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17 レオンハルトという男

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” 高貴な血筋の子を王に──── ”


” 自分の子供を何としてでも王にしたい ”


そんな暗い歪んだ思想の元、結局はレオンハルトの母は彼がまだ幼い頃に何者かの手によって暗殺されてしまった様だ。


ありがちなドロドロ裏事情に思わずため息が漏れる。


恐らくその後のレオンハルトは、母を暗殺したであろう正妃とその重鎮達に幾度となく命を狙われ、心休まらぬ日々を過ごしてきたはずだ。


先程の剣の見事な腕前は、自分を守るための武器の一つ。

誰よりも努力し、きっと様々な武器を磨いていったのだろう。


俺はぼんやりとそんな事を考えながら、レオンハルトのために頭を下げるアルベルトを静かに見つめた。


自分の事ではないのにこうして謝るアルベルトや、性格は最悪そうだがレオンハルトに協力的なザイラス、それに無茶な命令でも従おうとしていた騎士達を見ていれば、その努力の程は分かるってもんだ。


無表情で自らも淡々とモンスターを倒していく王子様の姿を思い出し、その姿が泣きながら必死に剣を振る小さな子供にモワモワ~と変われば、胸はチクチクと痛みだす。


末端の側妃ってくらいだから大した後ろ盾もなかっただろうしな……。


何とも酷い話に気分はズズーン……と重くなったが、そんなレオンハルトにある転機ともいえる出来事が起こった。


それが正妃の妊娠と出産。


妊娠中の体調が常に思わしくなく余裕がなくなってしまった性悪正妃は、一旦レオンハルトへの攻撃を止め静養する事を選んだが、その隙に反正妃派が勢いづく。


その結果────正妃は子供を出産後、すぐに暗殺されてしまった様だ。


まさに因果応報。

彼女に相応しい最後だと思うが……その殺され方は随分と酷かったらしく、刺し傷から打撲痕、火傷に爪は全て剥がされていたというのだから、そのほぼ拷問に近いそれに一体どれだけの因果を背負ってたんだ?と恐怖を感じてしまう。


その手口からも恐らくは複数犯、その全員が正妃に相当な恨みを持った者達だったのだろうとは書かれてあったが、結局真相は闇の中。

そのことから恐らく王もこの件に関わっているんじゃないかな~と思われる。


清々しい程に真っ黒けっけ~な王宮事情に思わず乾いた笑いが漏れてしまった。


まぁ、レオンハルトの母以外の側妃や反正妃派の人達が何人も不可解な死を迎えている事から、多方面からの相当な恨みを買っていたと思われるので、もうこれは仕方ない。


しかし一番の問題は王妃が産んだ子供にあった。


「 ……レオンハルトの弟ってどんなヤツ? 」


何となく気になって話を振ってみると、アルベルトはピクッと肩を僅かに動かす。


「 私ごときの口から語るのは烏滸がましいですが……お母様である正妃様とは正反対の思想と性格を持つお方です。 」


心拍数、血液の流れ、何一つ変化はない。

どうやら嘘は言っていないようだ。


「 そうか……。そいつは良かったな。 」


” レオンハルトの弟は随分とまともな性格の持ち主でした ”


普通の兄弟ならここでめでたしめでたしでお話は終了。

しかし王位が関わってくるとそれで終了とはいかない。


国の情勢から察するに、身分に重きを置いている、いわゆる保守派は全員その弟君についているんじゃないかとみた。

それと残っている正妃派の連中も恐らくは弟君推し。


本来長子が継ぐ事になっているこの国で、王位継承権第1位のレオンハルトは、未だに根強く存在しているそいつらに、常にその地位を脅かされていると……まぁ、そんな感じだろう。

つまり今回の聖女召喚を成功させたかったのは、手柄を立てて自分の母を暗殺した女の子供に完全に勝つ為。

まだ頭を上げないアルベルトを見て、俺はポリポリと頭を掻きながらレオンハルトという人間の本質が見えた気がした。



弟君を暗殺しちまえば一番近道なのにな?



一番単純で、かつ確実な方法を瞬時に導き出し、ヤレヤレとため息をついた。


その方法を選ぼうとしないレオンハルトはやっぱり性根まで腐った奴ではない。


そう思うと自身がしてきた煽る様な態度は良くなかったな~と大いに反省し、バツが悪くてガシガシッと髪を乱暴に掻き回した。

そしてまだ頭を上げないアルベルトに近づくと、その肩をポンポンと叩き「 じゃあ、見張りは任せたわ。 」と声を掛け、そのままお言葉に甘えて休憩所へと戻る事にした。

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