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第三十九章

1234 選べない

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( フラン )

実力主義を突き詰めれば、その先には ” 力 ” が全てのドロティア帝国がいる。


” 実力なき者に人権はなく、弱者である事は最大の罪である。 ”


そんな一つの極めた価値観は、とうとう他の国を侵略し奪う事を ” 正しい ” としてしまった。


つまり、現在のアルバード王国でアーサー様の派閥が勝利したところで、いつかは ” 身分 ” が ” 力 ” に変わっただけの国になるだけだ。


訪れるかもしれない ” 未来 ” を思い描きながら考え込む私に、アーサー様は続けて言った。


「 多数の拮抗する勢力がバチバチいがみ合っている時こそが、一番平和なのかもしれないね。 」


「 ……確かに、その通りですね。 」


実力の拮抗している勢力が存在していると、何か短慮な行動を起こせば、あっという間にそれを理由に攻め込まれてしまう。


そのため、とりあえず ” 完全に勝てる! ” という状況でなければ、お互い無駄に命を犠牲にして攻め込んではこないはずだ。


私は全面的にアーサーの意見に賛同し、大きく頷いた。


アーサー様の真の理想は、おそらく様々な価値観を持った人々が、お互いにお互いを見張る世界だ。


” 世界を一つに ”


それが必ずしも理想郷ではないと、アーサー様は考えている。


また一つ、新たな考えを知り、思わずフッ……と笑ってしまったのだが、アーサー様は、笑みを浮かべたまま、窓の外へ視線を移した。


「 例えば、たった一人の存在が、この世界の在り方を決めなければならないとすれば……その時、その人物は一体どの視点からその世界を見るんだろうね?


見る角度によって、世界は美しくも醜くもなるから……きっとどんな答えを選んでも、” 正しく ” はないんだ。


だから正解は ” 選べない ” はずだろう?

でも────……。 」


アーサー様は、またクルリとこちらを向き、私と目を合わせたのだが、その瞳の奥に小さな怒りの炎が見えた気がして、少々戸惑ってしまう。

なんと返事を返そうかと迷っていると、先にアーサー様が口を開いた。


「 ” 誰かにとっての地獄 ” が、もしもそのたった一人の人間を取り巻く環境であったなら……間違いなくその世界は終わりを迎えるだろうね。


他の世界も全て道連れに。


その視点だけで見させられる世界は、きっととても醜くて無価値なモノだから。

他の答えを選びようがない。

選択するために必要な全てを奪われてしまっていれば。 」


アーサー様は無表情のまま、自身の手の平を私に見せ、それをゆっくりと握っていく。

そして握った拳を、まるで爆発させる様に一気に開くと、にっこりと笑った。


その動作にゾッ……としながら、私は同時にエドワード派閥が目指している世界の危うさに改めて恐怖を抱く。


” 誰かにとっては地獄 ” の世界を作っては駄目だ。


私は決意を新たに、アーサー様にお礼を告げ、ライトノア学院の学院長の座についた。


そして直ぐに仲間たちを集め、エドワード派閥の動きに牽制をかける事ができる、拮抗する勢力を作り出したが……敵は非常に強大だ。


権力という武器を駆使し、なんとか自分の地位を守る貴族達を相手にするのは至難の技。

あの手この手と手を変えてくる手腕は、流石の一言で、その中で特に厄介だったのは ” 中学院への教員の派遣 ” だ。


いくらアーサー様が全権限を持つ中学院でも、エドワード様の温情による人材派遣ともなると断れない。

かつ現在、唯一エドワード様に、直接物申せるアーサー様がいないとなればそれを押し通されてしまったのだ。


更に派遣されてくる者達はいずれも、それなりの地位を持つ貴族達であったため、殆どが平民出身である教員達では中々太刀打ちできない。


特に我が学院に派遣された< ジュワン >という男は、非常に苛烈で極端な性格をしていて、徹底した身分至上主義を子どもたちに教え込み、自分の価値観で染めていった。


美味しい部分だけを見せて、居心地の良いだけの場所を見せてやる。

そうすれば、あっという間に心に迷いのあったり劣等感に苛まれている貴族の子どもたちは、その思惑通りに変わっていく。


そしてそんな変わっていく ” 上 ” に連動する様に、” 下 ” に分類されてしまった生徒達も────……。


"    抗うより何も考えずに従った方が楽である   "


そう答えを出すのに時間は掛からなかった。


人は楽を覚えれば流されてしまう生き物であるが故、それを覆すには、大きなパワーが必要だった。


その世界、全てを吹き飛ばす様な大きな力が……。


そうして教員達総出で必死にそれに抗い戦い続けている内に、月日は流れ、また新入生を迎える年がやってくる。


その頃は、ジュワンの教育の賜物ともいえる貴族生徒達は、辺境伯ライロンド家の子息マービン殿を中心に派閥という群れを作り、学院内に大きな変化を起こそうとしていた。


しかし、このまま思い通りにさせてたまるものかと、教員達はあれやこれやと策を巡らせ、貴族生徒たちもそれに抵抗し……と、< 子犬の尻尾遊び >の様な状況になっていて────それを思い出し、頭が痛くなってきた私はこめかみを揉み込む。


< 子犬の尻尾遊び >

子犬が自分の尻尾でじゃれ始めると、そのままグルグルと回って永久に鬼ごっこをしている様から、埒が明かない状況の事を指す言葉

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