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第八章

369 それぞれの準備

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( ??? )


「 やってくれたね、あんた達!

だけどこんな場所でゴミ野郎どもの悪口を言うんじゃないよ。

どこで誰が聞いているかわからないからね、分かったかい?坊や達。 」


「 ……いや、ゴミ野郎って……。お前も悪口言ってんじゃん。

つーか、随分と機嫌いいじゃね~か。

────まっ、あのクズみてぇな傭兵たちには相当手を焼いていたみてぇだし?

今回一番得したのはお前じゃね? 」


ドノバンは、豪快に笑うオリビアによって叩かれた背を撫でながらジトッとした目を向ける。

そしてひとしきり笑った後、オリビアはフッと真面目な表情になりドノバンとユーリスに顔を近づけた。


「 ……今回その事件に参加していたAランク傭兵どもは、全員どうしようも無い奴らでね。

そういう奴らに限って逃げるのが上手いし、群れてあっという間に固まっちまう。
              
その固まりを強固にする善良なが沢山周りにいるからねぇ?
      
遊んで便利ながあるうちは、その繋がりが切れることはない。 」


オリビアは一旦言葉を切り、ふぅ……とため息をつくと、神妙な顔をしているドノバンとユーリスに、続けて言った。


「 ……本当にどうしようもない奴らっていうのは世の中にはそれなりにいる。

力を手にする代償として心の試練……みたいなものがあるのかも知れないね。
                
たぶんその試練に負けちまうと……


そんな奴らを野放しにするよりはマシと、傭兵ギルドではどんなやつでも引き取るが……やはり被害をゼロにするのは無理だ。


力を持つ奴らには、その首に鈴をつけるだけで精一杯さ。

まぁ、その中でも強い力を持つものはそれすらもつけられないがな……。 」


腕を組みながらそう吐き捨てたオリビアに、ユーリスとドノバンはニヤッと笑った。


「 鈴を鳴らした奴らを最大限に使お陰で、我々第二騎士団の犠牲は最小限に抑えられていますよ。

今まで世に貸りてたツケを払うことから逃げ回っていた奴らには相応しい扱いでしょう。 」


「 まぁ、どんな道を選ぶにせよ、自分だけは~……とはいかねぇわな。

放流して盗賊団でも形成されちまったら、一番タチが悪ぃし?

美味~い餌で釣りながら首輪をつけて、役に立ってもらおうっつーのは、俺的には良い方法だと思うぜ。


────でもな~?

オリビア、お前、この間襲ってきたCランク傭兵達、分かっててリーフの屋敷を襲撃させただろう。

首輪をつけそこなった奴らを、こっちに処分させるなよな~。 」


最後はジトッと睨むドノバンの視線などなんのその。

オリビアは、ハハハッと笑いながら「 さぁ~て?なんのことかな? 」とシラをきる。


しかし、その後再び真剣な表情に戻り、同じく表情を引き締めたドノバンとユーリスに向かい声を潜めて言った。


「 今回ヤラれたAランク傭兵なんだが、秘密裏に全員近々死地へ派遣してやる予定だった。

だが、誰かがその情報をキャッチし一時的に隠しやがったんだ。

恐らく諜報がずば抜けた奴がアチラ側についてる。

更にはそんな人数を簡単に隠してしまえるスキル持ちに、それを支える財力や権力を持った奴らもバックに……。

頭が痛くなる話さ。


────なぁ?エルビス。 」


「 はっはぃぃ~!! 」


名前を呼ばれたエルビスはボンヤリと立っていた場所でと情けない声をあげ、直ぐにバタバタと運動神経を全く感じない走りで駆け寄ってきた。


「 いや~皆様お久しぶりでございます~!お元気でしたか?

今回はカルパスさんに色々情報を頂き本当に助かりましたー。

カルパスさんの抜けた穴は大きくて大きくて~今でも沢山た~くさん!お世話になってるんですよ~。


リーフ様がご無事で本当に良かったです。

さすが現役第二騎士団副団長ユーリスさんと元団長のドノバンさんですね! 」



ハフハフッと息を乱しながら賛辞を送るエルビスに、ドノバンとユーリスは何とも言えぬ苦笑い。

オリビアは反対に楽しそうに笑っている。


エルビスは、そんな三人の反応を見る余裕はない様子でアワアワと焦りながら、胸ポケットから小さなメモ用紙を取り出し、それをめくりながら話を続けた。


「 えぇ~と……あちらの諜報は元諜報員だった< レイナ >が担当していると見て間違いないでしょう。

レイナはとても優秀な諜報員でしたから~。

それに昔から彼女はカルパスさんにご執心でね?

多分そのへんもこんな事件に加担する理由の1つじゃないかなと思うんですよね~?


それと暗殺ギルドの総長……いえ、今回の件で『 元 』になりましたか!

彼は以前から謎多きお人でして……彼の周りでは妙に人が消えるんですよ。

確たる証拠がなく罪に問うことは出来ませんが、恐らく資質は個人データーに記載されている【 仲介人 】ではないでしょうね~。

どうやって偽造したのかは分かりませんが、どちらにせよ正体が分からない以上慎重にお相手して下さい。 」


そこまで一気に言ったエルビスは興奮のあまり手に持つメモ用紙をポロッと落としてしまい、それを慌てて拾おうと屈んだ────その時……。



「 ……多分今回の事件は本命じゃない。

まだ全容は分からないが注意を。


全員そのつもりで準備しておいてくれ。



何かあれば情報を伝える。 」



エルビスの口調と雰囲気がガラリと変わり、その場がピリッと緊張に包まれる。


しかしメモ用紙を拾い上げ顔を上げれば、先ほどと全く変わらぬオドオドとした表情を浮かべるエルビスがいて……あっという間に張り詰めた空気は消え去ってしまった。


「 ではでは、皆さ~ん!またそのうちお茶でもしましょうね~! 」


エルビスはまた慌ただしくメモを胸のポケットに突っ込むと、バタバタと大きな音を立てながら走って去って行く。


残された3人はお互い顔を見合わせた後、力強く頷き合い────それぞれ別の方向へと歩き始めた。

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