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第三十八章
1190 また会おう
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( ベリー )
軽めの皮の防具に腰には数本の包丁。
そして頭には昔愛用していたと言っていた、茶色い中折れ帽。
背中には巨大なリュックサックを背負っていて、嫌な予感をビンビンと感じた私は、恐る恐る聞いてみた。
「 い、いまから山登りでもするの……? 」
「 ん~山もあるかもしれねぇな! 」
山 ” も ” ?
その答えに対し、嫌な予感は的中したと感じた私が青ざめていると、父はグッと深く帽子を被り、目元を隠す。
「 山だけじゃなくて海も森も川も砂漠だって……とにかく興味がある場所は全部行ってみるつもりだ。
死ぬまでにどれだけの冒険ができるんだろうな。
すげぇ楽しみだ! 」
「 はぁ??えっ??お父さん、本当に何を言っているの?
なんだかそれって今から旅に出るみたいじゃ……。 」
キュイちゃんが呆れる様に言うと、父は笑みを浮かべたまま黙った。
その沈黙が答えであると語る父に、私達は確信を得る。
父は旅に出る。
そしてここへは二度と戻らない。
それを突きつけられた私達は呆然と立ちつくした。
すると、父は幸せそうに微笑みながら、部屋の中を全て見回した後……視線を私達に合わせる。
「 あっという間の15年だった。
幸せの時間っつーのは、なんて早く過ぎちまうんだろうなぁ~……。
” 子どもの成長はポッポ鳥の如し ” とは良く言ったもんだ。
これからお前たちはお前たちの、そして俺は俺の人生を歩んでいく。
そのための力はもうお前たちの中にある。
あとは……その足を動かすだけだぜ。 」
「 い……いやだよ……何で急にお別れなんていうの?
私……ずっとお父さんといたいよ! 」
キュイちゃんが私が言いたい事を代弁する様に言ってくれたが、父は静かに首を振る。
「 親っつーのは子どもとずっと一緒にはいられねぇ。
俺の方がずっと早くにあの世に行っちまうからな。
だからお前達にはさっさと、自分の居場所ってやつを探してもらわねぇと困るんだわ。
ココはお前たちの居場所じゃねぇ。
もう分かっているだろ? 」
「 ────っ!!……で、でも……こんなに早くなくたって……いいじゃない……。 」
キュイちゃんは弱々しくそう言うと、ポロポロと涙を流した。
父は自分の言葉を曲げない人。
それが分かっているから、言っても無駄である事は分かっている。
それでもそう言ったキュイちゃんに、父はフッ……と笑みを浮かべた。
「 自立は早いに越したことなねぇさ。
だって世界はすんげぇぇぇ~……広いんだから!
あんまり遅せぇと見つかる前に死んじまうぜ?
お前達はもう ” 大丈夫 ”
だから、ここで一旦お別れしよう。じゃあな! 」
父は呆然と立ち尽くす私達の間を通り、そのまま背後にある扉を思い切り開け放つ。
すると────外から入った風が家の中に入り込み、私達の髪を触った。
「 お父さん!! 」
叫びながら直ぐに振り返れば、扉からは月明かりの優しい光が差し込み、薄暗い部屋の中を明るく照らすのが見えて、唐突に私は理解する。
世界は広い。
だからきっと ” くせに ” とか ” ~らしく ” とかが一切ない……私が私のまま自然でいられる居場所がきっとある。
でもそれはココにはない。
伸ばそうとした手を下ろし、ぎゅっと強く握りしめた。
だからそこに辿り着くためには……私達はいつまでもココにいては駄目なんだ。
自分の今いる環境を思い出し、私は一気に覚醒していった。
自分の足をしっかり地につけ、歩き出さなければ見つからない。
父が私達のために用意してくれた……いつか父が死んでしまえばなくなってしまう自分だけのこの居場所から。
それがストンっ……と自分の中に入ってくると、父との別れによる悲しい気持ちの他に、その大きな自由にワクワクした気持ちが湧き上がった。
「 お父さん!今まで本当にありがとう!!
私達、頑張るから!!
