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第五章

208 まずは洗おうか

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( リーフ )

あーーー驚いた~。

俺はレオンと隣り合って身体を洗いながら、はぁぁ~と息を吐いた。


レオンに絞め落とされる直前ーーー

大きな音に気づいたモルトとニールが脱衣所を覗きに来てくれて、アナコンダに巻き付かれた餌のようになっている俺を発見。

息を飲む。


その後直ぐに俺がぐったりしていることに気づき、レオンをタオルで叩きながら声を掛け、なんとか引き離してくれたというわけだ。

まさか俺を亡き者にしようとするほどのパニックをおこすとは・・

ものすごい締め付けを思い出しゴクリっと息を飲むと、改めて注意しなければと反省した。


性的な事は本当に慎重にいかないと死人がでるぞ、高確率で俺。

隣で大人しく身体を洗うレオンをチラリと見れば、直ぐにバチッと合う視線・・

先ほどからこちらをチラチラとめちゃくちゃ見てくるのは、恐らくコレで洗い方は間違いないのかと自信がない為だと思われる。

最初に身体の洗い方をザッと教え、洗う為のタオルを渡してかずっとこの調子ーーー

まぁコレばかりは最初は親の洗い方の真似をして、何度も経験しているうちに自分の好みの洗い方が見つかるモノ。

では、いくらでも好きに見ると良い!

見せつける様にワッシャワッシャと身体を洗いながら、これから入らんとする素晴らしいお風呂の数々に目線を走らせる。


作り的には前世で言うめちゃくちゃ広いスーパー銭湯。


多種族の人達も多く泊まるこの宿には沢山の種類の湯船が用意されている様だ。

スタンダードなお風呂から体に良さそうな薬草風呂。

スーッとした匂いが刺激的!ミント風呂やポカポカ唐辛子風呂に、心安らぐ花の匂い風呂やフルーツがぷかぷか浮いた果実風呂。


そしてそして~!


俺は、全ての匂いを押し除け、ぽわぁ~匂ってくる独特の香りに鼻をクンクンと動かす。


期間限定の地上の楽園名物ーーー《 お酒の匂い風呂 》~!!!


お酒の芳醇な香りに思わずお酒を飲む様にチュ~!と唇を突き出し、ウズウズと体を動かすと、レオンがビクッ!としながら一生懸命俺の真似をしていた。

早く入りたいぞ~!

可愛らしい動きをするレオンにニッコリしながら、ウズウズする体を強く擦る。

そしてシャワーが付いた蛇口をコキュッと捻り、飛び出すお湯で泡を洗い流した。


ちなみにお風呂の際に使うシャワーは、ほぼ前世と同じ様な形態で存在しているのだが、ただしシャワーは魔道具なので魔力を溜め込んだ、いわゆる電池の様なものがなければ使えない。

そのためどうしても定期的な魔力補充が必要なのだそうだ。

大方体を洗い終わった俺は、モタモタ~と普段とは真逆とも言えるスローな動きで体を洗っているレオンに視線を向けた。


「 背中洗ってあげるよ! 」


そう軽く声を掛けると、レオンはビクビクッ!!と体を揺らしたが、やがておずおずと俺に背中を向ける。

俺は鼻歌を歌いながら泡立てたタオルでワッシワッシとレオンの背中を洗いながら、改めてその左半身をじっくりと見てみた。


火傷の様に赤黒く爛れて盛り上がった皮膚。

その上に小さな判読不能の文字がこれでもかとビッシリ描かれている。


これって一体何語なんだろうか・・?


フッと何気なく浮かんだ疑問だったが少々気になり、前世で何度も何度も読み返した『 アルバード英雄記 』について思い出す。


結局最後までそれについての記載は一切なかったな・・


細かい記憶をほじくりながら、やや離れた場所でまったりとミルク風呂に浸かっているモルトとニールに声を掛けた。


「 ねぇーねぇー前から思ってたんだけどさーレオンの左側に書いてある文字って何語なんだろうね?

そんで何が書いてあるんだろう?

これだけビッシリ書くって事は、相当忘れたくない事でも書いてあるんじゃないかなって思うんだよね。

モルトとニールは何か分かる? 」


二人は呆れた様な顔つきで横にフルフルと首を振る。


「 いいえ、全く分かりません。

そもそも怖くてそんな凝視できませんよ、普通は。

俺達も慣れたとはいえ、未だにこの距離でもそれを直視するのは怖いです。 」


モルトの言葉にニールはウンウンと頷いた。


ほぅほぅ、なるほどなるほど~?

俺としては好きなんだけどねぇ!


ダークヒーロー大好きおじさんとしては、何となく優越感を感じニンマリと笑うと、ジーーッとレオンのそのダークヒーロースキンをここぞとばかりに近距離で見つめる。


見た目百点。

そして肌触り的には紙やすりのもうちょっと粗いバージョン。

よく研げそう、爪とか。

多分指も油断してたら持っていかれる。


ゴクリっと唾を飲み込み指が巻き込まないよう丁寧にタオルで擦りながら、書かれている文字に再度目を向け、何が書かれているか考えてみた。


「 う~ん・・ " 我、ここに示す、本日の朝食はパンなり "    ーーとか? 」


そう言った瞬間モルトとニールは、ぶっ!!!と大きく吹き出し、大笑いをし始める。


「 なっ、なんで朝食べた物をレオンの半身に書くんすかっ!! 」


ヒィーヒィーと笑いながらニールがそう言うので、俺は顎に手を当てて考えながらそれに答えた。


「 いや、だってこれだけビッシリ書くって絶対忘れたくない事だったと思うんだよね。

歳をとると朝に食べた物忘れちゃうんだよ。

そんで夕食に同じ物食べちゃって、うわーってなるから最終的に紙に書く様になるでしょ?

ーーーそれ? 」


ヒャッハッハッー!!!

悶えながら笑ってる二人を俺はやれやれと呆れた表情で見守る。


まぁ、二人とも今は笑っていられるけどね?歳をとったら分かるから。

笑っていられるのは今のうちだよ~?


1日の終わりに書く日記ならぬ、朝書く朝ごはん日記。

その存在を思い出し ” そういえばそれ棺桶にちゃんと入れてくれたのかな? ” などと思いながらレオンの背中をジャバっと流した。

レオンはこれで終了。

今度は俺も~とレオンの前に回り込み背中を向けたーーーーが……?

レオンはタオルを持ったまま全く動かない。


「 レオーン?? 」


不審げにそう言いながら後ろを振り向くと、レオンは泣き出す一歩手前みたいな顔をしている事に気づきビシッと固まってしまった。
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