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第四十章
1256 平和そのもの
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( クルト )
「 フローズ様。相変わらずの美しさですね。
美の女神が突如降り立ったと思ってしまいました。 」
「 あら。────フフッ。ジェノスはいつもお上手ね。
まぁ、当たり前の事だけど。 」
まず容姿を褒める。
そして続けて、現在身につけているアクセサリー、毛先のほんの少し切りそろえた髪、新しく変えたらしい口紅の色などをべらべらと褒めた。
するとフローズの機嫌はどんどんと良くなっていき、口元はニッコリと三日月の様な形になる。
「 流石ね、ジェノス。
この口紅とネックレスは、つい先週作らせたばかりなのに。
あなたの事は好みではないけど、従者としてなら100点満点だわ。
もし騎士を引退する時は報告しにきなさいな。専属の従者として雇ってあげるから。 」
「 ありがとうございます。 」
……冗談じゃない。
そんな言葉は、勿論しっかりと心の奥に隠し、お礼を告げた。
俺の心情になど気付かない……いや、どうでもいいフローズは、何かを思いついたように、俺に対して意地の悪い笑みを見せる。
「 そうそう。貴方に頼みがあるのよ、聞いてくれるかしら?
今から< ヘドロ・クモ >を……そうねぇ、30匹ほどでいいわ。
とってきて?
魔法の研究用に欲しいのよ。
捕まえたら全部血抜きと解体もして、私の部屋に届けてちょうだい。 」
< ヘドロ・クモ >は、川や湖、泉など水辺に好んで住み、その水を吸ってヘドロの様な排泄物を出すFランクの公害指定モンスターである。
ランクが低い割に倒すのは難しく、それが30匹となれば今日一日では終わらないし、匂いも染み付いてしまうため、当分の間仕事に支障をきたす。
勿論その事は、目の前でニヤニヤと楽しそうに笑うフローズも分かっている。
またか……。
俺は心の中でため息をつき、この目の前の女性の嫌がらせをどう躱すべきかと考えた。
フローズはこうして格下の相手が困っている姿や苦しむ姿が大好きな、心根が腐ったクソ女である。
そしてそれを如何に被害を少なくして躱すかが、俺の様な格下貴族の腕の見せ所というものだ。
俺は嫌気が差しながら、口を開こうとしたその時────俺の後ろからフッ……という、鼻持ちならぬ嘲笑が聞こえてきた。
「 フローズ、そんなにジェノスを誂ってはかわいそうじゃないか。
彼だって出来ないなりに頑張って仕事をしているのだから、邪魔をしてはダメだよ。
身分も実力も持たない ” 持たざる者 ” には、我々 ” 選ばれし者 ” の様にゆっくりしている時間はないのだから。 」
クスクスと人を心底馬鹿にした様な目と態度でやってきたのは、フローズと同じく侯爵家という高い身分を持つ< ゴーン >だ。
まず目に入るのは前衛職の代表選手の様な高い身長と分厚い筋肉。
髪は夕暮れの空の様なオレンジ掛かった赤色で、ウェーブ掛かった長めの前髪を指で弄るのが癖であるゴーンは、今もイジイジと前髪を弄っている。
そして人を見下した様な目と、ニヤついた顔が、まるで仮面を被っているかの様に張り付いていて、その内面を嫌という程表している。
「 努力なら誰にも負けません。 」
困った様に笑いながら、ゴーンの発言を否定することなく、そして自分を卑下しすぎない程度に無難な返事を返すと、ゴーンは満足気にニィ……と笑う。
ゴーンは国の防衛に関して、現在トップに君臨する侯爵家【 ドンウォール家 】の御子息であり、この血筋の者達にしか使えぬ血族魔法も多く所持している。
そのためかゴーンは身分は勿論のこと、実力に対してもこだわりがあって、あまり自分を卑下した発言をすると癇に障るようなのだ。
俺とフローズ、ゴーンの三人は、同期かつ旧友に当たるのだが、結局この二人は一人身分の低い俺をこうして誂う事で笑い合い、” 良好な交友関係 ” とやらを築いてきた。
この二人は俺がいる事で上手くいく。
特にゴーンはフローズに惚れているが、あまり細かいことに気づき、立ち回るのが苦手なため、二人きりになるとあっという間に険悪な雰囲気になってしまうのだ。
そのためゴーンはこうして俺を間に挟んでフローズに必死にアピールするわけだ。
” 俺の方がこんな格下よりいい男だろう? ” と。
それができている内は、人を馬鹿にするのが大好きなフローズは上機嫌でゴーンに対し好意的だし、ゴーンもうまくフローズの目が自分に向くため上機嫌。
そして高位貴族の二人がご機嫌だと、周りにいる者達全員が八つ当たりされぬため助かる。
ほら、俺がいればこの世界は平和そのもの。
全てがうまくいくだろう?