またいつか会えるかな?! 」
私が去っていく父の背中に向かって叫ぶと、その場で父は大声で叫ぶ。
「 当たり前だぁぁぁぁぁ──────!!!
お前たちがピンチの時は絶対に、何があろうとも駆けつけっからよ!!
また会おう!!
我が最愛の娘たち、ベリー、キュイ!! 」
そう言い終わると、父は片手をヒラヒラさせながらまた歩き始めた。
その背中を見て、とうとう私の目からもポロポロと涙が溢れ出す。
「「 お父さん、あ”り”がどぉぉぉぉぉ──────!!! 」」
私とキュイちゃんは、父の背中が見えなくなるまでずっと叫び続け、そしてとうとう父が見えなくなると、直ぐに今後の事を考えた。
私とキュイちゃんは現在、最前線で戦う【 第一級守備隊員 】だ。
そもそも守備隊は年に一回行われる《 入隊試験 》に合格すれば入れるのだが、その試験結果により、第一級から第三級まで所属が分けられる。
戦闘能力が高く即戦力となる者は【 第一級守備隊員 】
平均的な実力を持つ一般隊員レベルの者は【 第二級守備隊員 】
そして実力が実戦レベルにまだ達していない者は、訓練生レベルである【 第三級守備隊員 】。
その3つの所属に分けられ、その後は仕事の功績や昇格試験によって上がっていくシステムなのだ。
毎日父の厳しい鍛錬と持って生まれた戦闘の才能により、私達はあっさり【 第一級守備隊員 】に選ばれたが、毎年だいたい九割以上の者達は、この訓練生レベルの【 第三級守備隊員 】からスタートらしい。
そして全員がこの【 第一級守備隊員 】を目指し、磋琢磨する日々を過ごすが、最終的には【 第二級守備隊員 】止まりの人が最も多い。
しかし【 第二級守備隊員 】になる事自体が高い実力を持ってないとなれないため、守備隊は高い戦闘力を常に保持しているわけなのだが……以前から一つ問題視されている事がある。
それが街ごとに違う守備隊の実力の差だ。
軽めの皮の防具に腰には数本の包丁。
そして頭には昔愛用していたと言っていた、茶色い中折れ帽。
背中には巨大なリュックサックを背負っていて、嫌な予感をビンビンと感じた私は、恐る恐る聞いてみた。
「 い、いまから山登りでもするの……? 」
「 ん~山もあるかもしれねぇな! 」
山 ” も ” ?
その答えに対し、嫌な予感は的中したと感じた私が青ざめていると、父はグッと深く帽子を被り、目元を隠す。
「 山だけじゃなくて海も森も川も砂漠だって……とにかく興味がある場所は全部行ってみるつもりだ。
死ぬまでにどれだけの冒険ができるんだろうな。
すげぇ楽しみだ! 」
「 はぁ??えっ??お父さん、本当に何を言っているの?
なんだかそれって今から旅に出るみたいじゃ……。 」
キュイちゃんが呆れる様に言うと、父は笑みを浮かべたまま黙った。
その沈黙が答えであると語る父に、私達は確信を得る。
父は旅に出る。
そしてここへは二度と戻らない。
それを突きつけられた私達は呆然と立ちつくした。
すると、父は幸せそうに微笑みながら、部屋の中を全て見回した後……視線を私達に合わせる。
「 あっという間の15年だった。
幸せの時間っつーのは、なんて早く過ぎちまうんだろうなぁ~……。
” 子どもの成長はポッポ鳥の如し ” とは良く言ったもんだ。
これからお前たちはお前たちの、そして俺は俺の人生を歩んでいく。
そのための力はもうお前たちの中にある。
あとは……その足を動かすだけだぜ。 」
「 い……いやだよ……何で急にお別れなんていうの?
