃない』

確かにあの時、彼女は字を読めていました。
請求書は誰かに読んでもらったなどと言い訳が出来るかもしれませんが、目の前で初めて出された書類をサッと読んでいたのですから言い逃れのしようもありません。
この分だと、恐らくですが……書くことも出来るのでしょう。

平民の識字率など無いも同然の環境です。
ドルシーは、リュートの……侯爵家で育てられている間に、最低限の教育は受けさせてもらっていたのでしょう。
ただし礼儀作法はサボりながらと言うような事を聞いていますから……
あまり時間を掛けずに、ご自身に何が有益であるのかを知っていたのかもしれませんね。
強かな事、と思います。

まあ、それでも。
教養や常識なども身に着けた方が良かったのでは……そう考えざるを得ないのですけれど。
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