もう身体に染み付いた、俺の役目。
俺はそのまま頭を下げて二人が一緒に去っていくのを見送った。
きっとこの後はゴーンに呼び出されて、やれ ” フローズに贈るためのプレゼントを選んで買ってこい。 ” だの ” 自分に割り振られた仕事を片付けておけ。 ” だの……いつもの様に命令されるはず。
そのためしばしの時間を休むため、俺は自室がある騎士団の寮へと歩き出す。
「 フローズ様。相変わらずの美しさですね。
美の女神が突如降り立ったと思ってしまいました。 」
「 あら。────フフッ。ジェノスはいつもお上手ね。
まぁ、当たり前の事だけど。 」
まず容姿を褒める。
そして続けて、現在身につけているアクセサリー、毛先のほんの少し切りそろえた髪、新しく変えたらしい口紅の色などをべらべらと褒めた。
するとフローズの機嫌はどんどんと良くなっていき、口元はニッコリと三日月の様な形になる。
「 流石ね、ジェノス。
この口紅とネックレスは、つい先週作らせたばかりなのに。
あなたの事は好みではないけど、従者としてなら100点満点だわ。
もし騎士を引退する時は報告しにきなさいな。専属の従者として雇ってあげるから。 」
「 ありがとうございます。 」
……冗談じゃない。
そんな言葉は、勿論しっかりと心の奥に隠し、お礼を告げた。
俺の心情になど気付かない……いや、どうでもいいフローズは、何かを思いついたように、俺に対して意地の悪い笑みを見せる。
「 そうそう。貴方に頼みがあるのよ、聞いてくれるかしら?
今から< ヘドロ・クモ >を……そうねぇ、30匹ほどでいいわ。
とってきて?
魔法の研究用に欲しいのよ。
捕まえたら全部血抜きと解体もして、私の部屋に届けてちょうだい。 」
< ヘドロ・クモ >は、川や湖、泉など水辺に好んで住み、その水を吸ってヘドロの様な排泄物を出すFランクの公害指定モンスターである。
ランクが低い割に倒すのは難しく、それが30匹となれば今日一日では終わらないし、匂いも染み付いてしまうため、当分の間仕事に支障をきたす。
勿論その事は、目の前でニヤニヤと楽しそうに笑うフローズも分かっている。
またか……。
俺は心の中でため息をつき、この目の前の女性の嫌がらせをどう躱すべきかと考えた。
フローズはこうして格下の相手が困っている姿や苦しむ姿が大好きな、心根が腐ったクソ女である。
そしてそれを如何に被害を少なくして躱すかが、俺の様な格下貴族の腕の見せ所というものだ。
俺は嫌気が差しながら、口を開こうとしたその時────俺の後ろからフッ……という、鼻持ちならぬ嘲笑が聞こえてきた。
「 フローズ、そんなにジェノスを誂ってはかわいそうじゃないか。
彼だって出来ないなりに頑張って仕事をしているのだから、邪魔をしてはダメだよ。
身分も実力も持たない ” 持たざる者 ” には、我々 ” 選ばれし者 ” の様にゆっくりしている時間はないのだから。 」
クスクスと人を心底馬鹿にした様な目と態度でやってきたのは、フローズと同じく侯爵家という高い身分を持つ< ゴーン >だ。
まず目に入るのは前衛職の代表選手の様な高い身長と分厚い筋肉。
髪は夕暮れの空の様なオレンジ掛かった赤色で、ウェーブ掛かった長めの前髪を指で弄るのが癖であるゴーンは、今もイジイジと前髪を弄っている。
そして人を見下した様な目と、ニヤついた顔が、まるで仮面を被っているかの様に張り付いていて、その内面を嫌という程表している。
「 努力なら誰にも負けません。 」
困った様に笑いながら、ゴーンの発言を否定することなく、そして自分を卑下しすぎない程度に無難な返事を返すと、ゴーンは満足気にニィ……と笑う。
ゴーンは国の防衛に関して、現在トップに君臨する侯爵家【 ドンウォール家 】の御子息であり、この血筋の者達にしか使えぬ血族魔法も多く所持している。
そのためかゴーンは身分は勿論のこと、実力に対してもこだわりがあって、あまり自分を卑下した発言をすると癇に障るようなのだ。
俺とフローズ、ゴーンの三人は、同期かつ旧友に当たるのだが、結局この二人は一人身分の低い俺をこうして誂う事で笑い合い、” 良好な交友関係 ” とやらを築いてきた。
この二人は俺がいる事で上手くいく。
特にゴーンはフローズに惚れているが、あまり細かいことに気づき、立ち回るのが苦手なため、二人きりになるとあっという間に険悪な雰囲気になってしまうのだ。
そのためゴーンはこうして俺を間に挟んでフローズに必死にアピールするわけだ。
” 俺の方がこんな格下よりいい男だろう? ” と。
それができている内は、人を馬鹿にするのが大好きなフローズは上機嫌でゴーンに対し好意的だし、ゴーンもうまくフローズの目が自分に向くため上機嫌。
そして高位貴族の二人がご機嫌だと、周りにいる者達全員が八つ当たりされぬため助かる。
ほら、俺がいればこの世界は平和そのもの。
全てがうまくいくだろう?
もう身体に染み付いた、俺の役目。
俺はそのまま頭を下げて二人が一緒に去っていくのを見送った。
きっとこの後はゴーンに呼び出されて、やれ ” フローズに贈るためのプレゼントを選んで買ってこい。 ” だの ” 自分に割り振られた仕事を片付けておけ。 ” だの……いつもの様に命令されるはず。
そのためしばしの時間を休むため、俺は自室がある騎士団の寮へと歩き出す。
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