私……ずっとお父さんといたいよ! 」
キュイちゃんが私が言いたい事を代弁する様に言ってくれたが、父は静かに首を振る。
「 親っつーのは子どもとずっと一緒にはいられねぇ。
俺の方がずっと早くにあの世に行っちまうからな。
だからお前達にはさっさと、自分の居場所ってやつを探してもらわねぇと困るんだわ。
ココはお前たちの居場所じゃねぇ。
もう分かっているだろ? 」
「 ────っ!!……で、でも……こんなに早くなくたって……いいじゃない……。 」
キュイちゃんは弱々しくそう言うと、ポロポロと涙を流した。
父は自分の言葉を曲げない人。
それが分かっているから、言っても無駄である事は分かっている。
それでもそう言ったキュイちゃんに、父はフッ……と笑みを浮かべた。
「 自立は早いに越したことなねぇさ。
だって世界はすんげぇぇぇ~……広いんだから!
あんまり遅せぇと見つかる前に死んじまうぜ?
お前達はもう ” 大丈夫 ”
だから、ここで一旦お別れしよう。じゃあな! 」
父は呆然と立ち尽くす私達の間を通り、そのまま背後にある扉を思い切り開け放つ。
すると────外から入った風が家の中に入り込み、私達の髪を触った。
「 お父さん!! 」
叫びながら直ぐに振り返れば、扉からは月明かりの優しい光が差し込み、薄暗い部屋の中を明るく照らすのが見えて、唐突に私は理解する。
世界は広い。
だからきっと ” くせに ” とか ” ~らしく ” とかが一切ない……私が私のまま自然でいられる居場所がきっとある。
でもそれはココにはない。
伸ばそうとした手を下ろし、ぎゅっと強く握りしめた。
だからそこに辿り着くためには……私達はいつまでもココにいては駄目なんだ。
自分の今いる環境を思い出し、私は一気に覚醒していった。
自分の足をしっかり地につけ、歩き出さなければ見つからない。
父が私達のために用意してくれた……いつか父が死んでしまえばなくなってしまう自分だけのこの居場所から。
それがストンっ……と自分の中に入ってくると、父との別れによる悲しい気持ちの他に、その大きな自由にワクワクした気持ちが湧き上がった。
「 お父さん!今まで本当にありがとう!!
私達、頑張るから!!
またいつか会えるかな?! 」
私が去っていく父の背中に向かって叫ぶと、その場で父は大声で叫ぶ。
「 当たり前だぁぁぁぁぁ──────!!!
お前たちがピンチの時は絶対に、何があろうとも駆けつけっからよ!!
また会おう!!
我が最愛の娘たち、ベリー、キュイ!! 」
そう言い終わると、父は片手をヒラヒラさせながらまた歩き始めた。
その背中を見て、とうとう私の目からもポロポロと涙が溢れ出す。
「「 お父さん、あ”り”がどぉぉぉぉぉ──────!!! 」」
私とキュイちゃんは、父の背中が見えなくなるまでずっと叫び続け、そしてとうとう父が見えなくなると、直ぐに今後の事を考えた。
私とキュイちゃんは現在、最前線で戦う【 第一級守備隊員 】だ。
そもそも守備隊は年に一回行われる《 入隊試験 》に合格すれば入れるのだが、その試験結果により、第一級から第三級まで所属が分けられる。
戦闘能力が高く即戦力となる者は【 第一級守備隊員 】
平均的な実力を持つ一般隊員レベルの者は【 第二級守備隊員 】
そして実力が実戦レベルにまだ達していない者は、訓練生レベルである【 第三級守備隊員 】。
その3つの所属に分けられ、その後は仕事の功績や昇格試験によって上がっていくシステムなのだ。
毎日父の厳しい鍛錬と持って生まれた戦闘の才能により、私達はあっさり【 第一級守備隊員 】に選ばれたが、毎年だいたい九割以上の者達は、この訓練生レベルの【 第三級守備隊員 】からスタートらしい。
そして全員がこの【 第一級守備隊員 】を目指し、磋琢磨する日々を過ごすが、最終的には【 第二級守備隊員 】止まりの人が最も多い。
しかし【 第二級守備隊員 】になる事自体が高い実力を持ってないとなれないため、守備隊は高い戦闘力を常に保持しているわけなのだが……以前から一つ問題視されている事がある。
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